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カミサマが助けてくれないので復讐します 2  作者: つくたん
森の巨木 ミリアム諸島
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森を損なうな

森を損なうな。それがリシタの長老シスに要求されたただ一つの条件。それを違えるわけにはいかない。"インフェルノ"は封印せざるを得ない、とアッシュヴィトは苦く思った。あれな何を召喚しても周囲への影響が大きすぎる。

「ま、ダカラといって弱いワケじゃナイんだケドネ!」

"グピティー・アガ"を引き抜く。衝撃波をはらんで空気が波打つ。神など喚べなくても十分アッシュヴィトは強いのだ。

「魔術式は見えねぇ。武具とかそういうモンはないな」

ゴーグル越しにドリアードを"観測"したアルフが知らせる。あの容姿なら単純に枝根の手足で殴打してくるだとか樹皮に絡む蔦を伸ばして絡め取ってくるだとか刃のように鋭い葉で切りつけてくるだとか、おそらくそういう攻撃しかしてこないだろう。木の特性を活かした攻撃を仕掛けくるだろうが、それ以外に何か特別変わったことをしてはこないはずだ。

「んじゃとっとと伐採するかぁ」

ドリアードに負けを認めさせるためには手足である枝根を断ち切ればいいだろうか。さすがに殺すわけにもいかない。重厚な黒槍を担いでハーブロークが好戦的に笑う。獲物を見つけた猛禽のような顔だった。

六尺棒による殴打は樹木に効くのだろうか。自分の得物が鈍器であることを少し悔やんだバルセナは1歩下がって檻の前に立った。ないとは思うが、万が一ドリアードがニルスを人質に取ろうとした際の護衛だ。

「………森を損なわないでね」

ダルシーが右手首の腕輪を変じさせ"ラグラス"を取り出す。その様子をきょとんとニルスが檻の中で見ていた。他の人間たちはともかく、彼女はアレイヴ族だというのにどうして武具を用いたのだろうか。アレイヴ族ならば必ず身体のどこかに魔術式の刺青が施されているはずで"火に汚れた者"などになる必要はないはずだ。刺青が見当たらないのはかぶっていた外套に隠れて見えないだけだと思っていたのだが、まさか。

「刺青が…ないの…?」

ニルスの問いにダルシーは沈黙で答えた。アッシュヴィトのレイピアが起こす衝撃波の風によって髪が煽られる。そこにあったのはひとと同じ耳。短く、尖らないそれ。

さらなる問いを振り切るようにダルシーが先手を切った。絡め取ろうと伸ばされる蔦を冷気の刃で薙いでいく。切り口は凍り、砕け散る。

「エア・スラッシュ!」

アッシュヴィトが衝撃波を放つ。堅牢な樹皮を深々と穿った。だがその衝撃波の刃はドリアードの動きを止めるには至らなかった。

動きを鈍らせることなくドリアードは右手にあたる枝を振り払う。丸太ほど太いそれはいくつかの枝が複雑に絡み合ってひとつになったものだ。枝についた葉を撒き散らして重量と遠心力で叩きつける。着地地点はハーブロークだ。

「重…っ!」

横に振り払われたそれを、槍を盾にしてどうにか受け止める。勢いを殺しきれずハーブロークの身長ほどの距離を押し出される。ぎしり、と力が拮抗する。その瞬間、ハーブロークの視界で何かがひらめいた。

「ハーク!」

咄嗟にバルセナが叫んだ。ひらめいたのはドリアードの左手だ。叩きつけた枝の右手と噛み合うハーブロークへ蔦で太さを補強した左手が振り下ろされた。文字通り叩き潰す。衝撃で土埃が舞う。その土埃がアッシュヴィトのレイピアの衝撃波が巻き起こす風に煽られて吹き飛ばされていく。

「あ…っぶねぇ……」

げほ、と土埃でむせながらハーブロークが安堵の息を吐く。叩きつけられた枝蔦から身を守ったのは青く薄い透明の結界だった。いくつもの小さな正六角形が縦横に並び大きな盾をなす。接触面がぱちぱちと小さく火花を散らす。

「"犠牲者による防衛"……間に合ったぁ…」

ハーブロークを咄嗟に守ったのは猟矢だった。"犠牲者による防衛"。それは万物を阻む結界だ。防衛という言葉から障壁を連想し作り上げた"歩み始める者"の能力のひとつ。犠牲者というくだりはあまり考えていなかったので特にその部分にかかる能力はない。攻撃だけではなく防御の能力もひとつくらいはほしいと編み出した。

元々能力は決まっていたし編み出したのはかなり前だが実戦に出すのは初めてだ。想像がうまく反映されず変な能力になったらどうしようかと思ったがきちんと想定通りの効果になってよかった。重い枝蔦の攻撃も割れることなく受け止められた。

「助かったぜ。ありがとな、サツヤ」

問題はここからの脱出なわけだが。ほっと胸を撫で下ろしたハーブロークは、さて、と考える。ドリアードの右手は巨槍で押さえてどうにか拮抗、左手は猟矢による結界で守られてはいるものの、これでは両手に挟まれている状態だ。後ろにしか退路はないが少しでも力の拮抗を崩せば危うい。ドリアードはまだ右手を振り抜こうと力を加えている。

左か右かどちらかの手を断ち切るなりして退路を作らなければ脱出できない。察したアルフが素早く"観測"する。

「左手、肩…っぽいところ!」

ひとに似た形をしているが、木は木。そう柔軟に動くものでもない。ひとの関節がするような動きはおそらく急激にその部分の枝根だけを成長させて収縮させているはず。つまり、何度も動かせばその箇所は疲弊する。

老朽化した場所ならば断ち切りやすい。それを見抜いたアルフの指示でダルシーとアッシュヴィトが同時に剣を振るう。アッシュヴィトは下から上に、ダルシーは重みを生かして上から。挟むように叩き切った。

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