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カミサマが助けてくれないので復讐します 2  作者: つくたん
森の巨木 ミリアム諸島
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渡り道の枯木は途切れて

確かに襲撃は激化している。だがトレント単独でどうにかできている。北部の集落の犠牲は心苦しいが瑣末なこと。北部の集落は元々アレイヴ族らしくない異端と扱われているところだ。鼻つまみ者が集まる地が処分されていっそ清々しくもある。トレントもそれを見越してわざと放棄したふしがある。

きちんとアレイヴ族の掟を守り森とともに生きることを決めている集落はしっかりとトレントが守護している。北部の集落は失ったのではない。切り捨てたのだ。あえて放棄しただけのこと。外部から見れば押されているように見えるかもしれないが、あの犠牲はトレントの想定内。

何も問題はない。激化している襲撃もしのげよう。戦力は足りる。それなのに頼れというのか。それも"火に汚れし者"どもに。

「お前らはこのミリアムの森が欲しいだけじゃろう」

建材、資材、薪。それらが必要だからと言って木を切り芽を刈るばかり。刈り取られていく森を顧みたことなど一度もない。

同盟に加わって協力しようなどと。甘言を弄して巻き込み、この地も戦火で焼くつもりに違いない。森を刈り取って資材としたいがためにそう言っているに決まっている。パンデモニウムも"コーラカル"も誰も何も変わらない。

「火に汚れた者め、下がるがいい」

まったく会談など。時間の無駄極まりない。吐き捨てたシスの言葉にルイスは肩を震わせる。

「…切り捨てた、だと」

あえて見捨てたのか。我々を。グイア、リウイ、ナルナ、テリウ、ミトイ、あらゆる里を。あそこで行われた非道の行いの数々もトレントの想定内だというのか。あの犠牲も、悲嘆も、絶望も。

小さすぎる。実験の素材には使えない。処分だ。そう言葉を交わすパンデモニウムの凶手が振り下ろされたアレイヴ族の少女は事切れる寸前までトレントが助けてくれると信じていた。トレントが樹木の猛威を振るい、今すぐ艦隊を沈没させてくれるに違いないと希望を抱いていた女は縄と鎖で縛り上げられ連れ去られた。

あれらが、想定内だと。酷ぇな、とハーブロークが思わずぼやいた。救えたものをあえて見捨てるなどとは。苦虫を噛み潰した顔でアルフも抗議の視線をよこす。返答は黙殺。

「間伐じゃ」

不格好に伸びすぎた枝は切る。邪魔な木は切る。余計な芽は摘む。アレイヴ族だって森を健全に育成するために植物にやっていることだろう。それをトレントがアレイヴ族に適用しただけのこと。

ルイスの怒気に平然とシスは返す。間伐されたくなければ健全に成長すればいい。一時の興味に惹かれて脇道に逸れるから剪定されるのだ。

異端は刈る。過去、"耳無し"を迫害したように。精神的にも肉体的にも健全で真っ当なアレイヴ族のみ残してあとは切り捨てる。トレントの意思に従ってそうしてアレイヴ族は今までやってきた。シスの言葉をダルシーはうつむいて聞いていた。

「妾たちの前でそれを言うか」

なおも言い募ろうとしたルイスをアッシュヴィトが制する。気持ちはわかるが、そのあたりの話は今すべき話ではない。ルイスと同じ意見ではあるが、ここは気持ちを殺して話を進めなければならない。ここでアレイヴ族のやり方について対立して溝を深めている場合ではない。非道について糾弾したいがそれは後。

「パンデモニウムによって世界中の森が燃えてるヨ。なのにナニもしナイノ?」

守るのは自分たちの森だけか。トレントのお膝元であるミリアム諸島だけか。従順な信徒だけか。

それは本当に森の調停者といえるのだろうか。森の調停者と自称するならば、すべての森を守ってこそではないだろうか。

ビルスキールニルの歴史伝承によると、古来、アレイヴ族は各地に散っていた。生まれ、成人すると世界中を巡業する旅に出る。そうして世界をめぐり、希望を育むように各地の森を育んでいた。そして祖であるミリアム諸島に帰り、老後を過ごす。それがいつしか生まれから老い死ぬまでミリアム諸島に引きこもるようになった。希望の巡業者は森に束縛されるようになった。

過去、アレイヴ族は世界中の森を巡業していた。その歴史はリシタの長老であるシスだって知っているはずだ。すべての森を守るために今こそ立ち上がれ。往古、先祖がそうしたように。そうアッシュヴィトが論を展開する。

それを聞いてもシスの表情は変わらない。削り出された木材の木目が変形しないのと同じように表情ひとつ変えず眉すら微動だにしない。歴史は知っている、だがそれが何だと言いたげな表情だった。

大樹を手斧で切り倒すようだとアッシュヴィトは思った。会話は平行線で埒が明かない。アレイヴ族に君臨するこの巨木を小さな手斧だけで切り倒すような。達成は非常に困難で、途方もないことに挑戦する疲労感ばかりが残る。

ここからどう切り崩して説得していくか。切り口を探すアッシュヴィトに割り込んで、うまく言えないけど、と猟矢が口を開いた。

「えぇと、頓珍漢なこと言ってたらごめんなさい。だけど……」

同盟の誘いと種族の有り様の対立などという難しいやりとりなどわからない。だがここまで傍聴していて素直に思ったことを主張してもいいだろうか。一応は同盟の旗印の片方なのだし猟矢なりの意見を差し挟んでも咎められはしないはずだ。

言ってみろ、とルイスが促した。何を言っても揺るがぬ巨木を猟矢の意見の斧で切り倒せ。

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