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カミサマが助けてくれないので復讐します 2  作者: つくたん
森の巨木 ミリアム諸島
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古木の対談

どう見ても民家にしか見えない小屋の中に入る。玄関扉を開けるとすぐ正面に円卓が置いてあり、人数分の椅子が置いてあった。部屋の脇には所帯じみた調理台と水瓶と野菜籠。やはりどう見ても民家であった。

おそらく、外部の人間をできるだけ里の中に入れないように、里の中でも最下層のこの民家を会談の場として仕立てたのだろう。そう考えるとあの妙に時間のあった待機時間も説明がつく。あれはこの民家を会談の場に使えるよう片付けて用意していたのだ。

円卓に座っていたのはひとりのアレイヴ族の女性であった。年の頃は妙齢の女性であるが、魔力の量と質によって加齢が遅まる世界において見た目から推察される年齢など意味がない。アレイヴ族の中心地であるリシタの里の長老であるのだから相当の歳はいっているはずだ。

肩で切り揃えた銀髪に彩られ存在しているのはアレイヴ族の象徴である長く尖った耳。深緑の瞳は老成した厳格さを漂わせている。胸と腰周りだけを隠し、肩も腹も足も剥き出しの格好をしている。晒された二の腕には複雑な模様の魔術式の刺青。長くすらりと伸びた褐色の手足は右の足首に布が巻かれていた。

これがリシタの長老、シス・クァーユであった。

「久しきじゃの、異端の芽よ」

「端に追いやられれば会うのも難しかろうに。幹の芽や」

皮肉の応酬を交わしてルイスが手頃な椅子に座る。それに倣って猟矢たちも座る。大勢の対談など想定していない食卓机はやや狭かった。

この時ばかりは自分の恵体が恨めしい。ハーブロークは居心地悪そうに身を縮めた。場所の節約に恋人を膝に載せてやろうか。考えて止めた。

全員の着席を確かめ、さて、とルイスが口を開いた。述べるのは現状確認、そしてそれに対する互いの意見だ。

今現在、ミリアム諸島はパンデモニウムに狙われている。クレイラ島が"コーラカル"に加わったことで焦りを感じたのか、ミリアム諸島への襲撃は絶えない。頻度も規模も激化している。パンデモニウムの要求は彼らの軍門に下ること。服従し、支配されよということだ。

対する"コーラカル"はミリアム諸島も同盟に加わり共同してパンデモニウムに対抗することを提案している。今はトレントが追い返しているががそれもいつまでもつか。トレントが敗北すればミリアム諸島に抵抗できるものはないだろう。アレイヴ族の個々の戦闘能力などパンデモニウムの無数の武力の前では無意味。そうなる前に共に協力してパンデモニウムを追い払おうというのがこちらの提案だ。

「世界は動こうとしているのにアレイヴだけ森にこもっているつもりか?」

軽く現状確認を済ませた口でルイスはシスに問う。対談の仲立ちではあるが、個人としては"コーラカル"側に味方したい。

だって世界はあんなにも広い。外の世界に触れて自らの矮小さを思い知った。今こそアレイヴは殻を破って世界に触れるべきなのだ。こんなちっぽけな島に引きこもることなどない。

そう主張するルイスに敵意を含んだ冷ややかな視線が返ってきた。それに怯むことなくルイスが続ける。

「グイア、リウイ、ナルナ、テリウ、ミトイ、そうして焼き出された集落がどれだけある?」

パンデモニウムの襲撃はトレントが追い払っている。だがそれも限界が見え始めている。激化した頻度と規模に疲弊してミリアム諸島の北部の集落は徐々にパンデモニウムに呑まれている。

集落は焼かれ、住民は殺されるか連れ去られた。ルイスが長老をつとめるグイアの里も同じ。このままでは北から少しずつ侵食される。その手がこのリシタの里やツリー・クィホロに及ぶのはそう遠くない。

ぎりぎりになるまで動かないつもりか。それとも滅ぶのも運命と受け入れて森とともに焼ける気か。

「この地に"希望"はなく、古めかしい因習に"束縛"されているだけではないか」

アレイヴ族が信仰するのは樹の属性。樹は木であり森である。樹が象徴する要素は"希望"そして"束縛"だ。芽生えを希望の兆しとし、地中で絡まる根の様子を束縛の鎖と見立てている。

さて、それを信仰する我々アレイヴ族はどうだろうか。森にこもり、すべてをトレント任せにしていいのか。信仰が掲げる"希望"の証明者にならなくていいのか。外部と関わらないという因習に"束縛"されたままでいいのか。

ルイスの主張をシスは黙って聞いていた。あらかた喋り終えたルイスが一息吐いた頃を見計らって、口を開いた。

「言いたいことはそれだけか?」

馬鹿馬鹿しい。そして忌々しい。吐き捨てるようにシスは言う。

どうやら異端の芽は外の世界に触れたがために錯覚を起こしてしまっているようだ。何のために我々は自分のことを芽と呼んでいるのか。アレイヴ族は森とともに生きる存在。森の外に出て生きていけないのだ。確かに外の世界は広い。だが根付く土壌がない。根付く土壌もないまま飛び出したとしても待っているのは芽生えもなく枯れ果てる運命。

トレントに要求され作った会談の場で繰り出されたのがこんな世迷い言か。くだらない。馬鹿馬鹿しい。忌々しい。トレントに要求されなければこの場で手討ちにしてやったものを。

「火に汚れた者の言葉など聞きはしない。これ以上は耳と口が汚れる」

会話もしたくないし同じ空間にもいたくはない。心底嫌そうにシスは顔を逸らした。

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