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カミサマが助けてくれないので復讐します 2  作者: つくたん
砂漠の島 クレイラ島
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雷神と雷獣

「そっちも終わったみたいだね」

凄まじい雷鳴で鼓膜が痛い。耳を抑えるスティーブはヴィリに担がれていた。クレイラ・セティのために魔力を使ったことで疲労困憊だった。

「大丈夫かよ、顔色悪いぞ」

「心配ないよ。ヴィリが膝枕してくれれば…痛っ!」

ヴィリの肘鉄が決まった。床に放り捨てるぞと言いつつもしっかり支えているのだから微笑ましい。玉座の間からまろび出てきたヴィリはふとアッシュヴィトの傍らに見知らぬ人物が立っていることに気がついた。

紫電を散らす長布をまとい、槌を携えた人ならざる気配。これは。察したヴィリがその場に膝をついた。その際に夫を放り出してしまったが無事立て直してヴィリに倣う。

その背後から、ぬっと巨狼が顔を見せた。砂漠の砂のような褐色の毛皮の狼は自らの主を見つけて駆け出した。尻尾を振りながら雷神トールの足元を回る。その様子は図体が大きいだけのただの犬のようで、神の眷属の威厳などあったものではない。

「威厳を欠かすなと言ったろう、駄犬」

鼻先に小さな雷撃を与えられて、クレイラ・セティは慌ててその場にかしこまる。本当にただの無邪気な犬のようだ。その様子がおかしくて、猟矢は思わず噴き出した。

「お前…神に対しなんつー…」

自分も信心など薄い方ではあるが、いくらなんでも神を相手に噴き出したりなんかできない。確かに状況だけを抜き出せば微笑ましい和やかな光景ではあるが。ハーブロークが口元を引きつらせた。

信心深いヴィリなどは神を前に緊張した面持ちで膝をついているというのに。膝をつくどころか立ったまま、しかも噴き出すだなんて。猟矢は一体どういう感覚を持っているのだ。

「え? なんかおかしい?」

「割と、結構…だいぶ…かなり」

目の前の神の存在に竦んで動けない。竦みきってしまって膝をつく余裕さえもない。

以前にもミーニンガルドで水神ティアマトが召喚され側に降り立ったこともあったが、あの時とは違う。水神の気配はまろやかで滑らかで穏やかなものであった。戦闘中で目の前の敵に集中していたこともあって、神の気配に威圧されて竦むことなどなかった。

穏やかな水神の気配に対し雷神の気配は苛烈で荒々しい。一挙一投足を叱られている気分になる。膝をつくためだろうが何だろうが、下手に身動きすれば咎められそうな。この時でさえ言葉に気をつけなければ鼻先に電撃を食らいそうな気がする。

信心薄い自分ですらこんな状態であるというのに、猟矢はなぜ平然とできるのか。これが規格外か。

「だって。アンマリ威圧しちゃダメだヨ?」

「…愛おしき我が主の命であるなら」

かしこまりつつも尻尾をちぎれんばかりに振っている威厳のかけらもない眷属をやや呆れた目で見た雷神はほんの少しだけ気配を和らげた。緩んだ気配に一同の肩の力が抜ける。

威圧感をいくらか弱めた雷神は膝をつく信徒を振り返った。視線が向けられたのを感じ、信徒ふたりは深く頭を垂れた。

「我が眷属の助命に尽力したそうだな」

眷属の傷ついた身体を癒やすために魔力を分け与えたとか。事情は眷属から聞いた。

信徒の努力を讃えよう。労いの言葉にスティーブは低く下げた頭をさらに深くした。

「汝らの更なる研鑽を期待する。……愛おしき我が主よ、我は帰る。道を」

かん、と槌を軽く床に打ち付ける。雷神の魔力が走ってゆっくり石門が開く。宙を踏み石門へと踏み込んだ雷神は、その身を門の中へ隠す寸前に一同を振り返った。

アクマリク(死者は)ボアハウディ(我が魂の座にて)ヴィスル(生きることを)ナ・ブロミル(約束しよう)テルクマリダドリョ(あとは人の努力だ)シャフダスルヴ(砂の民よ)

そう言い残し雷神トールは門の中へ身を滑らせる。静かに門扉を閉じた石門は元通り指輪に変じてアッシュヴィトの指におさまる。

「なんて?」

「…死者の魂は英霊として召し上げる、ってさ」

ミュスカデに無残に殺された領主もその妻も、全力を賭して燃え尽きたグウィネスも。神が讃えて祝福しようと。その後のことは人間次第だ。領主とそれに匹敵する政治的存在が不在という問題だとか、それらはすべて人間に任せると。

そう言うことを砂語で言ったのだと翻訳したスティーブは、はぁ、と長く深い息を吐いた。魔力を分け与えた疲労よりも神を前にした緊張の疲労の方が勝つ。無理もない。神話に伝わる神なのだ。

神秘学者として神を研究対象とし、実際に神に相見えたらと想像したことはある。世に伝わる伝承の真実について聞いてみたいと思っていた。だが実際に会ってみればそんな想像など吹き飛んだ。ただ畏怖し膝を折るしかなかった。心酔する氷神への敬愛さえ苛烈な雷光で焼かれて溶かされるかと思った。

「ねぇヴィリ、やっぱり膝枕……痛っ!!」

鋭い一撃がスティーブの鳩尾を打った。微笑ましい光景を雷狼は穏やかな目で眺めていた。

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