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カミサマが助けてくれないので復讐します 2  作者: つくたん
砂漠の島 クレイラ島
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雷撃に焼かれた昔日

どすり。と。太いシャフトはミュスカデの胸を貫いた。だが命を奪うまでには至らない。

「は…ははは!」

敵意も害意も殺意も悪意も。所有物が発する感情はどんなものでも自分のもの。それが殺意とほんの少しの懐古を込めた弩矢であっても。

今はただ、自分の手元に帰ってきた可愛い弟が感情をこちらに向けているということに喜びしか感じない。高笑いするミュスカデの口から鮮血が漏れた。即死には至らなかったが、シャフトは心臓を貫いていた。

「"インフェルノ"」

強い衝動を"インフェルノ"から感じる。眷属の怒りを受けた雷神が自分を召喚せよと主張しているのだ。その要求に従ってアッシュヴィトは神を召喚する石門を呼び出す。

神の力を借りなくてもミュスカデは倒せる。だがここに喚ばなければ神の怒りは収まらないだろう。

「天空を満たす光、一条に集いて怒りのすべてをそこに刻め!」

重厚な石門に浮かび上がった雷の陣を見やりながらアッシュヴィトは雷神を召喚する詠唱を舌に載せる。

強い衝動が胸からこみ上げてくる。神の感情に同調して自身の感情も振り回されている。

「まばゆき光彩を負う雷の軍神、大地震わす汝の審判を仰ぐ! 天雷の軍神トール!」

その衝動のまま、アッシュヴィトは一気に詠唱を完成させる。呼び出しの声を待っていたとばかりに石門が内側から跳ね開かれる。降り立ったのは槌を手にした女だった。雷光をまとった長布が翻った。召喚された雷神は主を振り返ることもなく憤怒と罵倒の一撃を振り上げる。

「死せよ不届き者!!」

怒号を発して雷神トールは槌を振り下ろす。叩きつけた槌から電撃がほとばしる。

我が眷属を害し、民を傷つけ王を弑した罪罰だ。死せよ。苛烈な雷神は審判を下す。刑罰の炸雷が床、天井、壁を走り、伏したままのパンデモニウムの雑兵たちごとミュスカデを灼いた。

「はは…最っ高…!!」

神の力を直接受けることができるとは。こんな体験、世界の誰もしたことがないだろう。ということはこの経験は私だけが持っているもの。自分だけが独占しているもの。自分だけのもの。"強欲"の名を持つ身として最高の栄誉ではないか。

たとえこの身体が雷撃に焼かれてちりひとつ残らなかったとしても、それは。

「あんたが持ってないものを私が持つことができるなんて!」

しっかりアルフを見据えてミュスカデはそう言った。それが遺言になった。

再度の電撃がミュスカデを焼く。強烈な電撃は一瞬で肉体を蒸発させる。かつん、と床に落ちその場に残ったのは消滅を免れた"ドッペルゲンガー"と、そして。

「…ぁ……」

彼女の髪を彩っていた髪紐だけであった。薄緑色のレースが縫い付けられた髪紐はあの強烈な電撃にも焼かれることなく残った。まるで残るべくして残ったように。

「…リボン?」

見た目は何の変哲もない髪結い紐だ。細い紐を何本も束ね途中にビーズを挟んで編みあげただけの。特殊なまじないだとかが込められてもない。そのあたりの店で安価で売っていそうなものだ。

アルフがその髪紐を拾い上げる。アルフはその髪結い紐に見覚えがあった。それは、姉が故郷に火を放つ前、まだ平穏な日々を送っていたあの時に。

「…俺が贈ったやつ…」

引き取られた孤児だから、はっきりとこの日と定められた誕生日がない。いつ、どこで生まれたかもわからない子供。姉はそのことに拘泥していた。そんな姉に、じゃぁ今日を誕生日にしようと無邪気に笑って小遣いで買って贈ったことがある。

この日と定めた誕生日がないということは、逆に言ってしまえば毎日が誕生日なのだ。そう幼く拙い言葉で慰めると、姉は笑ってくれたのだ。

その言葉を実行するために毎日何かしら姉に贈っていた。大抵は河原で拾ったきれいな石だとか野に咲いていた花だとかそういうものだったが。姉はそれらを全部受け取って、大事にとってくれたのだ。石は化粧箱にしまわれ、花は押し花にされて。

どんなものでも受け取ったし、どんなものでも欲しいと言った。今思えば、それが姉の"強欲"の始まりだったかもしれない。それを確かめる術はもうない。

「んで、残ったのは姉としての情ってか」

「違ぇよ」

いい話だねぇ。ぼやくハーブロークの言葉を即座に否定する。これはそんな美しい話じゃない。

「あの"強欲"のことだ。いったん自分のものになった物を捨てることができなかっただけだろ」

強欲に溺れたミュスカデが最後に残したもの。それは弟との思い出だった。そんな美談であってたまるか。アルフは吐き捨てる。

「…ったく、ジョーダンじゃねぇ…」

遺したのは姉弟の思い出の髪紐。そんな最期を遂げられたら忘れられなくなってしまう。そうすることによってミュスカデはある意味アルフの記憶を占有したといえる。まったく最期まで"強欲"であった。

鼓膜にこびりついた高笑いを振り払うようにアルフは首を振った。本当に冗談じゃない。

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