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カミサマが助けてくれないので復讐します 2  作者: つくたん
砂漠の島 クレイラ島
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水槽の箱庭

密やかに迫る者たちに気付かず、ミュスカデは朗々と演説を説く。

「クレイラ島はもはや我が箱庭。ならばそこに住む民たちも自由にしてよいということ。そうでしょう?」

この玄関ホールの正面に設えられたテラスからは眼下のホールだけにとどまらず、扉と窓を開ければ城下町も見えるのだ。今は砂嵐の季節だが、特殊な構造に阻まれて王宮の内部までは砂が入らないようになっている。王宮の周りに建てられた柱に掘られた溝が砂をはらんだ風を受け流して気流の壁を作り、吹き荒れる砂嵐から王宮を守っているのだ。

「まずはそう、あの気持ち悪い言語を話す人間は殺しましょう。何言ってるかわからなくて不愉快だもの」

シャフ族にしかわからない言語で反乱の相談をされても困る。喋る言語は共通語のみとし、砂語を話す者は処刑する。だがそれではほんの一握りの人間しか残らないため、一斉処刑には猶予を設ける。その猶予の間に共通語を習得すればよし、しなければ処刑する。なんと慈悲深いだろうか。

「そして信仰対象は神などではなく私に。何に対して祈るのにも私よ」

命乞いも何も。喜ばしいことも悲しいこともすべてだ。助けてくれと願う時も敵に死をと祈る時もミュスカデでなければならない。この箱庭はすでに自分のものなのだから、他の存在()などあってはならない。

「その2つをまずは法律として施行しましょうか。他は適宜付け足していきましょう」

箱庭は放置して眺める派ではあるが、眺めるにもまずは環境を整えなければならない。それなりの秩序をもって環境を作ってやらねば箱庭はいともたやすく崩壊してしまう。

魚を飼うのには水槽と水さえあれば足りるが、砂利を敷き水草を植えてやるのと同じだ。水草だけでなく魚礁となる煉瓦片を入れてやったりだとか、流木を沈めてやったりだとか。そうやって見目も環境も整えてやると魚は長持ちする。

まずはざっくり環境を作ってやって、不要だと思った魚は網ですくって捨てればいい。環境に合わず死んでしまう魚も出るだろうが、それはそれ。そこで死ぬ程度の雑魚など水槽には不要だ。

「言っておくけどこの法、お前たちレッター級にも適用されるのよ」

つまり、と形の良い唇が動く。なぜこのホールに集められたのかをこれから説明しよう。すらりと長い指を横にひと薙ぎした。その瞬間、レッター級の数人が血を吐いて倒れる。少し遅れて、また数人が地面に伏した。

「その者たちは私以外に祈った。だから処刑してやったわ」

神の眷属であるクレイラ・セティを拘束するとは恐ろしい。ミュスカデ様は神が怖くないのか。あぁ恐ろしい、神よ。そう雑談していた声をしっかり聞いていた。

箱庭にあって自分以外に祈るとは。だから首を飛ばした。隣に立っていた者の首が飛んだ光景に驚き、思わず祈った者も同様だ。自分はこんな唐突に死ぬようなことにはなりたくない、神よどうかあの理不尽な網から我を守りたまえと心の片隅にでも願った人間の首をはねてやった。

我こそがこの世の神なのだ。それに沿わぬ人間など要らない。

「この箱庭は私の物。"強欲"ミュスカデ・アベットのものなのよ!!」

「…はん」

冷笑が割り込んだ。それと同時に突っ込んでくる黒い大槍。まるで雷が落ちるかのように、唐突としてそこに現れた。レッター級の数人をなぎ倒しその輪の中に降臨したハーブロークは粗野に笑った。

水槽に外来魚が放り込まれた。巨大な黒い魚は非常に凶暴で肉食。水槽を泳ぐ観賞魚を蹴散らし食い荒らしていく。このクレイラ島を水槽と例えるならばそんなイメージだろうか。ふとそんな光景がハーブロークの頭によぎった。

「…どちらかというと鷹じゃない?」

水中を豪快に泳ぐ肉食魚よりも、樹上から滑空し水面に蹴爪を突っ込んで魚を狩る猛禽のイメージの方が正しい。ハーブロークと背中合わせに立ったバルセナは右手首のバンクルに手を添える。

「夢の戸を叩き眠りの闇に沈め」

バルセナの魔力が跳ね上がる。武芸に長けたベルベニ族ではあるが、武器以外も所持している。それは武では対抗できない相手に用いるもの。これを持つがゆえにグウィネスは彼女に武具を授けなかった。新作を与えて戦力を増強しなくとも十分やっていけると判断した。その理由。

ヴィリの"ギ・シリャソフ"のベールに隠された猟矢たちがそれぞれの持ち場につき、スティーブたちが玉座の間へ駆け込むまでの時間を呼吸で数えつつ、バルセナは召喚武具に魔力を注ぎ込む。

「深き静寂に意識閉ざせ…夜の女神"ノート"」

ずるりとバルセナの足元から起き上がるように立ち上がったもの。それは夜を切り取ったような真っ黒な衣をかぶった女の精霊だった。

輪郭すらもおぼろげな夜影の精霊。深くかぶった布からかろうじて月のように真っ白な肌と唇が見えた。バルセナの召喚に応えて降り立った精霊は夜空に現れた彗星のように鋭く叫んだ。

「       」

その声は人間には聞き取れない音声だ。短く鋭く、まるで星の一瞬の瞬きのように。その声を聞いた者はその場にぐらりとくずおれた。バルセナと夜の女神"ノート"を中心にして、一斉に。

死んだわけではない。すやすやと寝息を立てて眠っているだけだ。だが、それらが起きることはもうないだろう。夜の女神"ノート"は対象を永遠の眠りに落とすのだ。明けることのない夜の帳に包んで眠りの揺籃の中に閉じ込める。

とても静かな制圧だった。夕暮れに迫る密やかな夕闇のように。沈黙のうちにすべてが終わった。

頭上のテラスを見上げ、ほら、とバルセナは形の良い唇を動かした。ギ・シリャソフ(見えない災厄)よ、夜闇に乗じて来たれ。

「突剣技――エア・スラッシュ!」

ミュスカデの背後からアッシュヴィトがレイピアを振り抜く。刃にまとった衝撃波をミュスカデへと叩きつける。身を翻してそれを回避したミュスカデは、にぃ、と口端を吊り上げた。

「…は! 来たか"コーラカル"!」

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