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カミサマが助けてくれないので復讐します 2  作者: つくたん
砂漠の島 クレイラ島
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人ができる努力とは

神は助けない。だから助けさせるのだ。その信条を胸にするアッシュヴィトが神頼みの賭けを鼻で笑う。

どれほど信仰しても神は助けてくれない。世界で最も敬虔な信徒の国であるビルスキールニルが滅びた時、神は助けをよこさなかった。直接関われないというルールによって遠回しに助けることさえもなかった。もしあの時、神がそうするのであれば"偶然"によりパンデモニウムは進軍が思うようにいかず、"偶然"によって民は避難が完了し、兵たちは"偶然"によって侵入者を返り討ちにできただろう。それがなかった。だからアッシュヴィトは神の助けを信じない。手を差し伸べてくれるのを待つことはしなくなった。

それを努力が足りないとは。まったく。神を信じる者のなんと哀れで盲目な信仰か。

神はこの自体を知っている。見ている。自らを信奉する民の長である領主が無残に殺されたことも。自らの力を割譲したクレイラ・セティが無様に拘束され這いつくばり屈辱の汚泥に伏しているところも。こうして我々が抵抗しようとしているところも。

逆に言えば、ここで神の態度ははっきりするだろう。もし神が本当にこの世界を愛してくれているのならば、"偶然"が重なって物事はうまくいくはずだ。だがそうならなかった場合、神はこの世界を捨てたということ。ビルスキールニルが滅んでからずっと我々は神に捨てられたことに気付かず、滑稽にも救済を祈っていたことになる。

神の態度を明らかにするためにもこの作戦は重要だ。アッシュヴィトがそう論を展開しようとした時。

「あら! わたくしを何だと思っていますの? "マギ・シス(大魔師)"グウィネス・ガラトでしてよ!」

グウィネスは自信満々にそう言ってのけた。神が助けてくれなかったのは努力が足りないからだ。信仰の度合いの話ではない。神が助けざるを得ない状況を作り出すための努力の話だ。

呆然と立ち尽くし天を仰ぎ救済を待つだけだと誰が言った。そうではない。そんな愚図ではない。この信徒を助けなければと神に思わせなければ救済は来ない。つまりグウィネスの信条はアッシュヴィトのそれと同じということだ。

言い争う気はない。むしろ同じ意見信条であるのだから言い争いにはならない。

「ごめんなさい、誤解を与える言い方でしたわ」

決してビルスキールニルの民が呆然と救済を待つ愚図であったから滅んだのだと言いたいわけではない。言い争いをしたいつもりではないと素直にグウィネスは謝罪した。

「…うぅん…ゼフィルにはわからないデス…」

むす、とゼフィルが唸る。まだほんの小さな少女であるゼフィルにはまだ複雑なことは理解できない。人間よりかは長命の竜族であるので見た目以上に中身は成熟しているはずだが、パンデモニウムによって角を切り落とされた際の記憶障害でいくらか幼児退行してしまっていた。幼い思考ではこのやりとりを理解できなかった。

「つまりね、えぇと……グウィネスががんばってくれるって話さ」

眉を寄せて唸るゼフィルにスティーブが噛み砕いて説明する。クレイラ・セティの眷属の精霊の力を借りるのだと平易な言葉で説明を受けたゼフィルはぱちぱちと目を瞬かせた。

「でもグウィネスは言ってたデス。セイレ(精霊)を召喚するのはとてもムズかしいって…」

武器に変じたり属性元素を操ったりするようなものとは比べ物にならないほど繊細な技術を要する。しかもクレイラ・セティの眷属の精霊は誇り高い。力を貸せと言われて素直に頷くほど安くはない。ましてやただの伝書鳩代わりなどと聞いては首を縦に振りはしないだろう。

それを用意できるのか。しかも複数。それとも自分の思考が幼いから考えに至らないだけで、そのことを解決する手段が大人たちにあるのだろうか。心配するゼフィルにグウィネスが答えた。

「わたくしを誰だと思っていますの? 心配することなんて何一つないですわ」

"アトルシャン"の、否、世界中で最も優秀な武具職人だ。やろうと決めたものは何だって作れる。

確かに並の職人ならば不可能だろう。だがグウィネスならば作れる。世界が認めた最高の職人だ。その職人が作った武具で召喚されたとなれば、精霊にとっても誉れとなる。数千年にひとりの奇跡と呼ばれる職人が手掛けた逸品に喚ばれることなどそうあることではない。それに召喚され使役されたとなれば精霊たちにも話のタネとなるだろう。

「問題はミュスカデとやらですわ」

武具を複写する。複写したものは記憶され、好きに出せる。ミュスカデが過去にどんな武具と戦ったのかなどわからないが、一般に出回っている低級品くらいなら網羅しているだろう。おそらく、パンデモニウムが保持している武具もいくつかは複写しているだろうし、何人かのカーディナル級や名うての戦士のものも複写済みのはず。

その対応策を考えなければならない。もう理論は頭の中で組みあがっている。過去のものを網羅しているというならば、まったく新しいものを作ればいい。過去のレパートリーにはないものならば、その対抗策もまだない。勝ち筋はそこにあるとグウィネスは読んでいる。

「能力も外見も今までにない新作を皆に作りますわ。それでミュスカデを討ってくださいな」

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