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カミサマが助けてくれないので復讐します 2  作者: つくたん
砂漠の島 クレイラ島
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砂の下で

逃亡劇の直前、ちらりと見ただけのミララニの連中よりかは知っていると思う。そう言ったアルフは備忘録代わりの手帳を取り出した。この中にはパンデモニウムの情報が詰まっている。自分で見聞したものから噂話、世界情勢に至るまで。その手帳から、パンデモニウムとして現れてから今までのミュスカデの情報が書いてあるページを呼び出す。

ミュスカデ・アベット。"強欲"の名を持つカーディナル級の女性。その二つ名は逸した欲と彼女が所持する武具に由来する。

「"ドッペルゲンガー"。武具を複写する武具だ」

一度その能力を見た武具は複写できる。複写して自分のものにする。それだけではない。過去に複写したものを記憶し、それを呼び出すことができる。つまりミュスカデは何十何百何千何万もの武具を持っているのと同義であるといっても過言ではない。

「でもよぉ、レパートリーがいくつあろうが結局はひとつだろ?」

どれほど複写先があろうとも"ドッペルゲンガー"自体はひとつ。同時に別の武具の複写を並行して展開できないはずだ。巧妙に切り替えて複数を相手にしているように見せかけるだろうが、結局はひとつを相手にしているにすぎない。それならば個々に対処すればよいのでは。

そう言うハーブロークに、まぁなぁ、とアルフが返す。攻略法としてはそういうことなのだが。

作戦行動に失敗もしくは敗北すればオーダー級による制裁、ひいては死という罰則を持つパンデモニウムにおいて、それでもミュスカデはカーディナルの地位にいる。それは今まで敗北したことはないということだ。攻略法が露呈していても。

「それにアルフの"観測"があるし」

何が出てくるか特定することはできないが、武器か魔法か召喚か時空間干渉か、どんなものが出てくるかはとっさに判別できる。それさえわかれば対処はいくらか楽になる。

それに諸刃の剣ではあるが、猟矢の"歩み始める者"のうちのひとつ"狂信者による理性"での武具発動無効化能力を使えばミュスカデは丸腰同然。こちらも武具は使えなくなるが、素手での戦いならば人数差で勝てる。

逆に複写される危険もあるが、そこは大した問題ではないだろう。"狂信者による理性"の武具発動無効化は術者を中心として一定範囲に展開されるもの。敵味方は関係ない。猟矢が発動しようがミュスカデが複写したものを発動しようが結果は変わらない。誰もが等しく武具が使えなくなる。

おそらくミュスカデは武具発動無効化を複写はしないだろう。人数差で多勢に無勢というのもあるが、なによりクレイラ・セティがいる。神の力を割譲された獣は武具など使わず神の力を行使する。つまり、"狂信者による理性"を複写して武具の使用を禁止するということは、クレイラ・セティの持つ神の力に対抗する術を自ら放棄するということ。使えば最後、拘束武具から解き放たれたクレイラ・セティが神の怒りの雷撃でミュスカデを貫く。だからミュスカデは自らそれを使わないだろう。

「複写か。だとすると下手に武具を出すのは危険というわけか?」

「いや、逆だ。使わなきゃ勝てねぇよ」

ハーブロークの言葉を否定する。複写を警戒して武具の使用を控えることこそが罠。複写がどのようにして行われるかはアルフにはわからないが、出し惜しみをすればそれだけ複写される危険率は高まる。つまり重要なのは複写される前に倒す短期決戦。

ベイト(待って)

会話に割り込み、制止したのはヴィリだった。ミュスカデの撃破ということで話が進んでいるが、クレイラ島の住民として言っておきたいことがある。

ヴィリの言いたいことを察してスティーブが素早く間に入った。しかしながらヴィリときたら頑なに共通語を話そうとしない。共通語を話せないわけではない。理解もできるし話せもできる。日常会話なら問題ない。だから喋ればいいのに砂の民である誇りがそうさせないのだから、まったく。

「大事なのはクレイラ・セティの解放だ…ってさ」

最悪、ミュスカデは逃していい。クレイラの民にとってクレイラ・セティの救出こそが重要なのだ。もちろんミュスカデを討てれば言うことはないのだが、優先順位の問題だ。クレイラ・セティかミュスカデか、二択を迫られた時、ヴィリは前者を選ぶ。

それはミララニの連中も同じだ。猟矢たちがミュスカデを追うのは勝手だが、クレイラ・セティを救出した瞬間ミララニの目的は達成される。

「つまり、助けるまでは協力するけどそれ以降は保証しない…ってことか?」

「そういうことだね」

戦っている最中の猟矢たちを置いて早々に撤退するような薄情なことはしないが、もし二択になったらの話だ。絶対に深追いはしない。

「わかってる。俺たちだって深追いなんざしねぇよ。ジョーダンじゃねぇ」

そもそも今回、猟矢たちがクレイラ島に訪れたのは状況視察のためだ。クレイラ島で何が起きているかを調べ、そして上に報告することだ。問題解決はその次。ミュスカデの討伐どころかクレイラ・セティの救出すら任務に含まれない。

姉だからといって私情を挟むつもりはない。任務は遂行する。私情に動かされない冷静さこそが"観測士"には大事なのだから。アルフはゆるりと首を振る。

「そういや、通信武具が使えないって話、どうなった?」

現状はこの通り把握できたし必要な情報共有もできた。これを報告すれば任務は達成となるわけだが。しかし通信は妨害されて通話することができない。その問題を解決するためにグウィネスがどうにかすると言っていたのは聞いたが、それはどうなったのだろう。

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