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カミサマが助けてくれないので復讐します 2  作者: つくたん
再び、ベルズクリエ
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古きを廃して新しきを

「だから排斥し、妾が導く。いや、妾とエメトラルダ殿だな。正確には世界を見据えている者たち」

ベルミア大陸内だけでなく、世界全土まで視野に入れて物事を考えられる人間だけで議会を再編する。古い枠組みを棄てて新たな枠組みを作る。

その手伝いをしてもらいたい。そうルツィンデは言い放った。

エメットはあまりのことに瞠目する。てっきり、"コーラカル"に加入するにあたり、他の2国より待遇をよくするだとか、そういった交渉事だと予想していたのに。

古きに固執する父の代わりにシヴァルスの女王となり、"コーラカル"へ円滑に連携を取れるようにするだとか。

「それ、は」

排斥する、とは。文字通りの意味だ。政治的手段でもって、ノーブル・コンダクトを解散しヴィリアの若い王とシヴァルスの老いた王を追い落とす。そして更地となったところに、新たな議会を設立する。

「もちろん、貴女がシヴァルスのあの耄碌した腑抜けの子と知っていて話している」

おおかた、あの伝統に凝り固まった老いた王を追い落として自分がその座につくだとか、そんな話をされると思って身構えていたのだろうが。

残念ながら、ルツィンデが見ている視界はそこよりも一段上だ。ノーブル・コンダクトの枠組みさえも壊す。壊すのが前提だ。壊してようやく話が始まる。

「まぁ、話が飛躍しすぎていて現実味がないだろうが。今話したのは最終的なビジョンに過ぎんわ」

最終的にはそうするというだけで、いきなりそれを始めるわけではない。まずは足場を作るところからだ。

そこは、エメットが予測している話と一致する。つまり、シヴァルスの支配者の交代だ。閉鎖的な伝統に固執し、ノーブル・コンダクトだけでベルミア大陸の運営を決めようとする古い王を排除し、新しい女王を据える。そして"コーラカル"に加わりパンデモニウムへ対抗していく。

まずはそれらの枠を作ってから、その枠内で我々の支配力を強める。そして完全に支配することで、結果的にノーブル・コンダクトという議会の枠組みを消す。残るは同じ志の者たち。世界を見据えて物事を考えられる人間たちで新たな議会を作り上げる。それがルツィンデの大まかな計画だ。

「そのためにはまず、最初の1歩が必要なのだ」

「だから、あたしを?」

「そう。父を追い落としてその座に座ってほしい」 

そうするのなら、ベルズクリエは若き女王の誕生を喜んで承認しよう。ヴィリアの王もまた、自国の利益になるという打算の上で承認するだろう。

あの古い王は足を引っ張る。目先の邪魔が取り払われるならヴィリアの王は賛成するはずだ。その跡継ぎが名君でも昏君でもその時に対処すればいいだけだと言って、目先の邪魔の排除を認める。

それが命取り。こちらが最初の1手を打てたのなら、そこを起点に盤面を自らの駒で埋める。シヴァルスに座る若き女王もそのひとつだ。

駒というと切り捨て前提の道具のようだが、それは違う。大事な同胞だ。そこは信用してもらいたい。

「…父を追い落とすのは嫌か?」

「それは…否だけど……」

支配者の仮面の観点が告げている。あの古い王は排除しなければならない。

あれがいる限り、何も変わらない。今まで通りにパンデモニウムに恭順を示すだけ。

その結果があの膨大な供出の要求だ。今になって大慌てで生け贄を押し付け合っている。

そうなる前にきちんと対処すべきだと訴えたら罵倒と共に勘当された時、エメットは思ったのだ。あれは排除しなければならないと。

おそらく、猟矢とアッシュヴィトが"コーラカル"の代表としてパンデモニウムを打ち倒し、ベルミア大陸を守護することを証明したとしても食い下がるに違いない。今回だけだとか、都合が悪くなったら切り捨てるはずだから騙されてはいけないとか。そう言って、約束を破って無様に反駁を繰り返すのだ。

だから追い落とすことには賛成だ。あれを排除しなければ何も話は進まない。追い落とすということはすなわち、父は死ぬであろうということも含めて。

ルツィンデの計画にもおおよそ賛同したい。閉鎖的な伝統に固執してその中だけで完結しようとするベルミア大陸の気風に穴を開けたいと思っているのはエメットも同じ。

最終的に思い描く光景は同じだろう。だが、だからといってルツィンデと手を組んではいけないと直感が告げている。

何かがずれている気がするのだ。はっきりとは言えないが、何かが。明確に。どす黒い計略の上に理想という幻想を乗せているような。

腹の底に隠しているもののために、エメットに都合のいい幻影を見せて引き込もうとしている。

これは信用ならない。エメットは直感に従うことにした。だが、ここでそれを表に出してはいけない。何も準備なく突っぱねれば潰されるだけだ。ルツィンデの真なる目的を看破してからでなければ。

だから表向きは幻想に惑わされたふりをして、彼女の口車に乗ろう。どうせ結局、まずやることであるシヴァルス王の排斥という目的は一致している。

「……わかったわ」

きっとルツィンデはエメットの不信を見抜いている。だがシヴァルス王の排斥という目的のためには頷かざるをえないことも知っている。

こうして手を組んでから、内側からルツィンデの真なる目的を看破しようと考えている思考を読まれている。読まれているということを予測していることも含めて読まれているのだ。

とんでもない権謀術数の殴り合いだ。果たしてさばききれるだろうか。できなければ、"コーラカル"は内側からルツィンデの腹の底の邪悪に食い散らかされるだろう。

ジョーダンじゃない。尊敬する偉大なる"観測士"の一番弟子の口癖を真似しながら、エメットは心の中で苦虫を噛み潰した。


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