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カミサマが助けてくれないので復讐します 2  作者: つくたん
砂漠の島 クレイラ島
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砂の下の作戦準備

「ただいまデス! ゼフィルが帰宅したデス!」

ミラ(安堵)! やっとミラスル(一息つける)ですわ! …あらスティーブ、サセズクフ(そちらはどなた)ですの?」

ぷは、と息を吐いてフードを脱いだ小柄な子供と、それに付き添ったシャフ族の女性。どちらも大きな麻袋を抱えている。子供の方をゼフィルといい女性の方をグウィネスというのだとスティーブが軽く紹介した。

言葉もわからないままクレイラ島に派遣されてきたスティーブに言葉を教えたのがグウィネスだ。元々は共通語などわからなかったがスティーブに教えていく過程で学習してしまった。そのせいでシャフ族の言葉が混じった共通語を喋る。やたら尊大な言い回しで喋るのだが、なぜそうなったのかはスティーブにもわからない。

ゼフィルはわけあってミララニで保護している。鮮やかな緑の髪からわかる通り、シャフ族ではない。だが鮮やかな色をしているからといってベルベニ族でもない。竜族だ。ディーテ大陸のドラヴァキアに住んでいたのだが、パンデモニウムがドラヴァキアを襲撃した際に逃げ出した。捕まり、竜族の誇りである角を切り落とされた。そのショックから魔力が暴発し、近くにあった転移武具を起動してしまいクレイラ島に流れ着いた。そこを保護したのがミララニというわけだ。だがゼフィル本人はそのことを覚えていない。角を切り落とされた衝撃で記憶障害を起こしているのだ。自身が竜族であったことすら忘れている。気がついたらクレイラ島にいて、ミララニの一員として暮らしていた。それ以外のことをゼフィルは覚えていない。クレイラ島に流れ着いた経緯も、恐らくこういうことがあったのだろうとスティーブたちが予測したことだ。合っているかはわからない。ゼフィルが思い出すまでは真実は闇の中だ。

ふたりを紹介したスティーブは、その口でゼフィルとグウィネスにも猟矢たちを紹介する。かいつまんで現状も添えて。

リッテ(驚愕)! それってとんでもないリャソド(問題)ではありませんの?」

「だから僕たちが助けを求めるのに先んじて彼らが来てくれた…というわけさ」

おおげさに驚くグウィネスにスティーブが猟矢たちを指す。現状はこれで全員が理解した。ではこれからの話だ。

適当に座ってくれ、とスティーブは円座を勧める。男女が10人もおさまるにはこの民家は狭すぎるが、そこは我慢してもらおう。よっこいしょ、と腰を落ち着けたスティーブは口を開いた。

「僕たちには戦力も時間もない。…いや、もう手遅れかもしれないね」

領主もその妻も殺された。クレイラ島の領主の役目は秩序をもたらすことだ。本来ひとが住めない土地を制御するのが領主のつとめ。荒ぶる砂を支配して安寧を敷く。その役目の者が死んだ時、クレイラ島に秩序は失せる。秩序が失せれば砂嵐は吹き荒れ、クレイラ島は砂に埋れる。領主が抑えなければこの島は人が住めない不毛の地になる。

今、クレイラ島を覆う砂嵐は季節のものではなく、秩序が失せたことによる暴風なのかもしれない。

だが、希望が残っている。クレイラ・セティだ。神より力を割譲された獣は領主と同じ権限を持つ。つまり、クレイラ・セティさえ生きていれば砂の島は秩序を維持できる。この砂嵐だって季節のものだと言えるのだ。

イエトギアクラ(まだ死んでないよ)クレ・セティク(クレイラ・セティは)ヴィニスル(生きている)

最悪の想像をするスティーブにヴィリがゆるりと首を振る。短く揃えた髪が揺れた。

神の代行であるクレイラ・セティが殺されたのなら、クレイラ島を守護する雷神が激怒するだろう。怒りと罵りの雷を降らせるはずだ。シャフ族だろうがパンデモニウムだろうが関係ない。皆等しく雷撃の裁きを下す。

それがないのだから少なくともクレイラ・セティは生きている。無事であるかどうかは置いておいて。無傷だろうが虫の息だろうがともかく生きている。悲観するのはまだ早い。

バテ、クイク(でも、急ぐべきだ)クレ・セティア(クレイラ・セティが)ギ・アグラスル(殺されないうちに)

「…そうだね。ヴィリの言う通りだ」

悲観するのはまだ早い。励まされてスティーブは精神を持ち直した。生きているのならその救出を第一に考えよう。

「……ねぇ、全然わからないんだけど」

「安心しろ、俺もだ」

ヴィリはなんと言ったのかさっぱりわからない。おそらくは励ましたのだろうが。

ひそひそと言葉を交わすバルセナとハーブロークを見て猟矢が苦笑した。翻訳能力のおかげで何を話しているのかわかってよかった。翻訳能力がなければ2人やアルフやダルシーやアッシュヴィトと同じように首を傾げていただろう。

「…サツヤ、わかるってズルくナイ?」

「なんでだよ」

アッシュヴィトから八つ当たりをくらってしまった。猟矢だけ理解できるという状況は抜け駆けされているような気がして気に入らないのだろうが、それにしたって理不尽な。

ニロ(憤慨)! 少しベイト(待って)したらどうですの、サセズ(彼ら)が困っていましてよ」

「そうなのデス! ヴィリはイジワルデス!」

勝手に話を進めてしまっているふたりをグウィネスとゼフィルが非難する。共通語で話せばいいのに。島外から来たスティーブは当然ながら、ヴィリも共通語は話せるだろうに。非難の声をヴィリは目を逸らして黙殺した。

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