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カミサマが助けてくれないので復讐します 2  作者: つくたん
砂漠の島 クレイラ島
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隔たった砂の民

転移魔法特有のあの足元が消失する感覚にもようやく慣れてきた。が、発動の際の閃光にはどうしても目を閉じてしまう。それが猟矢の小さな小さな悩みだったのだが、今はそれが非常にありがたいと思ってしまった。

砂漠の島クレイラ。今は現地語でシャフジズと呼ばれる砂嵐の季節だ。砂嵐が島全体を覆うと聞いていたが、街の中ならば建物や城壁に囲まれて砂嵐は届かず、少し埃っぽいくらいだろうと思っていたらまったく違った。街を駆け抜ける風は建物や城壁によって阻まれることはなく、砂を運びながら吹きつける。少しでも風が吹きつけてくる方向に顔を向ければ目鼻口に容赦なく砂が入ってくる。

「あってよかった…」

口鼻は諦めよう。ゴーグルをつけたアルフは全員を建物の陰に誘導する。

ダカラ言ったのに、とアッシュヴィトが嘆息した。準備もなしにこの時期のクレイラ島に踏み込めばこうなる。だというのに急かすのだからユグギルときたら。

「いやそりゃぁ…まさかその場で行くとは思わないだろ…」

図体がでかくて助かった。おかげで愛しいバルセナを砂風から守ることができた。建物を回り込んで吹いてくる風から庇いながらハーブロークが肩を竦める。すぐに行けとは言ったが準備する猶予くらいは与えられたはず。それを無視して転移したのはアッシュヴィトだろうに。

「…むぅ」

そう言われればそうである。アッシュヴィトは口を尖らせた。砂まみれのダルシーが無言で抗議の視線を送っている。諸手を挙げて降参することにした。

「で、ヴィト、なんでそんな渋ったんだよ」

準備もせずに転移した。直情径行のアッシュヴィトの性情からするに、さっさと用事を済ませたいという感情の裏返しだ。そこまでクレイラ島に行きたがらないとはどうしてだ。砂が口に入らないよう手で覆いながら問う猟矢にアッシュヴィトが答えようとしたその瞬間。

サウズクフ?(お前たちは何者か?)

まったく聞き慣れない響きの言葉が投げかけられた。振り返れば、砂よけの外套を頭から被り口布をした人物がそこに立っていた。声の高さと身長から察するに女性だろう。小脇に抱えた手には何やら中身の詰まった麻袋。

警戒するような声音の語尾が上がっているということは何かしらの問いかけなのだろうが、その内容まではわからない。剣呑な雰囲気から、下手な答えをすれば殺されかねないというのは伝わる。

「…なんて言ってるの?」

「さぁ…?」

バルセナとアルフがひそひそと話し合う。クレイラ島に住むシャフ族は独自の言語を持つ。はるか昔は共通語だったらしいが、砂が口に入らないように話し方を工夫していった結果、別言語というほど隔たってしまった。バハムクランの情報通と呼ばれ、その知識をあてにされることが多々あるアルフでもその言語はわからない。

えぇと、とアッシュヴィトが言いよどむ。皇女の勉強の一環としてシャフ族の言語は習った覚えがある。自己紹介の一文をなんといったか。えぇと、と言葉に迷うアッシュヴィトを制し、猟矢が一歩前に出た。

「俺たちはとある目的があってエルジュから来ました」

ディテ・エル?(エルジュから?) ヴィテ、バハムス?(バハムクランか?)

「はい」

彼女の剣呑な雰囲気が怪訝な雰囲気に変わる。猟矢が頷くと、彼女は空いた手を自らの右耳に添える。通信武具で何かを話しているようだった。その様子を見守りながら、ひそひそとアッシュヴィトが問うた。自己紹介の一文は結局思い出せなかった。

「……サツヤ、わかるの?」

「うん」

この世界に異世界転移させられた時に得た保障の力だ。言語翻訳能力。この翻訳能力さえあれば標準語からかけ離れた別言語だろうと問題なく会話を成立させられる。そもそもこの世界の言語だって猟矢の知る日本語とは大きくかけ離れている。普段すらすらと言葉を交わしていてあまり自覚することはないが、この力がなければアッシュヴィトたちとすら話せないだろう。あってよかった。猟矢は初めてこの力に感謝した。

感謝する猟矢をよそに通信を終えた彼女は猟矢たちに改めて向き合った。

ボクマノ(私は味方だ)ボクミララニ(ミララニという)

「あー、えーっと…アルフ。"ミララニ"って知ってる?」

何かしらの集団名という意味合いなのは翻訳能力で読み取れたが、それが何なのかわからない。迷った猟矢はとりあえずアルフに聞いてみることにした。

「"ミララニ"っつったら俺たちの同志だぞ」

"アトルシャン"がクレイラ島に派遣している反パンデモニウム組織のクランだ。その説明をアルフから受けた猟矢は改めて彼女と話す。話がまとまった頃、つまり、とアッシュヴィトたちに説明することにした。

彼女はミララニというクランの一員であること。同志ならば敵意はないが、どうしてバハムクランの人間がここに来たのかと彼女は不思議に思っているということ。なぜ遠く離れたエルジュの人間が、しかもこんな時期に来たのか詳しく話を聞きたいということ。ともかくここは砂にまみれて落ち着いて話せないから我々の拠点に招くということだ。

それらを説明する猟矢を眺める彼女の側に、ざしざしと足音を立てて人影が歩み寄ってくる。彼女と同じように砂よけの外套をまとった男性だ。口布はしない代わりに襟を立てて砂の侵入から口を守っている。

「ヴィリ。ワトリャソド? ……サセズクフ?」

「…ギ・リャソド。サセズクマノ。ディテ・エルダバハムス」

何か問題があったか。彼らは誰だ。そう問うた声に問題ない、彼らは味方だと答える。エルジュから来たバハムクランの連中だと知ると、僥倖じゃないかと彼は手を叩いた。

「ありがたいね。僕たちもちょうど"アトルシャン"から人がほしいと思っていたところでね。…まぁ、目的が一致しているかは知らないけれど」

彼は驚くことに流暢な共通語で猟矢たちに微笑みかけた。それを確かめるために拠点に招くのだと彼女が代わりに答える。言葉が通じるって素晴らしいなぁとハーブロークがぼやいた。

それからいくらか彼女と言葉を交わした彼は、言葉が通じず事態がわからない猟矢たちに配慮してか共通語で語りかけた。

「わかった。じゃぁ僕たちの拠点に行こうか。自己紹介もそれからね。道中だと砂が口に入るから」

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