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カミサマが助けてくれないので復讐します 2  作者: つくたん
再び、ベルズクリエ
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幻影を振り切って

「何度言わせる」

苛立ちさえ感じながらアルフは返した。エメットがたどり着いた正解に、アルフもまたたどり着いていた。

影身が執拗に猟矢を憎ませようとする理由を言い当てたアルフは、脳内で最後のピースがはまるような感覚をおぼえた。

パンデモニウムからの脱走者であるグインから聞いた言葉のうちのひとつの意味がようやくわかった。ネツァーラグは自分のことを"すべてをみたひと"と自称している。その理由をこの正解によって知った。

真実を司る氷神により、ネツァーラグは世界の構造を知った。おそらくネツァーラグは以前、世界の成り立ちを希求する神秘学者だったのだろう。

神秘学者は世界のあらゆることに理屈をつけ理論を構成する職業だ。あらゆる物事すべてに意味を見出だす神秘学者にとって、世界の真実がこんなものだと知ることは耐えられなかったのだろう。

だからこれほどまでに憎むのだ。世界を作り上げた張本人を。その張本人が目の前にして、憎しみを晴らそうとしているのだ。

ただ直接ぶつけるのではつまらない。そんなものすぐに終わってしまう。自らの絶望を味あわせるためにはもっと過酷な仕打ちをしなければならない。

そういう思いから、こうして影身に執拗に言わせているのだ。アルフたちを憎悪の代弁者にさせるために。

「何度言わせる。憎悪の代弁者なんてお断りだ」

それに、と続ける。腹立たしいのは憎悪の代弁者にさせられることに加えて、もうひとつ。

「ミュスカデの顔で俺を唆すな」

アルフにとって何より腹立たしいのは、影身がミュスカデの容姿を借りていることだ。

ミュスカデのことなど何も知らないくせにミュスカデの姿をするな。お前に何がわかる。"強欲"の名の通り欲しがって欲しがって欲しがって欲しがって欲しがって、そして、最も欲しかったものは手に入れられず。いや、手に入ったのかもしれない。ミュスカデが遺した昔日の髪紐はアルフの記憶を専有している。家族というものを何よりも欲しがったミュスカデは最後に義弟の心に爪痕を残すことでアルフの心の一部をものにした。

そんな壮絶で哀しい姉のことなど何一つ知らないくせに、ミュスカデの容姿をするな。お前が軽率に利用していいほど、ミュスカデの存在は軽くないのだ。

「ミュスカデは強欲だからな。自分の容姿だって自分だけのものさ」

幻影に貸すことだって許しはしない。他人に渡すくらいなら壊してだめにする。ミュスカデはそんな性格だ。そんなこともわからないくせに容姿を真似するな。ミュスカデ・アベットを踏みにじるな。

「死者に泥かける真似をすんじゃねーよ。ジョーダンじゃねぇ」

そういうのが一番嫌いなのだ。苛立ち紛れにアルフは吐き捨て、ボウガンを向けた。

こういうところまで過去の再現をさせるのだからネツァーラグは性根が悪い。"アルバレスト"の照準を影身の胸に向けた。

「まったく、ほんとジョーダンじゃねぇ」


「…あぁ、そうだよ」

そうだろう、と問う影身の言葉を、猟矢はついに肯定した。

この世界のすべては猟矢のせい。お前のせいだと囁く声を猟矢は肯定した。折れた。影身はうっそりと笑う。

責任を取れ。命であがなえ。猟矢は責任を取ると宣言した。ならばあとはその矢を自分に突き立てるだけ。

せめてもの慈悲だ。矢を突き立てる場所は喉か胸か頭かは選ばせてやる。

「あぁ……そうだよ」

そうなんだ。お前のせいだという影身の言葉に猟矢はうつむいたまま頷く。

この世界は自分のせい。今まで書き散らして捨て置いたせい。

だから。

「だから、責任を取ってやる!」

ぐっと猟矢は顔を上げた。その表情は、突きつけられた言葉に折れ悲嘆の絶望などに染まってはいなかった。

びしりと影身に指を突きつけ、猟矢は宣言する。責任を取れと言うなら取ってやる。ただしその取り方は命であがなうのではない。猟矢がやるべきはそんな後ろ向きな責任の取り方ではない。

「ちゃんと書き上げてやる! 完結させてやるさ!」

この物語の続きを書き上げる。それが途中放棄した物語たちへの責任の取り方だ。

放棄したせいで管理者がいなくなり、物語が勝手に動き出して乱れたから世界はこうなった。世界は混沌として乱れたからパンデモニウムなんてものが生まれてこうなったのだ。

だったら、その乱れを取り除くのが自分のまずやるべきことだ。矢を自分の喉か胸か頭かに突き刺すことではない。

乱れを取り除き整えてから、物語を書き上げて完結させる。だから。

「いつ何を書いたか覚えてないけど! 全部ちゃんと完結させてやる!」

いつどんな創作を書いたか覚えていない。だが、見れば思い出せる。自分が生み出したものなのだから覚えがあるはずだ。それでも思い出せなかったら、世界が整うように新たに作り出す。

だから。

「だから、その前に! 衍字(えんじ)のお前らを消してやる!」

衍字。間違って挿入された文字のことだ。パンデモニウムは猟矢の物語を乱す衍字なのだ。

これを消す。消してやる。手始めに目の前にいる影身から。

「相手の防御、回避行動をすべて"キャンセル"、絶対必中、"指導者による標準"!」

終わらせる。書き上げる。その決意を込めて猟矢は矢を射た。

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