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カミサマが助けてくれないので復讐します 2  作者: つくたん
砂漠の島 クレイラ島
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砂都より

その通信が入ったのは、やたら晴れた穏やかな日のことだった。

領主にのみ扱える通信用武具。領主となった者のみが使えるように特殊な術式が書かれたそれは各地の都市国家に与えられている。領主同士が話し合うための武具だ。

砂漠の島クレイラ島から全都市国家に。ディーテ大陸もベルミア大陸もキロ島もラピス諸島もミリアム諸島も何処も関係なく、その通信は全てに等しく発信された。

「…て…助け…………た…て………」

か細い声はクレイラ島の領主のものではない。だが通信を受信している各国の領主たちには覚えのある声だった。世界で最もたおやかで美しいと常日頃領主が自慢していた彼の妻のものだ。

それがなぜこの武具を使うのだ。この通信武具は領主のみにしか扱えない。血縁者や伴侶であっても使用は不可能。だというのに。その疑問は続く言葉で解決した。

「夫……パンデ…ウム……殺され……っ、あああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」

途切れた弱々しい声は直後、耳をつんざくような断末魔に塗り潰された。それきり通信が終了した。パンデモニウムにより何かが起きたことは明白だった。何かではない。何が起きているかなど知らされなくてもわかる。虐殺だ。その中で領主は殺され、その妻に領主の地位が移ったのだろう。その権限で通信武具を起動させたに違いない。

クレイラ島は砂漠の島。この時期は季節風による砂嵐が島を覆う。だから海路は封鎖されている。島から外に脱出することも、外から島に侵入することも砂嵐のせいで不可能。島内の移動でさえ断絶されている。その密室の中でパンデモニウムが虐殺を行っている。

島を覆う砂嵐を越えるためには転移武具を用いるしかないが、転移武具に関しては領主によって許された者のみが持つものしか受け付けないようになっているはずだ。だとすると、あらかじめ潜入させておいたのを蜂起させたか。

どうやってパンデモニウムが侵入したにしろ、クレイラ島が虐殺に遭っているというのなら"コーラカル"としては見過ごすわけにもいかない。表向きこそディーテ大陸間の相互防衛条約だが、その本質はパンデモニウムの脅威を排除することにある。行かない理由などない。

「だが状況がわからんでの」

砂嵐の時期はクレイラ島の民にとっても修行の季節。外部からの干渉を一切断ち、孤立した中で自分を高める修業をするのが慣例なのだ。だからこそこの時期のクレイラ島の状況の情報は入ってこない。今、島内がどうなっているのか、どういう補助が必要なのか判断できない。その斥候の役を引き受けたのが貿易都市エルジュのバハムクランだ。そう説明をしながらユグギルは猟矢を見る。アルフの報告によると何やら思い悩んでいたと聞くが、今では晴れやかな顔をしている。

「ということで行ってくれんかの」

クレイラ島に行くためには転移武具が必要だ。だが転移武具"ラド"は一度行ったことのある場所しか転移できない。アルフの持つ"ラド"ではクレイラ島に到達できない。バハムクランの他の面子も同様。だがビルスキールニル皇女であるアッシュヴィトならば。皇族の何某かでクレイラ島に踏み込んだことくらいあるはずだ。それならば砂嵐を越えてクレイラ島に向かうことができるはず。

「クレイラ島ネェ…行ったコトはあるケド…」

「よし、じゃぁ決まりだな」

何やら渋る様子のアッシュヴィトをユグギルが急かす。クレイラ島には"アトルシャン"から派生したクランがあったはずだ。それなのに連絡がない。いくら砂嵐によって断絶しているとはいえ、王宮の様子がわからないわけはないだろう。王宮の様子がわかる程度には政治の中枢の深いところに置いてある。まさか事態を知らないわけがない。

それなのに連絡がない。つまりは全滅しているということだ。それに加え、領主が殺されるような状況。たおやかな声が醜くひきつれた絶叫と変わった瞬間を思い出しユグギルは苦い思いで胸が満たされた。時間の猶予はない。さっさと行ってもらおう。

「うーん…」

行ったことはある。あるのだが。皇族としてではなく個人で行ったのだ。ビルスキールニル皇女としてクレイラ島を訪問したことはない。個人でふらりと寄っただけだ。その時の用事が用事だっただけに、"ラド"が記憶している転移先はこの状況で向かうべきところではない。

というのも、そこは以前猟矢がアブマイリの祭りにて授けられた武具の鑑定を頼んだ場所だ。あそこは絶望の底にある者が血反吐を吐きながら膨大な砂山を掻いて登る場所。漠々たる流砂の店主はひっそりと闇に潜むのを好む。ぞろぞろとこんな人数を連れて行けば何を言われるか。絶望と悲嘆の運命をさばく店主の不興を買えば何が起こるか。

正直言ってものすごく行きたくない。だがクレイラ島に行かなくてはいけない。クレイラ島に行けるのはアッシュヴィトの持つ"ラド"のみ。これを誰かに託して向かわせるということはできない。持ち主が行ったことがある場所でないと転移できないからだ。だからアッシュヴィトたちが行かねばならない。

こうなったらさっさと終わらせてしまおう。嫌なこと、面倒なことは早々に終わらせるのが一番。嫌だ嫌だと逃げ続けて問題を先送りにしてもいずれは追いつかれて追い詰められる。

「どうなっても知らナイカラネ! …"ラド"、ボクたちを…クレイラ島へ!」

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