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カミサマが助けてくれないので復讐します 2  作者: つくたん
再び、ベルズクリエ
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影身と踊れ

「…よし」

前提条件は確認した。ここは閉ざされた異空間で、条件を達成すれば出られる。次に考えるべきはその条件。そしてその次に達成する手段を考える。

思考を巡らせているアルフの"観測"視界に魔力反応が現れた。サモンタイプの反応に近い。ネツァーラグが展開した"レムレイス"とやらはディメンションとサモンの2つのタイプを併せ持つと観測したが、成程、ディメンションの部分はこの異世界、サモンの部分は今から現れようとするこれか。遠くからゆっくり歩み寄ってくる気配を感じる。

ざし、ざし、と足音を立てて近付いてくる。警戒心を強めながらアルフはその方向をじっと注視した。W1B、S1C。ウェポンタイプ1つ、サモンタイプ1つ、強くもなく弱くもなく。

もうすぐ肉眼でも視認できる距離だ。ざし、ざし、と歩いてくる足音がゆっくりと迫ってくる。

「酷いもんだよな。"観測士"は戦うモンじゃないってのに」

「……は…?」

そこに現れたモノは。


「……わぁ、ビックリ」

目の前に現れたモノを見て、アッシュヴィトは驚嘆の台詞を吐いた。言う割に驚いてはいない。

"レムレイス"といったか、あの武具は。レムレイスとは古い言葉で幻や幻影を指す。そして詠唱である鏡の鎧の話。敵意を跳ね返すために磨かれた鎧の逸話を詠唱として用いたことからして、こういうことが発生するだろうと予想はついていた。

そう、だから目の前にアッシュヴィトと瓜二つのものが現れても驚嘆に値しない。来るだろうと予測していたものがその通りに目の前に現れただけだ。

「キミを…いや、影のボクをかな。殺せばイイのカナ?」

おそらくネツァーラグが設定した脱出条件はそれだろう。鏡の鎧の逸話で呼び起こした影身を殺すことだ。

自らの手で自分自身を殺す。成程それはたしかに困難なことだ。影身は自分自身。ということはつまり。

「"グピティー・アガ"」

「ほらネ!!」

影身が自分自身ということはつまり、戦術も所持している武具もすべて自分と同じということ。

"ドッペルゲンガー"のコピーとは違う。使ってくる武具は劣化品の下位互換ではなく、自分が扱う武具そのもの。

衝撃の名を持つ刺突剣を取り出した影身に対抗し、アッシュヴィトもまた同じ刺突剣で対抗する。

「"インフェルノ"が来ませんように!」

あの神を喚ぶ門はまずい。あれで召喚される神は強力な精霊の比喩でも何でもなく、神そのものなのだ。神に相対すれば死は必至。なにせここは異次元だ。何が起きても外部に影響がないということは、神の力を存分に振るうことができるということだ。普段アッシュヴィトが召喚する時のように、周囲の影響を考えて制御する必要はない。遠慮なく全力を振るうことができる。神の力を前に人間など無力。あっという間に殺される。

先手必勝で先に召喚するのもありだな。そう考えたアッシュヴィトが左手の指輪に魔力を込めようとした。

「来ませんように、だって? そんなにイヤなら出してアゲようか? オイデ、"インフェルノ"!!」

「うえっ!?」


召喚までオリジナルと同じか。影身が召喚したものを目の前にエメットは苦い顔をした。

召喚武具とは、世の理から概念を引き出し術者の解釈で姿をなして魔力で形作る。だから同じものを召喚しても術者によって姿が変わる。ビルスキールニルでは火の神カークスと呼ばれるものが、キロ島では火鎚の神カグツチとされるように。

ナルド、フォニス、イルス。三海をそれぞれ守護する水神もそうだ。海というものに対するひとの畏怖を反映した海神は、地域によって姿が変わるものの本質はまったく同じものだ。

ナルド海では番の海竜リヴァイアとレヴィア、イルス海では深窓の海竜。フォニス海では海を統べる鯨。姿は違えど、ひとの畏怖を反映した信仰神という概念から生まれたものだ。姿と名の違いはその土地の信仰の差だ。

そう、召喚武具は世界に偏在する概念を解釈して姿を形成する。だから同じ武具が存在するのはよくある。だが。

だが、武具も姿もまったく同じものというのは存在しない。どれほど思考を似通らせても解釈は個々によって微妙に異なるはずなのだ。

だからこれは、紛れもなく自分自身なのだとエメットは確信した。精巧な偽物ではなく、紛れもない自分自身。

でなければこの仮面はこの場に召喚されない。3つの仮面は影身の周囲を漂っている。その仮面は間違いなくエメットの武具"マスカレイド"だ。

仮面はそれぞれ3つの性格を司る。一言に言えば、中庸と冷血と狂乱。エメットがこれまで培ってきた性格の一部分をそれぞれ担当する。本来の自分と、貴族社会で渡り歩くためのシヴァルス家次期当主としての顔、そして母の執念によって形成された性格だ。

妾の存在を憎む母に育てられ、エメットの性格はだいぶ歪んだ。ちょっとしたことでも妾に結びつけ、やれ妾の仕返しだ当てつけだと騒ぎ立てる。小さなエメットはそれを当たり前のことだと思って、母と同じように妾という名の魔女の存在を憎み、母と同じように小さなことでもヒステリーを起こした。それが狂乱の仮面だ。

母が死んでから前後して、次期当主としての勉強が始まった。厳しい指導はまだ子供のエメットの心を削ぎ落とした。100を生かすために1を殺せ、母の死(ひとつのこと)にこだわっていてはすべてを失うという教えはエメットの心を圧した。そうして生まれたのが冷血の仮面だ。

そして残るが本来の性格を内包した仮面だ。否、本来の性格というには語弊がある。社会勉強のために市井に出た時に"この年頃の少女はこうあるべきだ"と設定したものというべきだろう。

エメットは仮面をつけるという行為をスイッチにしてそれらを切り分けた。でなければ分裂していただろう。多重人格になり破綻する前に、エメットは精神世界の中で仮面という存在を生み出した。

こういう性格の仮面をつけているから自分はその性格らしく振る舞えることができる。天真爛漫な性格の仮面ではできなかった冷血な行為が冷血の仮面をつければ簡単にできる。

多重人格と呼ぶには分裂しきれず、しかし一個人の性格とするにはとっ散らかっている。その概念を抽出したのがあの"マスカレイド"だ。

「はじめまして。オリジナルのあたし」

エメットと同じ容姿をした影身はエメットに優雅に礼をしてみせた。服の裾をつまんで、軽く頭を下げるそれは舞踏会の作法だ。

優雅に礼をした影身は周囲に漂う仮面のひとつを手に取った。目も口も吊り上がった怒りの表情のそれは狂乱の仮面だ。

「あたしがあたしと戦うなんてどういうことかしら。きっとこれもあの魔女のせいよね。そうだわ、そうに決まってるわ」

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