第4話:庭園でいろいろ確かめる
アスサガの画面構成は、大きく分けて四つ存在する。
帝都を含めた帝国内の領地全般に関して、開墾をしたり、防衛施設を建築したりする内政画面。
自軍に所属するキャラクターに霊器を装備させたり、部隊を編成したりする編成画面
敵対する国などに、編成した部隊で攻めこむ戦略画面
ミッションを確認したり、ガチャを回したりする、内政、編成、戦略に属さない補助画面
今、匠の目の間に開かれているのは内政画面であり、本来であれば、そこには帝都を含めた帝国内で収入が得られたり、開発をしたりすることができる都市名が表示されるのであるが、目の前の画面には帝都しか表示されていなかった。
「これは・・・元々帝国が保有していた都市については、帝都以外の都市がこの世界には存在していないから表示されないということか。」
匠は、円卓の間で聞いた内容を思い出しながら、目の前にあるメニュー画面をタップすると、画面は匠のタップに反応した。
「操作はタップで可能っと」
匠は、使い慣れた手つきで、画面を切り替えて手早く情報を確認していく。
(内政画面は、都市の人口や税収とか、数値的な状態は確認できるけど、開発したりとかの実行コマンドは反応しないな・・・編成画面も、数値的なところは確認できるだけで、実行系のコマンドは使えないみたいだ・・戦略画面はそもそも開くこともできないのか・・・補助画面は・・・今のところミッションはなし、ガチャは・・・)
「おお!!ガチャは実行可能みたいだ」
ほとんどの実行コマンドが不可能となっている中で、これは匠にとって喜ばしい展開であった。
「神霊石も霊石も、こっちに来る前の時の数がそのままストックとしてあるみたいだ」
神霊石とは、R以上の霊器を出すガチャで使用するアイテムであり、霊石は、内政用の資材や備蓄用食料など、内政で使用できるアイテムや稀にRレベルの霊器も出るガチャで使用するアイテムであり、両者とも、ログインしたり、ゲームを進めたりすれば、自然と貯まる仕様になっているが、当然の如く、前者は後者に比べ、その貯まる率が圧倒的に良くない。
では、R以上でお目当ての霊器がとにかく欲しくて、神霊石が貯まるのを待てないプレイヤーがどうするかというと、現実のお店で魔法のカードを買ってきて、そのカードを触媒にして神霊石を手に入れるという展開になるわけである。
そして匠も、そんなことを度々行っていたプレイヤーの一人であった。
「う、凄くガチャやってみたいけど、今ある石がどうやれば増えるかわかるまで自重しないと不味いよな」
異世界に転移しても衰えないガチャ欲をなんとか抑え込みつつ、一通りの画面を大雑把に確認した匠は、今度は、少し念入りに各画面を確認することにした。
(まずは、内政画面で帝都の状況を・・・ん?いくつかの数値が赤字で表示されてる?赤字なのは、人口、支出、食料備蓄、治安の四つか)
「これは、帝国内の都市が消えて、その住民が難民化して帝都の人口に吸収されたからか?」
匠は、アスサガのゲーム内における幻獣出現イベントで、一時的に各都市から住民を帝都に避難させた際に、同様の現象が起こったことを思い出しつつ呟いた。
(実行コマンドはできなくても、数値的なものについてすぐに確認できるのは、いろいろ対策を考えるうえで助かるな。次は編成画面を見てみるか。)
匠が画面をタップして編成画面に移ると、そこには匠が育てたアスサガのキャラ達の名前が並び、その名前をタップするとそのキャラクターの各種ステータスが表示された。
(ラウラも四方将軍達もステータスは転移前の数値と変わりないな・・・あれ、これって俺の名前?)
匠が画面をスクロールしていくと、一覧表の一番最後に
『タクミ (霊祇官)』
という名前があるのに気付いた。
アスサガのゲーム内においては、主人公は戦闘や内政には参加しないため、キャラ一覧には表示されない仕様のはずであったが、そこに表示された己の名前に、匠は混乱しながらも、自分の名前をタップして、ステータスの仮面を開いた。
「うわっ・・・俺のステータス、低すぎ・・・」
そこに表示されたステータスは、数値的に見ると一番高いものですら、ラウラの一番低い数値の100分の1程度しかないという底辺まっしぐらな数値であった。
(ラウラ達は、ゲームの裏ボス的なイベントボスでも十分に倒せそうなステータスなのに、俺は冒険を開始したスタート的な町の外ですら一人じゃ歩けないステータスかよ・・・)
メニュー画面に表示される『タクミ』のステータスは、俺TUEEEなど夢のまた夢であることを匠に理解させるには十分過ぎるほどのものであった。
「異世界無双で俺TUEEEはこちらでは実装しておりませんってことね・・・まあ、そんなことだろうとは思ってたよ・・・」
匠はガックリと肩を落とし、ため息を一つついた。
その後、だいたい見るべきものは見たとメニュー画面を閉じて、そろそろ行かないとまずいかと思い、庭園を後にして円卓の間へと早足で向かった。