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建帝とゆかいな仲間たち  作者: 風車猫十郎
第一章 帝国再建
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第3話:庭園で落ちつく

 二人は、円卓の間を出た後、廊下を抜けて、椅子やテーブルが配置された庭園のようなところまできた。


 ラウラは、庭園の周囲に誰もいないことを確認すると、


「ここで良いか」


と言い、つかんでいた匠の腕を離した。


「タクミ。何があった?寝起きで調子が悪いだけかと思っていたが、先ほどから顔色が悪くなる一方だぞ」


 ラウラのこちらを気遣う眼差しに、匠は、ラウラが自分のために会議を中断したのだと気付いた。


「いや、別に体調が悪いとか、そういうのじゃないんだ」

「体調が悪くないなら、心の方か?今、帝国には予想外の出来事が起こっているが、お前の今までの様子を見ると、どうもそれだけが要因とは思えない。何か悩みでもあるのか?」


(悩み・・・これは悩みっていうのか。でも正直に話してどうなる。君たちは、俺がやっていたゲームの登場人物だと、俺はそのゲームをやる側の世界から来ただなんて。帝国全部が異世界に転移している今の状況も変なことだけど、ゲームの世界だなんて話は、それ以上に荒唐無稽だ。それに、俺が来る前にいたはずのラウラ達のともにいた「タクミ」について聞かれたら、どう答えればいいんだ。俺だって理解できないんだ。下手したら、タクミに憑依した悪霊扱いになって・・・・)


 匠の思考は混乱と動揺のためか、マイナス方向の考えばかりが、脳内を埋めるようになっていた。


(幽閉とか、最悪、偽物扱いされて・・・)


 匠の思考が負のスパイラルに陥ろうとしたその時、ラウラが、匠の両肩に自分の手を置いた。


(え?)


「タクミ、お前が何で悩んでいるのか、私にはわからない。もし、そのその悩みが言い難いことなら言わなくてもいい」


 そう言って言葉を切り、顔を上げた匠の目を真っすぐに見つめるラウラ。


「しかし、これだけは忘れないで欲しい。私は、どんなことがあってもお前を守る。その誓いは、何があっても変わらない」


 ラウラのその言葉を聞いた瞬間、匠の脳裏に、アスサガにおけるとあるシーンがよみがえった。







 それは、ゲーム内における帝国建国イベントにおいて、主人公である霊祇官が、仲間の誰かを皇帝として選ぶ場面だった。


 匠はそのイベントにおいて、最もお気に入りであったラウラを選んだのであるが、選ばれたラウラは、傭兵である自分で良いのかと主人公に問い返し、ラウラが適任だと主人公が答えると、ラウラは皇帝に即位する決意をし、その決意の内容を主人公に伝えてくる。


 その決意の言葉の後に、ラウラは主人公に、


「タクミありがとう。私はお前の期待を裏切らない皇帝になってみせるよ・・・・タクミには、この帝国の行く先を見続けて欲しい。だから、タクミ、どんなことがあっても、お前は私が守る。これは、私の絶対の誓いだ」


と言った後に、照れたような顔を浮かべるのだ。







(あ・・)


 匠は、自分を見つめるラウラの決意に満ちた力強い眼差しと、何があっても守ると言ったラウラの断固たる決意の言葉に、混乱の極みにあった精神が落ち着ついていくのを感じた。

 そして、匠の両肩に置いたラウラの両手からは、その決意の熱い想いが、熱となって匠に伝わってくる気がした。


 ラウラは、ただ一心に自分の身を案じ、そして守ろうとしてくれている。


 そのことを感じ取った匠の心に沸き起こったのは、感謝の思いだった。


 匠がやっていたゲームでのラウラと、今、目の前にいるラウラは、厳密には違うのかもしれない。


 でも、ラウラは、匠が数年間常にログインし続けたアスサガというゲームで、最も愛用し、愛着があるキャラであった。


 そのラウラが自分を絶対に守ると言ってくれた。


 どうしてアスサガのキャラと瓜二つの者達がいる世界に転移したのか、そして、なぜ帝国がアストラル大陸ではないところに転移したのか。

 わからないことばかりなのは変わりないが、それでも、匠には、ラウラという存在がいてくれる。


 そう考えるだけで、混乱と動揺で荒れていた匠の心は、穏やかな水面のように落ち着いていくのであった。


「ラウラ、ありがとう」


 匠はその心からの感謝の気持ちを笑顔とともにラウラに伝えた。


「う、うむ、落ち着いたみたいでなによりだ。・・・わ、私は先に円卓の間に戻っているから、タクミも後から来い」


 そう言うと、ラウラは少し赤らめた顔を見られまいと匠に背中を向けてその場を去った。


(・・・本当にありがとう、ラウラ)


 匠は去っていくラウラの背を見ながら、再度感謝の言葉を心の中で呟いた。







「うん、よし、もう大丈夫だ。気持ちを入れ替えて、転移ものの定番らしく、俺TUEEEとかの可能性とか探ってみるか」


 ラウラのおかげで精神の平静を取り戻した匠はそう軽口をたたいた後、周囲に誰もいないことを確かめてから、


「ステータスオープン」


と口にした。


「なーんて、そこまでテンプレなわけ・・・っておいおい、まじか」


 いくらなんでも、そんなベタな展開はないだろうと思いながら、匠が冗談で言った言葉を合図に、匠の目の前に、メニュー画面らしきものが、半透明で浮かんできた。


「これは、アスサガのメニュー画面か?」


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