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建帝とゆかいな仲間たち  作者: 風車猫十郎
第一章 帝国再建
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第2話:円卓の間で戸惑う

 ラウラが目の前にある扉を開けると、その先には、大きな円卓があり、その円卓には、6人の男女が座っていた。


 ラウラの後から室内に入った匠は、円卓に座る男女を見て、自分がいる世界が、アスサガにいる世界であることを改め認識した。


 そこに座っている男女は、匠がアルトラル・サーガのゲーム内において、高位役職に任命したキャラの特徴を持つ者達ばかりだったからだ。






 

 アストラル・サーガでは、帝国建国後は、キャラを帝国内の役職に任命することで、軍事的な役職であれば、キャラの保有兵力や各種ステータスが上昇したり、内政的な役職に任命であれば、ステータス上昇の代わりに、帝国における収入が増えたりと内政面でのボーナスが与えられるような仕様になっている。


 特に、高位役職はその恩恵が最も高い。


 高位役職は、内政・軍事両面におけるトップの執政官の下に、東西南北の四方を守護するという意味を込めて、四方将軍と呼ばれる軍事面における4強となる将軍と、内政官と呼ばれる内政面におけるトップとなる1名の官吏で構成されており、現在、円卓に座っている男女は、まさしくその高位役職の面々であった。






 円卓に座っていた者達は、ラウラが室内に入ってきたのを見て立ち上がろうとしたが、ラウラはそれを手で制した。


「遅れてすまない。すぐ会議を始めよう。・・・何をぼうっと突っ立ているタクミ、早く座れ。」


 そう言ってラウラは、入口から見て目の前にある空いた椅子座り、匠の方を見てから、ラウラの横にある空いた席を目線で示す。


「あ、ああ」


 ラウラ同様に、アストラル・サーガの登場キャラと酷似した男女を見て、落ち着き始めた精神がまた動揺しているのを自覚しつつ、言われるがまま、匠はラウラの左隣にある空いた椅子に座った。


 二人が座ったのを確認すると、ラウラの右隣りに座っていた金髪のセミロングで、凛々しい顔立ちの女性が立ち上がった。


 匠は、金髪の間から飛び出た尖った耳を見て、彼女が、ファンタジーでは定番のエルフという種族であり、この円卓の間にいるということは、ゲーム内で執政官という高位役職に任命した、ペガサスナイトのロザリエなのだろうと思った。


「全員が集まったので、報告をはじめます。昨夜、突如発生した原因不明の濃霧が帝都を覆い、原因は不明ですが、おそらくはその濃霧の影響により見張りの兵を含め、現在確認できる範囲で、帝都の住民すべてが一時昏睡状態に陥った模様です。今朝になって昏睡から回復した兵士より、帝都の城壁外において数えるのも困難なぐらいの数の市民が倒れているとの報告が上がりました。その報告を受け、配下のペガサスナイト連隊の一部を状況確認のために周辺に派遣しましたが、それにより驚くべきことが判明いたしました」


 そう言うとロザリエは一旦間を明け、それから続きを話し始めた。


「帝都周辺の地形は、街道と荒野しかなかったにも関わらず、部隊が見たのは、見渡すばかりの草原だったのです」


 その言葉に、円卓に座る全員が訝し気な表情を浮かべてロザリエの方を見た。


 ロザリエは円卓の全員を見渡した後に、言葉を続けた。


「信じ難いことかもしれませんが、現在、我らが帝国は、アストラル大陸ならざる場所に存在していると考えられます」


 円卓に座る者達は、その突拍子もない言葉に驚愕した。


 そして、その中で最も驚愕し、かつ動揺したのは匠であった。


(え?アストラル大陸じゃない?じゃあ、ここは、アスサガの世界じゃないのか?いや、でも、ここにいるみんなはアスサガに登場しているキャラクターに間違いないだろうし、そもそも、ラウラも円卓にいるみんなも、俺がいることが当然という顔をしてる。これは一体・・・・・)


 アスサガの世界に転移したとばかり考えていた匠にもたらされたロザリエの情報は、匠の脳の処理能力を軽く飛び越えてしまうような内容であった。


「あ、あの、私からも報告があるのですが、いいですか?」


 そう言って、挙手をして発言を求めたのは、茶色の髪に、犬のような耳が生えている眼鏡をかけた可愛らしい顔立ちを、異常事態に直面したせいか、ひどく緊張した表情にしている10代半ばぐらいの少女であった。


「リーアか。良いぞ」


 ラウラがそう言って発言を許可する。


 匠は、リーアという名前を聞いて、アスサガ内におけるリーアというキャラを思い出した。

 彼女は、アスサガにおいて、マーチャント(商人)の職業を持つ、獣人族の少女であり、帝国では内政官として役職についている。

 ゲーム内では、彼女の能力が、帝国の収入増加と収支減少に効果を与えていたため、縁の下の力持ちとして、匠は常日頃から彼女を重宝していた。


 ロザリエが着席すると、代わりにリーアが立ち上がって報告を始めた。


「あ、ありがとうございます。わ、私のところにも部下から報告がきています。ロザリエさんの話にあった帝都の城壁外に倒れていた人たちから部下が話を聞いたところ、彼らはガザープやベルファウンなど、帝国内の町や村に住んでいた帝国国民であるようです。彼らは一様に、気が付いたら衣服だけを着た状態で地面に寝ていたと申し立ててきました。」


リーアの報告は、この室内にいる者達を更に困惑させるようなものだった。


「じゃあ、何、帝都と、帝都以外に住む帝国国民全員が、一晩の間に違う世界に転移したというの?そんな大魔法聞いたことがないわ」


 円卓に座ったまま、30代前半ぐらいの青髪をサイドテールにしたキツイ顔立ちであるが、美人と表現しても差し支えない容貌の女性が厳しい顔つきで呟いた。


「ミミでも分からないのですか?」


 ロザリエが発言した女性の方に顔を向けて尋ねる。


「さっぱりね。個人的な印象だけど、失われた古代王国の秘術とかアイテムとか、現代の魔法の範疇を超えた何かだと思うわ」


 ミミと呼ばれた女性は、両手をお手上げといった感じで広げながら答えた。


 


 ミミと呼ばれたヒューマンの女性は、匠のプレイしていたアスサガにおいては、四方将軍と呼ばれる、4人の将軍のひとりであり、帝国における最強のソーサラー(魔法使い)であったのであるが、匠は動揺と混乱により、ミミと呼ばれた女性のことに思いを至らせる余裕はなかった。





「タクミさん。何か、このような事態について、知っていることはありませんか?」


 動揺して心ここにあらずの匠にロザリエが問いかける。


「え?俺?・・・いや、何がなんだかさっぱりわからない・・・」


「そうですか・・霊祇官であるタクミさんであれば、このような事態についても、何か知っているかと思ったのですが」



 ロザリエの口にした霊祇官とは、アストラル・サーガにおいて、主人公のみが持つ職業でありかつ役職である。

 アストラル・サーガにおける主人公は、戦闘能力や内政能力を持ったキャラではないが、「霊器召喚」という、失われた異能を使う一族の末裔という設定であり、主人公は、その異能により霊器を召喚し、ゲーム内のキャラクターにそれを与える存在なのだ。

 


 ロザリエが、この不思議な事態について匠に質問したのも、そのような異能を持つ霊祇官だから、何か自分達が知らない知識があるやも期待してのことだったのだが、混乱している匠には、そこまで推測することはできなかった。


 あまりの異常事態に、円卓の間に集まった一同はしばし押し黙った。


 そして、匠の心中は、混乱の極みにあった。


(なんだよ。なんなんだよこれ。起きたと思ったらわけの分からない間に会議に放り込まれて、挙句の果てに、アスサガでもない異世界に転移とか。)


 青ざめた顔を下に向け、急激に展開する理解しがたい事態にどんどん自分の世界に埋没する匠。


 そして、そんな匠をラウラは心配気に見つめていた。


「皆、少し良いか」


 そう言ってラウラは立ち上がった。


「ロザリエとリーザの報告で、今、帝国が未曾有の危機に直面しているのは理解できたと思う。すぐにでも対策を考えるべきところだが、混乱した頭で考えても良い考えも浮かばないだろう。頭を落ち着かせるためにしばし休憩する。休憩の後、改めて対策を検討する」


 ラウラはそう言うと、


「タクミ、一緒に来い」


と匠の腕をとり、有無を言わさず立ち上がらせて、速足で円卓の間をタクミを連れて出ていくのであった。


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