プロローグ
初投稿となります。
「ええええ!?まじかよ・・・・」
匠が手に持って見ているスマホの画面には、とあるアプリゲーのお知らせが映っていた。
『皆様にご利用いただきました「アストラル・サーガ」は、4月1日を持ってサービスを終了いたします。長らくのご利用ありがとうございました。なお、現在保有されている神霊石のご返金については・・・・』
画面には長々と、サービス終了に伴うお知らせが映っていたが、匠はこれ以上読む気になれず、お知らせ画面を終了させた。
すると、スマホ上でメイン画面が開き、画面の中央に、大剣を背負った赤髪のポニーテールの、どこかいたずらめいた笑顔が魅力的な女性が映っていた。
『今日はどこにいく?』
匠が耳につけているイヤホンから女性の声が匠に語りかけてくる。
「・・・ラウラ達とも、後数週間もしたら会えなくなるのか。いや、確かにネットでは過疎ってるとか書かれてたけど、まさかほんとにサービスが終わるなんて」
匠は心の底からため息をついた。
比奈沢匠は、38歳の独身社会人である。
大学卒業後、なんとか地元就職したものの、勤めている会社は、大企業の下請会社で、給与もなかなかに渋く、とはいえ今更辞めて新たな職に就くのは自分には無理だと早々に諦めて、日々変化の少ない社畜人生を送っていた。
そんな中、ネットの広告を見て何気なく始めた、スマホアプリゲーム「戦略シミュレーション風RPG アストラル・サーガ」に気付けばどっぷりはまり込んでいた。
「アストラル・サーガ」はユーザーの間では「アスサガ」の略称で呼ばれ、個性的なキャラと有名イラストレイターによるキャライラスト、綿密に作りこまれたアクションモーションなどが受け、一定のユーザー数を獲得していた。
昨今の他の様々なアプリゲー同様に、「アスサガ」にもガチャが搭載されていたが、「アスサガ」は、ゲーム内のキャラはガチャで手に入るのではなく、メインストーリーやサイドストーリーで手に入る仕様になっていた。
ガチャは、キャラに装備させる特殊な武器や防具「霊器」を手に入れるものであり、この霊器がなければ、如何にも強そうなキャラも、油断すると雑魚キャラにも簡単に負けてしまうステータスまでしか成長しないという、霊器の装備が前提となっているゲームであった。
そして、ネット上では、この霊器を手に入れるためのガチャの仕様が過疎化を招く要因の一つであったと語られていた。
ガチャへの課金を誘導するようなピックアップガチャの連発と、100回回してもピックアップされたものが手に入らないことが普通に発生する鬼畜なガチャ仕様などなど・・・・
匠も、課金しては何度も爆死して悲鳴を上げたプレイヤーの一人ではあったが、それでもこのゲームに対する愛情は衰えず、何とか手に入った霊器を好きなキャラに装備させては、内政に戦にと、「アスサガ」の世界を満喫していたのだった。
今日、運営からのお知らせを見るまでは。
「あー、へこむなあ。・・・今さら他のゲームをまた始めるのもなあ」
そういって、信号機の下で信号が変わるのを待っていた匠が、スマホ画面から目を上げると、対面の信号機の下あたりで、こちらを見て驚いた顔をしている人々の姿が目に入った。
「?」
怪訝な顔をする匠。
イヤホンをして、スマホ画面に見入っていた匠は気付かなかったが、ふらふらと蛇行運転をしているトラックが、匠がいる信号機下の歩道に向かって進んできており、匠の周囲にいた人達は、いち早くその場を離れていたのだ。
流石に変に思った匠が周囲を見渡すと、自分の左側のすぐ目の前に、運転席で居眠りをしているドライバーが乗るトラックが突っ込んでくるのが見えた。
「あ?え?」
匠にできたのは、戸惑った声を漏らすだけであった。
次の瞬間、トラックとぶつかった匠の意識は深い闇に閉ざされるのであった。
遅筆なので、亀並みの更新速度になるやもしれませんが、おおらかな広い心で見ていただければ幸いです。