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第八十八話 レイとリリルの、本気の決意


 ――レイ視点――


 あぁ、どうしよう。

 本当に、僕は本当にとんでもない男を好きになっちゃったよ。

 今僕の恋人は、学校の壇上でたくさんの拍手を浴びている。

 しかも緊張もせずに、当たり前かのように胸を張って拍手を受け止めているんだ。

 ハルは、あまりにも大きすぎる。本当に、とてつもなく大きくて、今の僕じゃきっとハルの隣に立てない。


「……ハル君、私達よりずっと遠くにいるね」


 隣に座っているリリルが、寂しそうに呟いた。

 どうやら、僕と同じ事を考えていたらしいね。

 

 国王陛下から史上初の二刀流剣士であり、王家の命を救った功績で《双刃の業火》という二つ名と、二つの名剣を授与されている。

 本当は勲章と爵位も賜るはずだったのに、あろう事かハルはそれを盛大に蹴り飛ばして断った。しかも理由が、音楽で勲章と爵位を貰いたいから、だそうだ。

 それを本人の口から聞いた時、僕とリリルは呆れを通り越して、乾いた笑いしか出なかったね。

 でも、それから数ヵ月後、ただの大口でない事を、陛下の前で証明した。

 何とあいつは、音楽学校の進級試験に陛下を引っ張り出してきたんだ。

 そして、全校生徒と陛下や来賓の前で、臆する事なくピアノを演奏。大絶賛を受けたそうだ。

 さらに新しい楽器を開発したとの事で勲章を授与される話にもなったが、それも蹴ったのだとか。

 何回栄誉を蹴るんだ、この男は!

 普通勲章授与って、一生に一度あるだけで奇跡なのに、そのチャンスが二度もあったにも関わらず断っているんだ。

 前代未聞としか言えない。

 でも本人はしれっとしているし、逆に陛下や王太子殿下、王女殿下とも仲良くなったらしくて、かなり砕けて話しているようだった。


 これだけ僕達とハルの間には、器の大きさで隔たりがある。

 音楽学校が《武力派》によって占拠された時、僕達は奴等の異常性に怯えて何も出来なかった。

 その時に僕とリリルは、あいつの隣にいる為に強くなろう、心と身体の両方共強くなろうって決めたんだ。

 だけど、そんな覚悟程度じゃ、ハルの隣にいる事すら出来ないのが、今ようやくわかった。


「リリル、ちょっと抜けて二人で話そう」


「うん。私も、お話ししたかった」


 ふっ。本当僕達は意思疏通が出来ているようだね。

 僕達は皆がハルに拍手を送っている中を掻い潜って、外に出た。


「ハル、本当すごいね」


「うん。私達なんか、とっくに置いていっちゃってた」


「そうだね。僕ね、あいつの隣にいれないのがすっごく悔しい」


「レイちゃんも、だったんだ……」


「当たり前だよ。あいつの隣に立てる奴なんて、そりゃ本当の天才位だよ。悔しいけど、僕達じゃないよ……」


「……うん」


 僕の目が熱くなる。

 悔しくて悔しくて、今にも泣きそうなんだ。


「隣にいれないって事は、ハル君の隣に立てる女性がいたら、その人になびいちゃうよね?」


「……恐らく、ね」


 僕達が隣にこだわる理由が、最近になってはっきりわかった。

 あいつの隣を空けるって事は、あいつと同じ土俵に立てている女性が入ってきてしまうって事なんだ。

 実質今、ハルの隣は空いているような形になっている。

 僕達が恋人となっているけど、今のハルには追い付いていない。

 だからきっと、あいつの事を全て理解できて、そして隣にいる女性を最終的に選んでしまうだろうね。


 正直八歳である僕が、こんな事を考える時点でちょっとおかしいんだけど、あいつと一緒にいると急速に歳を取っていくような感覚に陥るよ……。


「リリル、僕、さっき思ったんだ」


「……なに?」


「……僕は、一度、ハルから離れようと思ってる」


「えっ!?」


 リリルに思いっきり肩を掴まれて揺すられながら説明を求められた。

 まず、僕はハルの事を心から愛している。

 でも現状、気持ちが大きかったとしても、今のままだとハルを支えられないと思ったんだ。

 傍にいるだけなら誰でも出来る。だけど、支えたいのならばこの好きな気持ちだけじゃダメだと思う。

 そして多分傍に居続けたら、あいつの優しさに甘えて何もせずにふやけていって、結果あいつを理解できる女性が現れたら振られてしまうだろうね。

 だから僕は、ハルから一度離れて自分を見つめ直して、あいつにふさわしい女になれるようになりたいって思ったんだ。

 ……すっごく不安だし、すっごく寂しいし、すっごく悲しいけど。

 だけど本気であいつと添い遂げたいなら、それ位しないといけないんだと思う。

 僕の考えを、そのままリリルに説明したんだ。


「そっか。レイちゃん、決めたんだね」


「うん、決めた。今後もあいつの傍にいる為に」


「でも、その間にハル君取られちゃうかも? ハル君、とってもモテるもん」


 そう、あいつは半端なくモテる。

 音楽学校から帰ってきた時、あいつが放つ雰囲気は、半年前とは別格だった。

 学校の女の子達は皆ハルのその雰囲気にやられ、すでにお付き合いしていた女子は彼氏を振ってまでハルにアタックを掛けたらしい。

 そりゃ王都であれだけの功績を出したんだ、雰囲気がそこら辺の男子とは比べ物にならないだろうね。

 僕とリリルだって、その雰囲気にやられちゃって、再度惚れ直しちゃった位だし。

 きっと僕があいつから離れたら、隙を突いて仲良くなろうとする女子はたくさん出るだろうね。

 でもね、今後の為にも、距離を置くのは必要なんだ。

 僕自身を高める為に。


「多分あいつは、この学校を卒業したら王都に行くと思う」


「多分、そうだよね」


「だから僕は、そこから成人になるまで自分を磨くよ。まぁちょっと長めな花嫁修行だよ」


「……」

 

 十歳で学校を卒業したら、生徒は成人になった時の就職口を探す為に行動を開始する。

 農家だったらそのまま家業を継ぐし、商人になりたい子は何処かの町か村で商人の元について修行を始める。

 成人は十二歳で、成人にならないと基本的に働く事は出来ない。

 だから成人するまでの二年間で働く場所を見つけるんだ。

 僕はその二年間で、あいつにふさわしい女になろうと考えている。


「レイちゃん、どんな修行をするの?」


「ん~、やっぱり僕は剣が好きだから、剣をもっと磨いてあいつと並んでやるんだ」


「それ、別に離れなくてもいいと思うんだけど……」


「恥ずかしい話なんだけど、僕は自分で思っていたより甘えん坊なんだ。あいつがいると、甘えたくなっちゃうんだ」


「……何かわかるかも」


 リリルも結構ハルに甘えるからね。僕の気持ちがわかるみたいだね。


「だから傍にいたら、僕はいつまで経っても成長しないと思うんだ」


「……もう決めちゃったんだね」


「うん、決めた」


 少しの沈黙が流れた。

 でも、沈黙を打ち破ったのはリリルだった。


「じゃあ私も、レイちゃんに付き合うよ」


「えっ!?」


「私もね、同じ事考えてたの。理由も全く同じ」


 驚いた。

 リリルは意地でもあいつの傍を離れないものだと思ったんだけど。

 

「もしさ、僕達が花嫁修行している間に、別の子の事を好きになっちゃったら?」


「……嫌だけど、新しい私達にまた振り向かせればいいと思う」


 リリルが泣きそうだけど無理矢理笑顔を見せる。

 強いなぁ、リリル。


「僕は、ハルを信じてみるよ。きっと、ハルは二年間待っててくれるって」


「私も信じてみる。二人で、頑張ろ?」


「ああ!」


 僕達は学校を卒業してから二年間、ハルと離れる事を、決めたんだ。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

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