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第三十二話 俺、王都に行く!

3/2 爵位についての部分を変更しました。


「よっし、忘れ物はないな!」


 あれから二日経った。

 王都へ移動する準備が終わった俺は、部屋を見渡してみる。

 元々シンプルで特に装飾とかもしてなかった部屋だが、本とか全部取っ払うと殺風景としか言えねぇな。

 愛着ある部屋だけど、半年間はここには戻って来れそうにない。

 異世界に来て八年間、俺はこの部屋で育ったんだなぁ。


「じゃ、また半年後にな!」


 特に部屋に意思はないとは思うけど、何となく声を掛けた。

 何となくこの部屋が、「いってらっしゃい」って言ってくれたような気がした。

 部屋を出てリビングに行くと、リリルとレイが椅子に座っていた。

 二人は下を向いて泣いている。

 全く、あんなに俺の背中を押してくれたのに、当日に泣かれちゃ行きにくくなっちまうよ。

 俺はそんな二人に近づき、頭をくしゃくしゃっと撫でた。


「わっ!?」


「は、ハル君!?」


 顔を上げたレイとリリルは、せっかくの美人さんが台無しになる位の泣き顔だった。


「今生の別れじゃないんだぜ? 笑顔で送り出して欲しいね!」


「だって、だってさ。やっぱり寂しいんだよ!」


「寂しいよぉ」


 二人は大人びた容姿だけど、こういう所は年齢相応なんだよな。

 それが可愛くて、たまらなく大好きなんだけどな。


「なら、頻繁に二人に手紙を書くよ。今俺が何をしているとかさ!」


「「……本当?」」


 ははっ、声が綺麗にハモってる。


「ああ! 返事をくれたら、絶対にすぐに返事を書く。だからそれで半年、我慢してくれ」


 すると二人は、泣きながら俺に抱き着いて来た。

 もうワーワー泣くわ泣くわ。

 普通だったら煩わしく思うんだろうけど、それすら愛しく感じる俺は、レイとリリルに対しては甘々だと思う。

 何とか二人を宥めた俺は、家の外に出る。

 外にはすでに馬車が用意されていて、それを護衛する従者が五名いた。

 そして、俺の両親、リリルの両親にレイの両親、そしてアンナ先生にチャップリン校長が見送りに来てくれた。


「せっかく王都に留学するんだ。しっかりと学んで来いよ!」


 父さんがにかっと笑って言ってくれた。


「身体には気を付けるのよ? 暴れてもいいけど、怪我はなるべくしないでね?」


 母さんが涙ぐみながら言ってくれた。


「君には感謝しているよ。リリルがこんなにも積極的になったんだからね。とにかく、もっと大きな男になって、うちの娘を貰ってやってくれ」


「私も、ハル君は大きな存在になると期待していますから、頑張ってきてね?」


 リリルの両親だ。

 すでに挨拶は済ませてあって、何度も土下座して交際を認めて貰った。

 こりゃしっかり王都で良い成績を残さないと、交際自体解消されそうだ。

 

「君なら向こうでも大丈夫だろう。レイの結婚相手になるんだ、相応の成績を修めて来なさい」


「ふふ、ハル君ならそれを簡単にやってしまうかもしれませんね、あなた」


 レイの両親だ。

 この人達とはたまに会話にズレがあるように感じる。

 何か、俺自身見落としているような気もする。

 帰ってきたら、しっかり話してみよう。


「……ハル君は魔法を覚えてから、あの学校では収まりきれない存在になっていると私は思っています。ですから、ハル君には王都が合っているかもしれませんね。でも、必ずここに戻ってきて、成長した姿を私達に見せてください」


 アンナ先生だ。

 この人には結構色々キツく言われたりしたけど、何だかんだで心配してくれている優しい先生だ。

 今も慈愛がこもった笑顔を俺に向けてくれている。

 アンナ先生が担任で、本当によかったよ、俺。


「ハル君、しっかり学んで帰ってきてくれたまえ。そうしたら――」


 チャップリン校長の話は聞かない事にした。

 その先はわかる。

 良い成績を取った俺を使って、客寄せパンダにするつもりだろ。

 そして学校を繁盛させて、給料アップを狙ってる!

 こんな見送りの時にまで言うなよ……。


「さぁハル君、出発するぞ。馬車に乗り込みたまえ」


「あいよ!」


 俺は馬車に乗り、皆に手を振った。


「俺、絶対音楽学校で良い成績を修めて、大きくなった俺の姿を見て貰う為に戻ってくる!」


 馬車は動き出す。

 ゆっくり、ゆっくりと。

 見送ってくれている皆も、俺に激励の言葉を言ってくれている。

 嬉しいな、マジで。

 すると、リリルとレイが馬車に向かって走ってきている。


「ハル!!」


「ハル君!!」


「リリル、レイ!!」


 俺も思わず身を乗り出した。

 二人は手に何かを持っている。

 何だ、俺にあれを渡したいのか?

 二人は馬車がトップスピードに乗る前に俺に追い付き、持っていた物を俺にくれた。


「それ、僕とリリルで作ったお弁当だよ! 道中で食べて!!」


「ハル君、いってらっしゃい!!」


 ついに馬車はトップスピードになり、俺の大切な女の子二人は遠ざかっていく。

 でも、彼女達は懸命に俺に手を振ってくれていた。

 本当に、嬉しいな。


「二人共、また半年後な!!」


 いってきます!!












 さて、長い馬車の旅は順調だった。

 約十日かかる距離なのだが、思いの外順調らしく、今のペースなら一日位短縮できそうだとの事。

 道中は特に事件と言った事件は起きていない。

 まぁそれなりにウェアウルフが登場し、俺と従者五人で難なく討伐した。

 最初は「君を守るのも俺達の仕事だから、馬車に戻ってくれ!」と懇願されたが、剣の腕が鈍るのも嫌だったからお願いをして戦闘に参加したんだ。

 そして俺の戦いっぷりを見て驚き、戦闘に参加しても問題ないというお墨付きを貰った訳だ。

 唯一の不満点は、皆ムサい男だけって所かな……。

 あぁ、早速愛しのリリルとレイが恋しくなったわ。


「いやぁ、ハル君は凄いね。音楽の才能もあれば、戦いの才もある! 君が私の学校でどのような風を吹かせてくれるのか、とても楽しみだよ」


 アーバインは馬車の中で、そう言った。

 何だ、こいつは自分の学校に何かしたいのか?


「まるであんた、今の音楽学校に改革的な何かを求めてるように聞こえるんだけど?」


「……君は恐ろしく察しがいいな。その通りなんだよ」


 詳しく話を聞いてみると、どうやらアーバインの音楽学校事情は、貴族が家名に箔を付ける為だけに入学してくる事が多いのだそうだ。

 そういった輩はただ威張り散らすだけであって、ろくに音楽を学ぼうとしないのだ。

 さらに真剣に音楽を学ぼうとしている留学生の中にも、外国の有力な貴族のご子息がいる為、あの手この手を使って自分達のグループに引き込もうとしているらしく、途中で留学を止めてしまう生徒が出てきているとの事。

 うん、知ったこっちゃねぇな!


「っていうか、アーバインさんも貴族だろ? そんなのさっさと退学にしちまえばいいじゃん?」


 対等な貴族、もしくは貴族の階級で侯爵と言えば、最高位の公爵の次に偉い。

 爵位もどうやら前世と同じで、高い順に公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵となっている。そしてそれぞれに準爵位もあるみたいだ。

 そんなに偉いんだったら、特権でもなんでも発動させればよくね?


「それが簡単だったらこんなに苦労はしていないよ。意外と面倒なんだよ、貴族の世界も」


「ふぅん。俺には関係ないや。俺は俺のやりたいようにやって、しっかりと学ばせて貰うよ」


「うむ、君はそれでいい。しかし、異世界の音楽は我々より進んだ技術を持っている。君もその技術を持っているはずだが、何故敢えて留学を決意したのかね?」


「……まぁ恥ずかしい話、作詞作曲は出来るんだけど、それは異世界の言語での話でさ。うちらの言葉じゃ作詞出来ないんだ」


「なるほど、異世界の言語に慣れすぎたって訳か。確かに文字数とかが違うように感じるな。それを学ぶ為にって事かな?」


「半分は正解。もう半分は、音楽仲間を見つける為かな」


「仲間?」


「ああ。音楽は一人でも出来るけど、複数人でやるとものすげぇ曲が出来るんだ! だから俺は、それをやりたいんだ!」


 異世界でオーケストラ、異世界でロックやヘヴィメタルライブ……。

 考えただけで最高じゃんか!

 音楽は本当に最高だから、それをこの異世界で皆に広めたい!!

 きっと異世界だけにしか存在しない、音楽のジャンルが生まれてくるかもしれないしな!

 それを目撃できたら、たまらないな……。


「ふふ、本当に私は音楽に対して傲っていたよ」


「ん?」


「私は音楽で爵位を頂き、称賛を浴びた。故に、私は勝手に音楽を極めたと思っていた」


「おう、本気で音楽やってる人間からしたら、相当舐めてる発言だったぜ?」


「うむ、今の君を見て、私はそれをつくづく思い知らされた」


「俺を見て?」


「ああ。今の君の演奏技術や知識は、その異世界の音楽のおかげで恐らく世界一と言って良いだろう」


 まぁこの世界より何百年も音楽文化が進んでいる地球出身ですからね。

 なんて言えないから、一応頷いておいた。


「それなのに自身の欠点を明確化し、積極的に学ぼうとするその姿勢は、目から鱗なのだよ」


「そうなんだ。まぁ音楽なんて流行り廃りが激しいから、一生掛けて学んでいくもんだと俺は思ってるけど」


「そう。だから私もまた、君を見習って勉強し直す事にした」


 へぇ。

 このアーバインさん、ちょっと有頂天になってただけで、根っからの音楽家だったみたいだ。

 前世でもいたけど、一定の地位や名誉を得た音楽家は保身に走り、形のない地位と名誉を守ろうとする。

 どんなに他人がああだこうだ言おうが、聞く耳持たないんだ。

 だけどアーバインさんは、考えを改め直した。

 保身に走る系の人間かと思ったら、全然違ったんだな。

 ん?

 あれ?

 もしかして、俺を留学に誘ったのは――


「あんた、地きゅ――異世界の音楽を俺から学ぶ為に、留学させたな?」


「……本当に君は八歳かね? 察しが良すぎるよ」


 否定しやがらねぇ……。

 今回の留学に関して、入学金や授業料は一切免除されている。

 多分、アーバインにそういった下心があったからだったんだな。


「……まぁ、俺もその分音楽学校で学ばせて貰うぜ」


「もちろんだよ。さぁ馬車の旅はまだまだ長い、リューンを弾き合おうではないか!」


「おっ、それいいね!!」


 俺達はそうして、馬車での移動中はお互いの演奏を披露し合った。

 野宿での夕食時には周りに魔物がいないか確認した後、従者達の為に曲を披露したりして楽しく過ごせた。


 そんなこんなで、リューンを弾いたり魔物を退治したりしながら順調に馬車は進んでいった。

 アーバインとは、もう音楽仲間と言える位仲良くなった。

 正直家が少し恋しいし、レイとリリルにすっげぇ会いたいけど、年上だが音楽を語らえる仲間が出来て楽しかった。

 そして、長いけど短く感じた馬車旅は、終わりを告げる。

 そう、王都に着いたんだ!!


「うっわぁぁぁぁ、すっげぇでけぇ!!」


 王都を一望出来る高めの丘から見る王都は、中世風の街並みだが壮大だった。

 東京ドームが十個位入りそうな程の広さで、それを城壁で囲っている。

 区間が綺麗に道で分けられているのがはっきりとわかるし、道まで整備されているようだった。

 中央にはまさに象徴とも言える城が、王の威厳を示すかのようにそびえ立っている。

 いやぁ、何か感動するわぁ……。


「どうだい、これが《芸術王国レミアリア》が誇る王都、《リュッセルバニア》だよ」


 そうだ、説明が遅れていたな。

 俺が住んでいる国は、多くの芸術家を排出した事から、「芸術を学ぶのであれば《レミアリア》」と言われる程で、多くの外国人が学びに来ている。

 その事から、芸術王国と言われるようになった。

 他にも七つ程国があるのだが、その時にまた説明しよう。

 このレミアリアは、初代国王にして女王のレミアリアが、絵画で多大な評価と資金を得て、後進育成の為に学校を設立。

 生徒は溢れる程増えて、いつの間にかたくさんの家屋が建つようになる。

 すると自然に様々な店も建ち、レミアリアが他国の王からの推薦もあり、初代国王としてこの国を建国した。

 今や絵画だけでなく音楽も芸術とされ、有名な音楽家や芸術家を世に送り出している。

 

 リュッセルバニアの人工は、現在五十万人と言われていて、今でも増加し続けているのだとか。

 すっげぇな、マジで……。


「すっげぇよ、俺はここで半年過ごす事になるんだな……」


「何だね、怖気づいたか?」


「んなバカな! むしろわくわくしてくるね!」


 あぁ、こりゃ最高の環境だと思う。

 本気で楽しみだ!

 そんな俺を、アーバインは微笑ましそうに見ている。

 やめろ、俺は男に見られる趣味はねぇ!


「うっしゃ、気合い入れるぜ!」


 こっからは気を引き締めて行こう!

 初心に返って、しっかりと学んでやるぜ!!





最後までお読みいただき、ありがとうございます!

次回からは第二章と言える、王都編がスタートします。

リリルとレイは、少し楽屋でおやすみしてもらいますw

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