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第百八話 予定の詰まった一日 ――音楽家庭教師編4――


 皆の目がいい感じでギラついた所で、俺は早速ピアノを演奏する事にした。

 もちろん、俺と全員がどれだけピアノの演奏に差があるのかをわからせる為だ。

 ははっ、いい感じに闘争心を出してくれているから、俺も自分の腕を披露したくなったんだ。

 まぁいやがらせでもあり、煽りだな。


 さて、ピアノ曲かぁ。何を弾こうかなぁ。

 うーん、だったらこれかな。


 俺がチョイスした曲は、誰もが知っているベートーベンのピアノソナタ第十四番、《月光 第三楽章》だ。

 この月光は全部で三楽章あり、俺が選んだのはその最後の曲だ。

 第三楽章はとにかく激しい。

 全ての指が常に鍵盤上を忙しく動き回り、激情しているのかの如く音の強弱表現をする必要があった。

 右手も左手もフル稼働。俺もこの曲が出来るようになるまで何度も練習をしたもんだ。

 新しい身体になっても余裕で弾ける。魂が覚えているっていうのは、こういう事を言うんだな。ちょっと不思議な感覚だ。

 そんな激しい曲も、まるで休憩していいよとベートーベンがゆっくりになって、且つ柔らかなタッチを求められる部分がある。

 それでも基本的には全体的にまだ休めるというだけであって、どっちにしても両手の指をフル稼働させなくてはいけない。

 最初は本当に何度も指がつって、何度も挫折しそうになったのは今でも覚えているさ。


「な、何という指の動きだ……」


「あぁ、この激情、圧巻される」


「激しい曲の後にくる静かな曲調、だがまたすぐに激しくなる。感情の起伏が激しいのだろうか?」


「いや、怒りが込み上げて一瞬は収まったが、また思い出して怒り出したのでは?」


 俺の演奏を聴いて、様々な感想を述べている。

 流石音楽業界の重鎮達、ただいい曲だなって感想だけでは終わらせないのは素晴らしいぜ。

 

 さぁ、曲の終わりが近づいてきた。

 静かに激しさが加速し、ピークになりそのテンションのままこの曲は終わる。

 俺はこの曲が作曲された背景とか、そういったものには全く興味がない。ただ、心を振るわせられた素敵な曲だから、俺も演奏したいって思って覚えただけだ。

 だから重鎮達が述べた感想はもしかしたら間違っているかもしれない。

 でも、正直俺は音楽に正解はないって思っている。

 自身が感じた感想こそ、本来自由である音楽の醍醐味じゃないかな。

 普通の人なら素敵な曲だで終わらせるけど、彼らは曲の奥深くまで想像を膨らませて真理に至ろうとしている。

 うん、この人達はやっぱり音楽家としてはかなり才能があると思う。


「ふぅ。いかがだったかな? これが高難易度である《月光 第三楽章》ってやつだ。俺が教える最終目標はこの曲だぜ?」


 皆の目を見てみる。

 うん、アーバインを含めてかなりやる気が出ている。

 むしろ、「俺もこの曲を弾けるようになりたい!」っていう意気込みが肌で感じられた。

 何度も言うが、アーリア以外な。 

 ははっ、教え甲斐がありそうだな。

 とは言っても、俺も初めて人に教えるんだ、色々試行錯誤が必要になるだろう。

 そこは何とか上手くやっていこうじゃないか!


「じゃあこれからスケジュールを決めていこうと思う。人数が多いから一人一時間、週一回って形になるけどそこは勘弁してくれよ?」


 俺がそう言うと、皆はまぁ渋々って感じで頷いた。

 一週間に一人複数回教えてたら、体が持たないって!

 そこは妥協してもらわないとな。

 今回一人一回七万ジルという報酬で仕事を承った。

 正直破格の報酬なんだけど、俺のピアノ演奏にそれだけの価値を見出だしてくれたらしい。

 ちなみに教える人数はアーリア含めて二十五人。

 一週間で考えると一日三人、場合によっては四人で、一人辺り二時間教える形になる。

 つまり俺の一週間の収入は百七十五万ジルというとんでもない額になる訳だ!

 だが、この先の音楽活動の事を考えると、これ位は欲しいなって思う。

 音楽って何だかんだ収入になるまでに時間もかかるし、金もかかる。

 正直法外な報酬だとは思うけど、金はあればあるだけいいもんだ。


 全員のスケジュールが組み終わり、アーリアとアーバイン以外は解散となった。

 皆、ピアノを弾けるように頑張ろうとかなりやる気に満ち溢れていて、それが気迫となって体外へ漏れ出ていた。

 教え甲斐がありそうだな。


「ハル、お疲れ様」


「ハル様、お疲れ様でした」


 少し疲れて椅子に座った俺に、アーバインとアーリアが労いの言葉をくれた。


「サンキュー、アーリアにアーバイン」


「しかしお前、正直成人していない子供が貰う報酬ではないのは理解しておくんだな」


「わかってるって! でもこの先の音楽活動とかの運用資金が欲しいからさ、悪いけど稼がせて貰う」


「まぁ、それがいいだろうな」


 アーリアが俺に水が注がれているコップを持ってきてくれた。


「ハル様、喉乾いたでしょう? どうぞ」


「おっ、ありがとうな、アーリア!」


「ふふふ、どういたしまして」


「ハル! お前何姫様にそのような事をさせているんだ!!」


 俺がアーリアからコップを受け取った瞬間、アーバインにめっちゃ怒鳴られた。

 そっか、アーリアは王族だし、そんな事させると色々不味いよな。

 王族の面子だったりとかさ。


「わり、アーリア。そこら辺気にしてなかった……」


「謝らないでくださいませ! わたくしは、ハル様に尽くしたいのです!」


 そんな嬉しそうな感じで言われると、嬉しくなっちまうよ。

 本当、こいつは俺に尽くしてくれてるなぁ。

 ありがたいんだけど、申し訳なくなってくる。

 あっ、何か急にレイとリリルに会いたくなってきた……。


「とりあえずハル。高額の報酬を貰っているんだ、中途半端な事は出来ないぞ? 少しでもしくじれば、音楽で貴族になる道は絶たれると思った方がいいだろう」


「ああ、それはちゃんとわかってるさ」


 何たって相手は音楽業界の重鎮達。

 彼らが俺の悪い噂を流した瞬間、俺は音楽業界で食っていけなくなる事間違いなしだ。

 だから、スパルタ教育をやるにしても、しっかり本人に成長した実感を味わってもらわないといけない訳だ。

 なかなか難しいけど、俺自身もワクワクしているのは事実だ。


「手を抜いて教えるつもりはないぜ。アーバインを含めてな!」


「そうでなきゃ困るぞ、ハル」


「えっと、ハル様? わたくしは音楽家志望ではないので、お手柔らかに……」


「まぁアーリアは最初からその予定だったから、大丈夫だぜ」


「……よかったですわ」


 この人形のような銀髪美少女にスパルタ教育をして、ひーひー喘ぐ姿を見るのもまた一興かと思ったが、やめておこう。

 流石の王様も激怒するだろうし。

 まぁ俺の言葉を聞いて安心したのか、落ち着きを取り戻したアーリア。

 ふっ、アーリアはからかい甲斐があるぜ。

 

 俺とアーリア、アーバインは軽く紅茶を飲んで楽しんだ後、俺はアーバインの屋敷を後にした。

 これからは懐かしい親友達と会える!

 楽しみだ、すっげぇ楽しみだぜ!

最後までお読みいただき、ありがとうございました!

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