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序章:エンディング そして物語が始まる

■エンディングフェイズ


 戦いは終わり、夜が明ける。

 どうやって帰ったのかも思い出せない。泥のような眠りから目覚めてみれば、そこにあったのはいつも通りの朝。

 どことなく重い身体も、夢見が悪かったと考えれば説明がつかなくもない。

 あるいは、全ては悪い夢だったのだろうか。

 そうであればいい、という願いも、そうでなければいい、という畏れも飲み込んで、新たな日常が始まる。



●エンディング シーンPC:洋一


 ――翌朝。

 目が覚めてみても、何が起きたのかいまいちはっきりしない朝。とりあえずいつも通りに学校に向かう。

 途中、なんとなく中庭の方を回ってみる。昨夜は暴れ回って色々壊したような気がするのだが、そのような痕跡は何一つ見つからない。

 まるで、すべてがただの春の夜の夢であったかのように。

「おーっす、天野」「どうした、寝不足か?」と教室に入ってきた洋一に、クラスメイトが不審げに声をあげる。

(あれ)

 洋一は違和感を覚えた。何かが噛み合わない。

 何かが”ずれてしまった”と。


洋一 :「い、いやもー昨日変に昼寝し過ぎちゃったからさーっ。てかいっちゃんもにかちゃんも酷いっしょ置いてくとかさー」

GM :「あ? しょうがないじゃん、天野いつまでも起きねえし」「銀髪がどうだ緑の目が綺麗だなどと寝言言ってれば、これは起こしたら悪いと思うだろう」クラスメイトの一ノ瀬と二階堂が口々に答える。

洋一 :ぎく。「い、いやそれはその……えー何よそれ何の寝言よ~」(ヘラヘラ)

GM :「なんだよ、夢で美人とでもデートしてたん?」「……どうなんだ、天野。美人だったか、それとも美少女だったのか。聞かせてもらおうか」男二人がずいっと迫る。

洋一 :「い、いや夢っしょ夢! 覚えては……」じゃあ、その辺でほとりの登場に期待します(笑)

ほとり:はい(笑)


 詰め寄る悪友の肩の向こうで、からり、と教室の戸が開く。何とはなしに、洋一の視線はそちらに吸い寄せられた。

 少し俯き加減に、両手で鞄を持って歩く少女。海辺ほとりに他ならない。

 今時逆に珍しいほどに「ぱっとしない、なのにどこにでもいる」。そんな少女……のはずだった。昨日まではそう思っていた。

 ――そう、その鮮やかな髪と瞳に気がつきさえしなければ。

 まるでアニメから抜け出してきたようにきらめく銀髪。左右色違いの瞳。どうして気づかなかったのだろう。こんなにも色鮮やかな少女が、すぐ側にいたというのに。

「天野、どうした?」

「…………」

 二階堂が不審げに問いかけるのにも応えず、洋一は視線を吸い付けられるままにしていた。

 まさに『魅せられた』――その表現そのままの様子で。


GM :「あ、おはよー、海辺さん」「今日も地味だねー。もっと気合い入れなよー」とギャル系のクラスメイトが何気なしにそう言う。

ほとり:「そうですね」少しだけ律儀にこたえながら、鞄をかけて着席。そのまま、窓の外の海をみる。


 朝の光が差しこんで、海からの風にカーテンがゆらゆらと揺れる。

 海風で髪の毛がふわりと、舞い上がる。

 光を受けて、きらめく銀髪。海の青、空の青、そういったものを浴びてエメラルドのようにもきらめく髪。

 ――宝石は光を浴びなければ、輝かない。


洋一 :「……やっぱ綺麗だよなぁ」思わず周囲の状況も考えず呟く。

GM :「あ、誰が? もしかして海部が?」「……寝ぼけていないか? それともあれか、一目惚れというやつか?」とは一ノ瀬、そして二階堂のコメントだ。

洋一 :「あ、い、いやちが、その……あー、あれよあれ、見慣れた海もたまに綺麗にこう!」慌てて座ってなんとかごまかそうとします。

GM :では、一ノ瀬と二階堂が「なるほど、海か」「海、いいねー、来たるべき夏! 海、水着!」などと騒ぎたてていたところ……「おら、馬鹿ども、騒いでいないでホームルーム始めるぞ」いつの間にか背後に現れた三鷹先生のタブレットで、一ノ瀬と二階堂はばかん、と頭を叩かれていく。

洋一 :「は、はーいっ!」慌てて支度を始めつつこそっと首をかしげる。――あの経験が夢だったかのような平穏な日常が、妙にしっくりこない。

GM :ずくん、と手首に熱を感じる。自分はここにいるのだ、と主張するかのように。シャードの填まった腕輪が、そこに自らを主張している。

洋一 :「熱っ……あ、アレっ!?」外したはずなのに?

GM :「出席取るぞー、天野ー」

洋一 :「は、はいっ!」(ガバっと頭を上げる)

GM :「ホームルームからぼっとするな。次、一ノ瀬ー」「うへーい」


「……ホント、ワケワカんねぇ……」

 そうして、無理矢理、意識が日常に引き戻されていく。

 ――しかし、そこにあるのはもはや、昨日までの日常ではないのだ。



●エンディング シーンPC:覚醒


 事件は、奈落を倒せば終わりというわけではない。クエスターの負荷を軽くするため、組織は後始末部隊を派遣したりもするが、それで当事者たる覚醒が何もしなくていいわけでもない。

 プロだからこそ、宿敵(と覚醒が一方的に睨んでいる)ブラックロータスからの一方的な呼び出しにも応じるし、事件の顛末報告なども成し遂げる。

 アイドルも、奈落ハンターも、プロの仕事は楽ではないのだ。


覚醒 :きゃふー。

GM :ブラックロータスに呼び出されて、昨日の事件の顛末の報告を提出したところ、みたいな感じで。

覚醒 :了解です。では「……ということで、報告終わりだよー」と、ざっくりと報告書の内容を読み上げます。

GM :「事態は了解しました。迅速な対応、お疲れ様です」ペンを置いて、ブラックロータスは小さく息を吐き出す。


 ブラックロータス。基本ルールブックP.313掲載NPC。世界中の宗教連合を母体とする奈落葬送組織フューネラルコンダクターの枢機卿であり、同組織の表裏両方の顔役とも言える人物だ。

 奈落討伐を生業とするクエスターの、直接の上司として活躍することが多い。


GM :「『侵蝕者』との遭遇、魔女の樹の暴走、しかもいきなりのクエスター覚醒、ですか。元『守護者』の貴女が居合わせたことを含め、偶然で片付けるにはできすぎですね」ちらり、と覚醒の反応を見るように、ミラーシェードの下で氷の瞳が動く。

覚醒 :「ま、どう考えても裏で糸引いてる奴がいるねー。アイニクとサトリちゃんは御札つけられたキョンシーではないんだけどなー」と戯けてみせる。「――死体ではあるけど!」キャピーン! と謎ポーズ!

GM :「そうですね。我々が貴女に望むのも、操られる屍人ではなく、手綱を握る側です」と、ブラックロータスは動じず書類を差し出す。「灰岡覚醒、貴女に、いまふたたび、『侵蝕者』に対する『守護者』の任を任せたいと思います」

覚醒 :「……そーきますか。望むところだけどね」にっかり笑うけど目は笑ってない。

GM :「報告にあった、かつての『侵蝕者』珠来しおののスペクター化……と言ってよいものか。まだ定かではありませんが、その標的が貴女と、海部ほとりであることを考えれば、この上なく適切な配置と言えるでしょう」

覚醒 :「そこも含めて調査しようと思ってるよー。サトリちゃん気になることが多すぎて!」

GM :「……念のために伺いますが、彼女に関する記憶……『約束』とやらに思い当たるところは?」と言われても、今のところは思い出せる要件はないんだけど。

覚醒 :「思い出せたら突破口になりそうなんだけど、どうにもねー」ぐぬぬーんと渋い顔

GM :「わかりました。当面、貴女は海部ほとりの護衛と監督、そして自分の失われた記憶の復旧に努力して下さい。……それと、この同時にクエスターに覚醒したという、天野洋一少年ですが」

 「彼についても、ついでに指導をお願いします。しばらくは貴女方三人を一つの戦術単位ユニットとして、葬送を含めた仕事を任せることになるでしょう」

覚醒 :「ん、あの子もか。了解了解! ユニットかーついにサトリちゃんユニット組んじゃうかー」むふふと笑う。

GM :「……何か勘違いをしていませんか?」無視して暴走してくれると締めやすい(笑)

覚醒 :「してないしてなーい! ……そうだ、ユニット名決めないと! 炎と海と死体をどう表現するか考えないと……火葬? 溺死?」物騒な妄想を繰り広げる。

GM :「……いや、なんですかその妙なユニット名とか……(TELLLLLLL)はい。私です。今ちょっと……何ですって、ええい!!」苛立たしげに電話を切って「これにて失礼、灰岡覚醒、くれぐれも自重してください、くれぐれも!!」とブラックロータスは退出する。

覚醒 :「はいはいちゃんと節度は守りますよー勿論!」とブラックロータスを見送った後。


「……そう。今度はちゃんと守らないと、ね」

 かつて、そして今もまた『守護者』となる灰岡覚醒は独り呟いた。

 偶像の笑顔のままに。崩さぬままに静かに。



●エンディング シーンPC:ほとり


 ――日常は変わらない。何も変わってなどいない。

 自分に言い聞かせるように、いつも通りを繰り返している。

 いつも通りに登校する。いつも通りに勉強する。

 時々、天野洋一の視線を感じはするけれど、話しかけてはこないし、それなら自分から話しかける理由もない。何を話していいか、どう説明していいかわからないし。

 そして放課後、昨日と同じように、校門にピンク色の髪が待ち構えていた。


ほとり:はい。

GM :また学校から出てきたところに”魔法少女”鷹取いずみが待ち構えている。なお、今日は遠慮気味で、ベンチに腰掛けてほとりの方をちらちら見ているようだ。「むーー」とドーナツ片手に難しい顔。

ほとり:「いずみさん、こんにちは」ぺこりと頭を下げて「任務の報告をしますね」

GM :いずみ「むー、ど、どうぞー」魔法のテレコみたいな何かを取り出して音声記録体勢。というわけでよければ報告自体はかくかくしかじかと。


*舞台裏

GM :『テレコ』って言っても通じない悪寒……(笑)

覚醒 :レコーダーはわかっても、『テープ』が通じないかも(笑)

洋一 :対象読者層に通じない可能性が(笑)

GM :わかったよ魔法のシリコンレコーダーにするよ!


ほとり:「――というわけで、私はクエスターとなった。みたい、です」

GM :いずみはそこまで聞いて「うん、ありがとう」とレコーダーのスイッチを切ると、更に難しい顔になる。その顔のままで暫く考え込んでいたけれど、ぱっとベンチに立ち上がると、びしぃっとほとりを指さした。

ほとり:……はい?

GM :「か、勘違いしないでよね!! いくら先にクエスターになったからって、やっぱりセンニンの方がえらいんだから!!」そういういずみの顔はちょっと涙目だ。

洋一 :ああ、先輩風がたった一日で逆向きに……(笑)

ほとり:「私もそう思います」と真顔で言います。

GM :「ほえ?」

ほとり:「その……むしろ、事故を起こしてしまって、その結果ですから。いきなり失敗したわけ、ですから――いずみさんに、申し訳なくて」

GM :「え……そ、そんなことないっ! シッパイはそもそもほとりのせいじゃないし、危なかったのを切り抜けたのは凄いって思うし! だからその……えっと、センニンとして、ほめてあげる。はい、ドーナツどうぞ」袋の中からイチゴチョコファッションみたいなのを取り出して差し出す

ほとり:しばらく呆然としてから「ありがとうございます」とドーナツを手にとってくわえます。

GM :「……ええと、『ヴァルプルギスの夜』からの伝言があるの。昨日帰ったらすぐに伝えろって言われて」 

ほとり:「……はい」一口だけ食べたドーナツを両手でひしと持って。

GM :「『あなたの目覚めを歓迎するとともに、あなたの行く先にサクラダ・アウローラの光のあらんことを。近日中に、フューネラルコンダクターから派遣される『守護者』とともに、『契約』を結ぶために帰還すること』だって」

ほとり:「――守護者、それに……帰還?」

GM :「……それと、そのときは一緒に目覚めた人も連れてきなさいって。そのときに、今回のフテギワについて説明するって」

ほとり:「え」動揺して一瞬だけ裏返った声を出して「一緒に目覚めた人」一拍おいて「も、ですか?」

GM :「理由はしらないけど、いっしょにクエスターになったんでしょ? なにかカンケイがあるんじゃないかって……なにか困るの?」無垢な疑問の顔で小首を傾げる。

ほとり:「どう説明していいのか、わかりません」すごく真剣に言っている「話した事もない人で、どうしたらいいのか」

GM :「……でも一緒にオシゴトしたんでしょ? 大丈夫……あっ」そこで、アラームを鳴らすおこさまケータイを見て、いずみは顔を上げた。「ごめんね、そろそろレルムの世話の時間だから!」

ほとり:「あ、はいっ」

GM :「確かに伝えたからねー!!」ぱたぱたと立ち上がって、いずみは手を振りながら走って行った。

ほとり:「どうしたら、いいんでしょう」困った顔で海を見つめる。

GM :潮風が吹いて、髪が揺れる。そこで、ほとりは気づくだろう。髪を留める髪飾りが熱を持っていることに。

ほとり:「これは……」そっと指先でそこに触れる。表面のかたちが、変わってる?

GM :いつからだろう。少なくとも昨夜は気づかなかった。クエスターになった時からだろうか。少しごわごわした表面、触れてみるとほんのりと暖かい。

 ――外して、見てみるかい?

ほとり:はい。髪留めを外します。

GM :では、掌に載せると、それは明らかに形を変えている。詳細な意匠は任せるけれど。

 その形状は、木の種子にそっくり。

 ……”『ジュライ・シオノのレルムシード』に、そっくり”だ。

ほとり:「……まるで、樹の種みたい」ふっと少しだけ視界が暗くなる。とめていた髪の毛が落ちて、少し光を遮っただけ、なのですけど。


「これから、なにが起きるんでしょう」

 風が吹く。翠銀の髪がふわりと浮かび。

 踊る毛先が導く先は、遠く遠くの水面の果て。

 春の盛りだというのに、その風はどこか肌寒く――肌が粟立つような怖気は、果たして風ゆえか、それとも己の心故か――。



 三人の物語は、ここから始まる。



■『ヴァルプルギスの侵略者たち』 序章:ふたつの目覚め 了

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