終章:(6)虹桜
■エンディングフェイズ 1 『ウィッチレルム』への帰還 シーンPC:覚醒
GM :キミ達は、ブロッケン樹海中心、本来ならば聖樹サクラダ・アウローラが存在した大穴のほとりに帰還した。
魂を失ったサクラダ・アウローラの肉体……そしてそのシャードを携えて。
キミ達を支援していた人々がここに到着するには、まだ時間があるだろう。
今のうちに、キミたちには成すべきことがある。
覚醒 :アウローラの身体はサトリちゃんが抱えて帰還しましょう。
GM :アウラの魂「……今までありがとう。覚醒、私を戻してくれますか?」とシャードからアウラが囁く。
ほとり:「……アウローラ」
GM :覚醒が触れて、魂の返還を宣言するだけで、アウラは本来のシャードに帰還する。それに伴い、覚醒が失うものはこれといってはない。なぜなら、キミはキミという魂を持ち、君自身のシャードを得て、それを育んできたからだ。
ただ、1つ。今だけ、キミには1つの機会がある。この瞬間にシャードを手放せば、キミは人として死を迎えることができる。
この機会を逃せば、キミの魂はいずれ、奈落に食い尽くされて滅びを迎えることだろう。これはダークワンという存在になったことで、いつかは迎える宿命だ。
だが……それが正しいかどうかは、誰も決められない。間違っているかどうかも決められない。アウラも何も言わない。何も強いることはない。
さあ、どうする?
覚醒 :……んんー。
覚醒、悩む。一応≪イドゥン≫は残っているので、今ならば人間として死に、そして人間として蘇生することが可能だ。
だが、それは覚醒がクエスターとしての力を失うことであり、覚醒というキャラクター性の放棄に等しい。
しばし悩んで、覚醒は問いを発した。
覚醒 :――一つだけ、サトリちゃんとして質問が。
GM :ほい。
覚醒 :「魂が身体に戻ったら、アウローラはどうするの?」どうなるの、の方が近いとは思いますが。
GM :アウラ「本来の聖樹としての役割に戻ります。そうしないと、『ウィッチレルム』を維持することはできないし……それに、それが私の望みでもありますから。
誰かと話したい、だれかと触れあいたい。そういう望みもあります。でも、私の愛する世界のために私の一番できることをしたい、それも私自身の望みなんですよ」
「それは、ボクも……そして、他の聖樹になった魔女達も同じ」
ジュライ・シオノが言葉を引き継ぐ。見れば、聖樹のアバターが、静かに自分のシャードを携えて、穴の周囲に集まってきていた。
覚醒 :「ん、ですよね。アウローラも、しおのも、そのために聖樹になったのですから……だったら、サトリちゃんの答えはもう決まってます」
GM :ジュライ・シオノ「…………」聖樹の魔女達は答えを待つ。
覚醒 :シャードの放棄はしません。残ってくれた≪イドゥン≫さんには悪いですが……。
「この身体なら、人よりは少しは長く生きられますから。だから……誰かと話したい、触れ合いたいと思ったら。その時は、いつでもサトリちゃんが会いに来ます」
GM :ジュライ・シオノ「…………そう」そう言うと思った、という顔で。
覚醒 :「もしそれで、サトリちゃんが奈落に飲まれそうになったら……その時は、アスガルドを目指して、みんなが幸せになる願いでも、叶えてもらいます。
何せサトリちゃんは! 皆に希望を届ける『アイドル』で! 希望のために命を懸ける『クエスター』ですから†」と満面の笑みで。
ほとり:「『ウィッチレルム』の魔女として、覚醒さん、あなたの決断に敬意を示します」そう言って、最敬礼をとります。
覚醒 :「決断なんて大それたものじゃないですよ。サトリちゃんはサトリちゃんのやりたいことをやるだけですから†」
GM :では、覚醒の好きなタイミングで、アウラの魂を彼女のアルシャードに戻してやってくれ。手段は、触れて念じるだけで構わない。
覚醒 :はい、アルシャードに触れて、アウラの魂を戻します。
GM :では……覚醒の中から暖かな何かが抜け出して、かわりにアウラのアルシャードに光が灯る。そして今度は、アルシャードからアウラの声が聞こえた。「……ありがとう。あとは……聖樹器をこちらに貸していただけますか?」
洋一 :「…………」複雑な表情で一度見て、≪極光の羅針盤≫を手放す。
覚醒 :≪ザンヤルマの剣≫を取り出して、「ありがとね」と軽く口づけをして手放します。
ほとり:≪オズの赤い靴≫を脱ぎます。
GM :アウラ「……ありがとう」
三人がそれぞれの聖樹器を並べると、サクラダ・アウローラの樹霊の前に、三つの聖樹器がふわりと浮かび上がる。
≪極光の羅針盤≫から溢れるのは、星の光。人の願いを力に変える無限機関。
その光に、≪オズの赤い靴≫が形を与える。願いを届けるための方向性。すなわち、刀身。
そして、≪ザンヤルマの剣≫が与えるのは意思。人の意思を、届き得ない場所へと伝えるための制御装置。すなわち、柄。
三つの本質が形代から遊離し、そして聖樹の前に聖樹器の本質が姿を現す。
そこに現れたのは、黄金の輝きを持つ、一振りの剣だった。
GM :「聖樹器の本質は、私が一緒にここに封印します。形代はもはや力は残っていませんが……思い入れのあるものがあれば、お返ししますね」そう言ってアウラは微笑み、その肉体で剣を抱きしめて、アルシャードに身を寄せた。
形代、つまり羅針盤、靴、剣は、それぞれキミ達が持ち帰ってもいい。力の本質はなくなっても、キミ達にとっての意味は変わっていないはずだからね。
そして、それをキミ達が受け取った段階で、ジュライ・シオノが告げる。
「さて、それじゃボクもそろそろお仕事の時間だ」
洋一 :「あー……また、会いに来させてくれよ、っしょ」頬をかきかき。
覚醒 :「色々とありがとうね。また……必ず会いに来ますから」
ほとり:「これからは魔女達も、あなたたちの側にあります」
GM :ジュライ・シオノ「うん、ありがとう。大丈夫、きっとすぐに逢えるよ。……みんなの手を借りれば、色々工夫の余地、あるのを発見したからね」ウインクを返す。
洋一 :「……じゃあ、また、今度。っしょ」(鼻を啜る)
ほとり:「また必ず!」
覚醒 :「次の時は、遊びに来ますからね! ワタシの歌とか、聞いてもらいますからね!」
GM :ジュライ・シオノ「うん!」 アウラ「楽しみに、していますね」
そして、三人が立ち去った後……。
光となって、ジュライ・シオノ、そして魔女達のアヴァターが消失する。
そこに残されるのは、聖樹のアルシャード。それらは大穴の周囲に円を描いて並び、それぞれがその場に根を下ろす。
ポプラの樹だ。魔女達のアルシャードが、ポプラの樹へと変化していく。
その根が、大穴を覆い尽くす。網の目のようになって大穴を塞ぎ、奈落への陥穽を封じ込める。
そしてその中央に、剣を抱いたアウラとアルシャードが座して、そして光に包まれる。
結晶体に身を沈め、それを包み込むように幹を伸ばすのは、巨大な桜の樹。
ぱっと、大聖樹の復活を祝うように、一斉に妖精光が舞い上がる。
その光の渦が暗雲に飛び込み、それに呼ばれたように清浄な雨が降り注ぐ。
ひとしきり降り注ぐ雨が、魔女達の網をひとつの湖へと変えて。
そして、聖樹の森は、桜聖樹の泉へと姿を変えた。
剣の乙女と精霊が守護する、七色の妖精光と天球の光を浴びた、虹桜の泉へと。
■エンディングフェイズ 2 ユプサリア・ルキオにて シーンPC:ほとり
GM :『ウィッチレルム』に帰還してきた協力者達と、善後策を話すシーンだ。
ほとり:はい。
GM :「……問題は、月面に残された“ジュデッカの奈落”の対応です」渋い顔で、ヴァネッサが言う。
ここはユプサリア・ルキオ……魔女学院の大聖堂。かつて、ほとりと覚醒が、そしてジュライ・シオノと覚醒が守護者契約を結んだ場所だ。
周囲には、ブラックロータスや四谷、太陽やヴァネッサ、他関係者がずらりと顔を並べている。
洋一 :「…………」(やっべ、全力で叩きこんじまった。の顔)
GM :ヴァネッサが言う。「あの奈落を力尽くで滅ぼすことは、ほぼ不可能です。あれは、人類の後悔を糧として存続する、負の遺産そのものですから。その活動を封じ込めるしかありません」
ほとり:「そうですね。対峙した私たちも、聖樹器の力をもってしてすら、あれが限界でした」
GM :太陽「つまり、洋一坊のやったことは、むしろほぼ正解だったって訳だ。予定通りタルタロスに落ちたら、直接人類の後悔とか怨念が、奈落の塊に注ぎ込まれてたわけだからな。ティターン神族の一体くらい、復活してたんじゃねえかな?」
果たして、実際の所はどうなのか。太陽の言葉が真実なのか、結果から洋一の……ひいては『SHIRANUI』の行動を正当化するための詭弁を弄しているのか、にわかには判断できなかったけれど。
少なくともその場においては、太陽の言葉を否定する者はおらず、『SHURANUI』の行いを糾弾する声もなかった。
後にそれとなく洋一が四谷に問いを投げかけた際、彼が浮かべた苦笑顔からして、四方八方丸く収まっていた訳では、ないようだったけれど。
洋一 :「ふ、封じ込め……蓋するとか?」
GM :ブラックロータス(以下BL)「ええ、それが正解でしょう。何らかの手段で蓋をし、封印し続ける。これがもっとも現実的な手段、なのですが……こと月面となると、現在の人類では対応ができない」
四谷「場所そのものは、極めて好都合なのですがね。人類の生存圏からほど近く、ほど遠いですから」
ほとり:「ああ……『ブルースフィア』では月に人間を送ったことがあるのですが、その後は……と言う事でしたね」思い出したように言う。
GM :太陽「『月の人』とかには、接触取れる奴が少ないしなあ」
『月の人』などはGMが適当に吹かしている与太だが、月面に何らかの知性体が存在するというのは、魔法が息づく『ブルースフィア』においては十分に有り得る話である。
どうであれ、エンディング前の相談で、方針は既に決まっていた。後はそれを誰が言い出すか、だったが。
GM :対処法はPCが提案してもいい。そうでなければ、アウラから声が届く予定。
ほとり:では、私が言いましょう。「おば様」
GM :ヴァネッサ「どうしました、ストランド?」
ほとり:「『ウィッチレルム』の魔女として進言します。――“ジュデッカ”の奈落を封じるのは、『ウィッチレルム』が果たすべき、命題ではないでしょうか。あの優しきアウローラたちのためにも」
GM :ヴァネッサ「…………つまり、『ウィッチレルム』そのものを、月面に定着させると?」
洋一 :「で、でもそれやったら海なんて見れなく……」
ほとり:「聖樹の側であれば、より『ウィッチレルム』は安定を増した世界となります」
GM :BL「いや、しかしそれは……」 太陽「いいじゃねえか。今のところ、それ以上に好都合な守人の候補はいねえし、混沌の海の中でも聖樹で存続してる『ウィッチレルム』は、月面でも普通に存続できるはずだしな。少なくとも、気がついたら“月が地獄だ!”とか“月は無慈悲な夜の女王”って話にはならねぇだろ」
ほとり:「まして“ジュデッカの奈落”に抗すると言う、価値ある世界を滅ぼすことなど、誰にも出来ません」
覚醒 :「地獄の門を壊したがる人なんて、いませんからねえ」くっくと笑って。
GM :太陽「わざわざ蓋を開けてきた小僧共はいるけどな」(くっくっくっく)
覚醒 :「黄泉路行の伝説なんてゴマンとありますからー。ちゃんと振り向かずに戻ってきましたし」
GM :太陽「道理だな」
そうして冗談めかした話をしてはいるが、ほとりの提案が一石を投じ、会議は概ね“『ウィッチレルム』によるジュデッカ封印”という流れで決まっていった。
そして決定打となったのは、会議場に出現したアウラのアヴァターの宣言だった。
彼女は、自らと聖樹の力によって、『ウィッチレルム』を月面に定着させることを宣言。その決定を覆せる者はおらず。
それは、魔女の世界が、蒼き星から別離するということを意味していた。
■エンディングフェイズ 3 シーンPC:ほとり
GM :このシーンは、『ウィッチレルム』が月裏面に降下し、魔女達と洋一、覚醒が別れるシーンとなる。なので……ほとりに任せようかな?
ほとり:わかりました。
GM :状況としては、『ウィッチレルム』が月面付近に転移をする直前、となる。月面に定着すると、マナの状態が安定するまでは『ブルースフィア』に『ウィッチレルム』から転移することはできなくなるので、月に転移を行う前に『ブルースフィア』人を転移させる必要がある。という状態だ。
ほとり:私も何度もお世話になっている転移魔術ですね。
GM :そうなる。そのために、ブロッケン樹海付近の広場……というか、ストランド・カニングフォークの樹の前がいいか。
ほとり:私の樹ですね。……忙しくて、結局この子から弓を作る時間がなかったですね。
GM :それは申し訳ない。隙間が作れなかった。
第三章からここまで、ほぼノンストップで駆け抜けてきた結果だ。もう少し時間に余裕があればやりようもあったのだが、ここは反省しきり。
GM :情景としては、こうだ。ストランド・カニングフォークの樹は、ほとりの力が増大したことによって更に大きく育っている。17レベルになったのは魔女達の支援によるものだが、それでも10mは軽く越えてしまった。
そのイチイの樹の梢を揺らす風、天球の柔らかな光と妖精光の色とりどりの輝きに照らされて、『ブルースフィア』人である洋一、覚醒は転移を待っている、という形になる。
転移まではあと一時間ほどだ。それを過ぎると、『ウィッチレルム』が安定するまで『ブルースフィア』に帰れなくなる。太陽と四谷、ブラックロータスなどは既に『ブルースフィア』に帰還したようだ。
覚醒 :気を利かせてくれたんですねえ。……あ、そういえば。サトリちゃんとほとりんの持ってる≪真名の枷≫はどうなるんでしょう。
GM :二人が望むならば、契約は解除される。サクラダ・アウローラは、ほとりに真名を預けていてもいいと思っているので、契約はそのままだ。
ほとり:「風と光がとくによく当たる、いい場所なんです。……種を植えるときの魔法に自信がなくて、実はおばさまにギリギリになって相談しちゃったんですよ。失敗したら恥ずかしいと思って」
周囲に儀式用の精霊や香油の瓶を並べる作業をしながら、つい無意識に想い出話がもれちゃったと言う感じですね(笑)
洋一 :「それが今やこんなにおっきく、かぁ……」感慨深く見上げてる。
覚醒 :「色々ありましたからねえ……」同じく見上げて。
GM :ストランド・カニングフォークの樹は、梢を静かに揺らしている。どことなく、その名を与えた魔女の姿を映したかのような佇まいで。
ほとり:「お二人に使った治療の魔法のための瓶にも、この子の葉を少し煎じてあったんです。忙しかったころは、そのためにこっちに戻ってきたりしてました」
覚醒 :「あー、たっぷりお世話になりました……」主に回復魔法に!
ほとり:「――なんだか、そんなにじっと見られると、恥ずかしいですね」
洋一 :「……もうじき帰るんだ、って思うとそりゃしんみりもするっしょ。そしたら、暫く会えないし」(認識:年単位)
GM :実際、現時点では数年かかる見通しだね。
ほとり:では力強く、笑って言いましょう。「大丈夫です。私たちは“真名”やシャードで繋がったままです。お別れなんかじゃ、ありません」
覚醒 :にっこり笑って「そうですねー。それに何年かかろうが、サトリちゃんは必ずまた会いに来ますから!」と頷きます。そしてそう言われると、契約解除は考えなくて良いですネ……(笑)
ほとり:名前を預けるというのは、魔女にとっては命を預けると同じですからね。私からの信頼の証です。
洋一 :「月はちょっと遠いけど……うん、必ず、また会いに来るっしょ」笑って。
GM :というところで、雰囲気を引っかき回す奴が登場だ(笑)
TTT「うぉーーーん、あーーにーーーきぃーーーー!!」
しんみりしたところに、空気をブチ壊す小鬼、TTTが飛び込んできて、洋一の顔に張り付く。
洋一 :「べぶらっ!?」ギリギリで弓なりになって耐える。
GM :涙と鼻水をまきちらしながら「帰っちまうなんてひでーよ寂しいよオイラのことまともに相手にしてくれるニンゲンってアニキくらいしかいないんだよー!」
洋一 :ベリッと剥がして「いやそりゃオレだってこっちにいたいって気もあるけど! そういうわけにも行かないっしょ!?」
GM :TTT「いーじゃんか五年や十年くらいー! ニンゲンでもせいぜい寿命の十分の一くらいだろー!?」めそめそと、ぶら下げられながら訴える。ちなみにレプラカーンに寿命があるかはかなり怪しい。
ほとり:そう言えば私もレプラカーンが世代交代した。なんて話は聞いたことがないですね。
洋一 :「長ぇーよっ! ってか向こうに親もいれば……」
GM :言うことが終わればヴァネッサがひっぺがしてくれる予定だが……(笑)
洋一 :あ、ひっぺがしてOKです(笑)
GM :では、「いい加減にしておきなさい」という言葉と共に洋一の視界がさっと晴れ、TTTをぶら下げたヴァネッサの姿が現れる。「家族も友達もいることでしょうからね。妖精の尺度で言うものではありません。……ストランド、それにヨーイチ、サトリ。皆、そろそろ時間です。名残は尽きないことと思いますが……ストランド?」 そろそろ儀式を始めろ、という趣旨の目配せ。
ほとり:「はい。おばさま。わかりました」
覚醒 :「あらら残念」隙を見て二人きりにしようとも考えていた系アンデッド。
洋一 :「……じゃあ、その……」帰る位置に向かいつつ。
ほとり:「では、ストランド・カニングフォークと海辺ほとり、この二つの名において約束と儀式を執り行います」
GM :ぼんやりと浮かび上がる魔術儀式の方陣。その外側から、ヴァネッサがTTTをぶら下げたまま、声をかける。「ヨーイチ・アマノ。今更ですが、あなたの活躍に心から感謝しています。あなたがいなければ……あなたがストランドに出会わなければ、こんな結果はあり得なかった」
洋一 :「ど、どう、いたしまして……オレは、その、うん」へらっと「惚れた子に格好いいとこ見せたかったって、それだけっしょ。多分、爺さんと一緒で」
GM :ヴァネッサ「……タイヨウについては余計です。……ならば、更に精進なさい。『ウィッチレルム』のマナが安定する前に、あなたならあるいはここへの扉を開くことができるかもしれない」
ヴァネッサはそれだけ言って背を向ける。TTTはぶら下げられたまま「はとこに会ったらよろしくなー!」と手を振って離れていく。
そして、残されるのは、魔法陣の中の洋一と、覚醒と、外にいるほとりの三人のみ。
ほとり:では、儀式をはじめます。
「……『ブルースフィア』での名前を儀式魔法に織りこむのは始めての試みですから、術を確実にするために、宣誓を加えます。いいですか?」
覚醒 :「ドンと来なさい†」
洋一 :「お、おう」
ふわり、ふわりと風が舞う。小さな閉鎖系である『ウィッチレルム』では、風は熱対流よりも妖精や精霊の作用によるものが大きい。
だから、魔女達は風を自由に操る。妖精に語りかけて風を誘い、指先の動きで導いて、その流れに魔法薬を乗せる。
くるり、くるりと身体がまわる。指先の魔法薬で描かれた光跡が、儀式魔法を形作る。その様は、洋一や覚醒が知る儀式魔法より、一回り複雑で、一回り丁寧に紡ぎ上げられている。
より強く、より大切に。誓いと想いを込めた魔法。
実用一辺倒の道具ではない、日常の魔法の担い手ならではの、手工芸品めいた魔法がそこにあった。
そして、白ワイン色に揺らめく髪と、ささやかに緑がかった光が描く儀式陣の中から、ほとりは洋一を見据えた。
「海辺ほとりは、『ブルースフィア』の太陽と海を忘れない。海辺ほとりは常にかの世界の太陽と海と、ともにあり続ける」
唇から紡がれるのは、いつしかの誘いの言葉のように、無感情にも思える平坦な宣誓。だが今なら、それが不器用で、一生懸命であるがゆえであると、わかる。
「なぜならば――天野洋一さん」
少し躊躇うように息を飲み込んで。でも、これは逃し得ない瞬間だとわかっているから。
ほとりは、真っ直ぐに洋一を見返して、宣誓に意味を与えた。
「あなたが、私の太陽と海だから」
道ばたの、名も知らぬ花のようにささやかな、笑顔と共に。
覚醒 :ひゅう、と思わず口笛のように息を漏らします。
洋一 :「う、ぁ、え!?」(真っ赤)
ほとり:「これを海辺ほとりの名にかけて誓い、ストランド・カニングフォークと海辺ほとりの名を以て、この土地とかの土地は、繋がりと縁を」
指先が、天と地を示す。その二つに光の線が走り、そして両手で円を描きながら指先の天地を入れ替えれば、そこに描かれるのは、世界を繋ぐ魔法の扉。
それを握り締めるように両手を胸元で組めば、ぱっと洋一達の足下に魔法円が奔り、そしてぱっと妖精光が舞い上がった。
――転移の術式が、完成した。
ほとり:「……自分の持つ二つの名での詠唱は、魔女の歴史の中でも稀な形式で、とっておきですから。絶対にうまくいくように、すごく考えたんですよ」
覚醒 :「んっふっふ。とっても良い誓いだと思いますよ」にっこにっこしながら
洋一 :「う、ぁー……お、オレも……忘れない、っしょ。この、綺麗な、世界を」
だんだんと、周囲に漂う光の濃度が濃くなっていく。あちこちに置かれた瓶の蓋が開き、設置されていた枝葉が自らを正しく儀式の位置に固定するべく、動き出す。
そして――風が吹き、樹が揺れる。
ほとり:「また会いましょう!」
覚醒 :「勿論!」
洋一 :「ぜ、絶対に……」最後まで言い切るより早く、姿が薄れて消えてしまう。
ざっと、風が駆け抜けた。梢を揺らすそれは、魔法儀式を吹き散らし、その場をただの魔女の樹の広場へと戻していく。
違うのは、そこにいたはずの二人の姿がないこと。
かけがえのない異物であった、仲間達の姿がなくなったこと。
ほとりは瞑目し、息を吐き出す。
こうして『ウィッチレルム』は、再び魔女だけの住まう、小さな島国に戻ったのだ。
GM :いずみ「海辺ほとり!」と呼ぶ声が聞こえる。そこには、ヴァネッサとTTT、そしてほとりの両親を連れたいずみの姿があった。「降下のギシキ、始まるよ!」
ほとり:「……はい。いずみさん」すうっと息を吸って「今行きます! お父様、お母様」
GM :では、両親と一緒に歩き出すところで、シーンエンド!
■エンディングフェイズ 4 シーンPC:洋一
光が晴れると、そこはいつもの海浜公園だった。
蒼く晴れ上がった空。ぽっかりと浮かぶ、白い真昼の月。風が吹き抜け、きらきらと水面が光を返す。
風が、魔女の世界の残滓、妖精の光の飛沫を吹き散らし、拭っていく。
「…………」
どういう風に覚醒と別れたのか、よく覚えていない。周囲に誰もいなくなっても、洋一は茫漠と広がる空を見上げていた。
「あー、やっぱアレかなあ、うちゅーひこーし? とかむっちゃ勉強しないと無理かなーとか……うん」
真昼の月に、手の届かない程遠いそこに、手を伸ばして。
たとえどんな苦難が待ち受けていようとも。どれほど険しい道であっただろうとしても。
決して、諦めない。胸の羅針盤が、そこを指し示している限り。
己が意思を天に刻むために。届かない月に伸ばした手を、ぐっと掴むように握り締めて。
「……絶対、会いに行くっしょ。君に」
少年は、誓ったのだ。




