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序章:ミドルフェイズ (1)奈落の淵で

■ミドルフェイズ 1 シーンPC:洋一 登場:不可


 実セッションではここで一週間の時間が空いている。

 平日の短時間分割セッションであるため、このような処理になる。忙しい社会人が長期のゲームを遊ぶためのテクニックの一つだ。


GM :宵の口まで学校に居残ってしまった洋一が、ほとりを見つけて追いかけるシーンの予定だね。

洋一 :はぁい。

GM :下弦の月の運命の夜。洋一には学校に日が落ちるまで居残って欲しい。さて、何をやった(笑)

洋一 :んー。んー……寝過ごした?

GM :友達とかと遊んでいたら疲れて居眠りしてしまい、気がついたら日が落ちていた、感じかな。すると誰かに発見されにくい隠れ場所とかがいいか。

洋一 :あんまり人のこない準備室とかで馬鹿話してて、一寸居眠りしたら置いてかれました(笑)

GM :じゃああとあとの集合場所にも使えるよう、使われてない技術準備室とかそのあたりかな。カリキュラムから外れたので誰も来ない。

洋一 :「っと、寝てたっすオレ。いっちゃん起こして……」きょろきょろと見回して、スマホで時計を見る。

GM :誰もいない。外はもう薄暗く、時計は夜七時を示している。

洋一 :「あっれー」

GM :技術準備室は外から鍵をかけられてしまっている。……まあ、中にいる洋一には関係のないことだが。

洋一 :「……置いてかれたかー……」苦笑してがっくり。

GM :外に出てみると、誰の気配もない。

洋一 :「……って、七時? 誰も居ない? いや普通先生とか部活とか……」きょろきょろしながら廊下に出る。

GM :洋一が知る由もないけれど、人払いの結界の効果だね。シールエリアほどの隔絶性能はないけど、一般人を追い払うには十分な性能がある。【MP】的にとてもリーズナブル。

 そんなわけで誰もいない、どこか不気味な校舎を洋一は歩いている。と、そこに、視界の隅に何かが見えた。

洋一 :独り言の癖はないんで、黙ってとぼとぼして……なんだろう。びくっとしつつそっちを見るっす。

GM :白くぼんやりと光る、多分女の子の姿だ。ただ、髪の色が鮮やかな桜色をしている。

 それが、すっと指を伸ばして、洋一を指し示した。

洋一 :「うひぁっ!?」背筋を震わせて、周囲をキョロキョロ。

GM :では、視線を逸らせ、元に戻す。すると、そこにはもう誰もいない。ただ、その場に小さな、淡く光る桜の花びらが落ちている。

洋一 :「……は、なびら……?」拾い上げてみる。

GM :もうこのあたりでは散って久しい桜の花びらだ。今の今まで花についていたかのように生き生きとしている。

洋一 :「……ま、まじ何だよ! 漫画じゃあるまいし!」首をブンブン振って、さっさと帰ろう。うん。

GM :そうして気を取り直そうとするなら、どこからともなく風が吹いて……洋一の指先から花びらをもぎ取っていく。飛んでいく先は、廊下の先、中庭の方だ。

洋一 :「うわっ!?」思わず視線で追って……中庭の方へ引き寄せられよう。誰かに導かれるように目線と足が勝手に引っ張られるのだ。

GM :では、中庭に、また誰かがいることに気がつく。

 こちらははっきりと見覚えがあるね。転校生の海部ほとりだ。

洋一 :「アレ?確か転校生の地味子……ほとり、ちゃん?」じゃあその姿を扉の影から見よう。気づかれないほうがいいだろうし。

GM :わかった。ではそこで再び風が吹いて、その風の音に混じって

『――助けてあげて』

 という、女性の声が囁いたような気がして……そこでシーンエンドだ。



■ミドルフェイズ2 シーンPC:ほとり 登場:洋一のみ自動登場


ほとり:はい。

GM :『レルムシード』による『魔女の領域』作成の儀式を行うシーンとなる。

 ほとりは事前の教育によって、『レルムシード』の使い方を学んでいる。

 作り出されるものは、マナを『ウィッチレルム』に取り込む『魔女の領域』。その核となる『魔女の樹』となるのが、この『レルムシード』。

 これを植えるために相応しい場所は、夢とか希望とか、若い感情が多く飛び交う場所。だから公園とかお菓子屋とか、学校などが標的に選ばれるというわけ。

ほとり:『シード』と言うだけに『魔女の領域』の一部に植える。と言うのはそれらしそうですね。

GM :そういうことだね。なので、学校の中庭を選んだのは、ほとりの合理的判断の結果、ということになる。一般人には『魔女の樹』は認識出来ないので、堂々と植えても問題ないんだ。

 というわけで、まずは種を植えているところだ。それが終わったあたりで、洋一が物陰から様子を伺うことになる。

ほとり:「ここならマナが多いですから、効果も高いですし、危険もないはずですね」花壇の一角に素手で土を掘り起こして穴を作って。

 箱から取りだした『レルムシード』に「お願いします。『ウィッチレルム』に力を貸してください」と一声かけてから、そっとそこに沈めるように設置します。


*舞台裏*

GM :ちなみに『ウィッチレルム』ではこの発芽魔法は、主に子供達が魔法の練習によくやってる。

覚醒 :『おおきくなーれ』とか?

GM :(頷いて)『おいしくなーれ』みたいな感じで畑で発芽魔法と成長魔法を使うのが、『ウィッチレルム』の子供達の仕事のひとつ。

覚醒 :なんかメイド喫茶みたいだね?

GM :きっとあのメイド喫茶は魔女の領域レルムの一つ(くわっ)

洋一 :マジでー(笑)


ほとり:(裏の会話をさておいて)それじゃあ、こんな風でしょうか。


 『レルムシード』を植えた土の上に指先でルーンを描きながらほとりは考える。ここは『ブルースフィア』。『ウィッチレルム』とは違う。少しだけアレンジを入れた方がいいだろう。この世界で空にあるものと言えば『ウィッチレルム』より大きな月――そして太陽だ。


ほとり:指先で雲と太陽を描いて、幾つかおまじないを。

洋一 :「(何やってんすかねぇ)」じぃっと物陰から覗いてる。

ほとり:「"空に向かって大きくなぁれ""太陽目指してまっすぐのびろ"」

GM :ほとりの呪文に応えるように、ぽん、と『レルムシード』が発芽する。

洋一 :「……あれ?」目をゴシゴシ。一瞬地味子が、普段感じる妙な神秘感以上の……アニメ色美少女に見えて。

GM :引き続いての祈りに応え、それは見る間にするすると成長すると、高さ1メートルほどの木に育った。ぱっぱっと、キラキラ輝く葉を広げる。『魔女の樹』の仕上がりだ。あとは時間をかけて、ゆっくりと成熟した樹に育てていくのが、ほとりの役割でもある。……ただ。

ほとり:ただ?

GM :うん、ちょっと気になることがある。あらかじめ教わった樹のサイズより、二回りほど、成長した樹の初期サイズが大きい。

ほとり:(よかった。ちゃんと魔女魔法がこの子にも効いた……でも、少し、大きい?)

GM :このサイズだと、通常よりも多くマナを吸い上げてしまう。もちろんそれで日々の生活に影響があるほどではないのだが……ちょっと、マナの吸収量が規定値をギリギリ超えているのではないかと思える。

ほとり:「……どうしよう」

GM :ほとりが使用した魔法に間違いはないので、おそらく『レルムシード』そのものがやや大きめに育つよう設定されていたと考えられるね。そして植えてしまうと今更植え替えもできないので、はっきり言ってしまえば、どうしょうもない。

ほとり:(いずみさんに相談。でも、心配をかけても悪いですし、彼女の責任になったりしても困ります、よね)

洋一 :じゃあそこらで、初めて見る魔法の光景に思わず大声を上げてしまおうかな。

GM :了解。では……。


 自らの植えた樹の様子に困惑するほとりの背中から、うわずった大声が耳朶を叩いた。

「うぉっ!? き、木が!? 手品!?」

 弾かれるように振り返る。そこには、辛うじて見覚えのある少年――確か担任の先生に叱られていた同級生だ――が、腰を抜かしてほとりと『魔女の樹』を見つめている。

(――どうして!? 魔法はちゃんとかかっているはず!)

 そう、『見ている』。人払いの結界も、認識阻害の魔法もかかっているというのに、それでもなお、彼はほとりの姿を見つめている。

 振り返った瞬間に大きく広がり、『魔女の樹』の葉が放つ光を受けて、白ワイン色にきらめく髪を、見惚れるように見つめている――。


GM :もちろん、ほとりに落ち度はない。単に、洋一の天性の抗魔力が高かったこと、人払いをかけたときに洋一が寝ていたことなど、様々な事情が重なったことなんだが……。

洋一 :「……」思わず見惚れる。現実の人にあるはずのない髪の色と瞳とかそんな事どうでも良いくらいに綺麗で。

ほとり:「確か、天野さん、ですよね。どうしてここに?」

洋一 :「え、いや、その……ほ、ほとりちゃんだよね? アレ、髪とかすげえ綺麗であのその」キョドる。心臓バクバクで、すげえ不審人物します。

ほとり:「……わかるんですか」と相槌を打ちながら、内心で呟きます。(おかしい。認識阻害は働いているはず、なのに)

洋一 :「そ、それでその、寝てたら誰もいなくて何さっきの手品無茶苦茶綺麗でいやその髪とか目とかむっちゃ可愛いし……」

ほとり:(どうしよう。口封じ……それはだめ。説得して理解してもらって)と内心で。

洋一 :うわぁい、しれっとまず物騒なことを(笑)

ほとり:立場上、最低限この位は思い浮かべるでしょう(笑)

GM :それはそうなんだが、物騒なのには変わりないね(笑) さて、このタイミングでいこう。

洋一 :お?

GM :洋一には、困惑するほとりの肩越しに、さっき植えたばかりの樹が1mほどの高さまで育って、キラキラ輝いているのが見えるんだが……その『魔女の樹』が、様子がおかしい。

洋一 :「……アレ、木がマジヤバい!?」

ほとり:「え」言われて、花壇へと向き直ります。

GM :ほとりが振り返ると、『魔女の樹』に明らかな変異が生じている――。


 ざわざわ。植えたばかりの『魔女の樹』の梢が揺れる。大きく広がった広葉樹の葉が蠢いて、差し込む月の光をまだらにかき回す。

 月が落としたまだらを繋ぐように、黒い影が広がる。いや、影ではない。根から幹にかけて、漆黒の何かが這い上がってくる。

「そんな! 儀式に手違いはないはずなのに!」

 驚愕と戦慄にほとりの声がかすれる。彼女の記憶にある、森の奥底から這い出して来る、漆黒の何か。彼女から大切なものを奪ったそれに、その影はとてもよく似ていた。

 見たことがあるから、ほとりにはわかった。それがどれだけ忌まわしいものであるのか。それがどれだけ恐ろしいものであるのか。

 それは見る間に枝に、葉に届き、魔女の樹を黒く染め上げる。そこから感じられる、魔術的異臭。

「どうして――これ、『奈落』」

 そう、それは……紛れもなく世界の敵、『奈落』による汚染だった。


洋一 :咄嗟にほとりを引っ張ろうと手を伸ばそう。「ヤ、ヤベェって、逃げなきゃ!?」

GM :ではその手をシナリオにいただこう。洋一が手を伸ばしたのとほぼ同時に、魔女の樹から結界……≪自己領域≫が展開され、洋一とほとりを巻き込む。

ほとり:「いけない!」逆に近寄ってきた天野さんを突き飛ばそうとしますが――間に合いません!

GM :そして、取り込まれた異世界は、足場が、ない。洋一の目の前あたりで、ほとりを飲み込む位置まで、奈落の底が広がっている。

 もちろん――ほとりは、落ちるしかない。洋一は、まだ足場がある。そしてキミは手を伸ばしている。

 その手を引き戻してもいいし――


 洋一の目の前で、足場がなくなった。

 自分に向けて差し出された手が、白ワイン色の髪が、ぐらりと傾いでいく。

「え、ちょ……」

”いやヤバイってアレ絶対落ちたらヤバイしほとりちゃんもう手ぇ届かないし逃げたほうがいいだろコレ”

 理性が全力で警鐘をかき鳴らす。保身と怯懦が足を縛る。脳裏には逃亡せよの一文のみが幾度も幾度も荒れ狂う。

 それでも、本能がそれを是としなかった。

『胸の中で、本当の答えが見えたら。迷うな――――希望を捨てなければ道は開ける』

 理性の届かない根底のところから、尊敬する叔父の言葉が迸った。その勢いに乗って、洋一は精一杯身を乗り出し、転落していく少女に手を伸ばす。


ほとり:(この世界の人を巻き込んじゃダメ!)とこちらが突き飛ばすために伸ばした手が。

洋一 :その手を掴んで。

ほとり:逆に掴まれてしまう。

洋一 :そのまま引っ張り寄せつつ、誰かへの悪態を叫んで。

ほとり:驚きで目も大きく見開いてしまって。

洋一 :「……いややっぱり落ちるっしょ爺さぁぁぁぁぁぁんッ!?」

GM :戸惑いの中で、キミ達は、奈落の底へと落ちていく――

ほとり:(どうしよう。私が巻き込んでしまった――)

洋一 :「(あ、綺麗だなあ……笑ったらきっと可愛いよなあ)」そんな場違いなことを考えつつ、落ちていきます。


GM :――では、ここでシーンエンドだ。



■ミドルフェイズ3 シーンPC:覚醒 登場:不可


覚醒 :イーッ!(了解の意)

GM :しおのとの対面から、学校内の異変に気づいて飛び込むシーンとなる。最終的には奈落の底に落ちていく洋一とほとりを見届けることになる想定。まずは、前のシーンのプレイバックから。


 災厄が芽吹く直前の、学校側の海岸道。ゴシックでパンクな衣装で見上げる覚醒を、下弦の月が薄く照らす。

 薄暗い街灯の上に立つのは、かつての知己……相棒として戦った『侵蝕者』珠来しおの。冷え冷えとする凶気を頬に貼り付けて、戸惑う旧友を見下している。

「いつかの約束、果たしに来たよ」

 そういうしおのの笑顔は、月を映したように歪で切れ長で、その大鎌もまた孤月めいてねらりと月明かりを返した。


覚醒 :「―――!」咄嗟にバックステップして赤い番傘を取り出します。『いつかの約束』について思い当たる節は?

GM :いくつかの約束をしてはいるが、実は記憶がひどく断片的になっている。というのも、しおのとの契約が解除されたときに、真名と一緒にそのあたりの記憶が欠けてしまっているためだ。なので、いくつか推測することはできても、具体的にどんな約束なのかを思い出すことはできない。

覚醒 :成程、了解です。

GM :「わぁ、怖い。知ってるよ。その傘に刀が入ってるんだよね。……本当に強くなったね、覚醒」にっこりと笑い、しおのはしゃっと鋭い音を立てて大鎌を振る。

覚醒 :「……真名のシステムについては覚えてるでしょ? ケイヤク解除された時に色々と消えちゃっててね……良かったら、その約束、もう一度教えてくれないかな?」と少しだけ『いつもの』ノリを取り戻しつつ、しおのからの言葉には答えないで、傘をさっと一振りして刀の姿にします。

GM :「そうなんだ。じゃ、ボクは思い出すまで待ってあげる。……でも」しゃっと鎌先で、すぐ近くの学校の校舎を指し示す。洋一やほとりの通う学校だね。

覚醒 :「……」意図を探る。嫌な予感を感じつつ。

GM :「”あっち”は待ってくれないんだよね」と、下弦の月の笑いを浮かべたかと思うと……学校の中から、ひどく禍々しい魔力が迸った。

覚醒 :「!? な、何―――!?」

GM :「奈落の底が抜けたんだよ。……早くしないと、全部飲み込まれておしまい。……どうする? 『守護者』の灰岡覚醒さん?」鎌を肩に担ぎ、戯けるように街灯の上でステップを踏んで、そうしおのは問いかけてくる。

覚醒 :「奈落の底、って―――ど、どういうこと!?」

GM :「見て来ればわかるよ。……大丈夫、奈落に飲み込まれても、そこも『ボク』に繋がっているから」

覚醒 :「! ……そう。やっぱり『そういうこと』、なのかな……」しおのの言葉に察するところがありつつ。

GM :さて、察するところが通じているかどうか。そんな覚醒にお構いなしに、しおのはにこりと場にそぐわない笑顔を浮かべて、大きく跳躍する。街灯から街灯へと飛び移り、道化師めいたポーズで一礼すると「じゃ、頑張って。思い出してくれるの、待ってるよ」と言い残し、宵闇の中に消えてしまった。

覚醒 :「あ、待ってよ!」

GM :もちろん、待たない。――さて、後に残されるのは、奈落の波動を強く放射する学校がひとつ。

覚醒 :「く―――次に会ったら! ぶん殴ってでもぶった斬ってでも! 話を聞くからね! サトリちゃんは激おこですよ!」

 ここは直近の問題を何とかする場面! 闇の中に叫んでから学校に走ります

GM :了解。では結界を切り裂き、覚醒は校内に飛び込んだ。


 歪に変化した学校を駆け抜け、覚醒は異変の中心であろう奈落の中枢、中庭へと駆け込んでいく。

 そこで覚醒が目にしたものは、大きく口を開いた奈落と、その中に転落していく二人の少年少女の姿だった。


覚醒 :「―――ってイキナリ誰か巻き込まれてるゥー!?」どうしましょうとりあえず助ける術が何かありますかね!?

GM :残念ながら、今の覚醒にその術はない。奈落に飛び込んだら、基本間違いなくゲームオーバー。普通に考えると、今落ちていった二人は『終わっている』。

覚醒 :「……どどどどどどうしよー……」ちょっと茫然。

GM :そして何かの手を打つとしても、それを阻害するものがいる。溢れ出す奈落に反応して、付近の物陰から次々と、歪な人型の影が現れ、覚醒の周囲を取り囲んでいく。


 気がつけば、覚醒の周囲は、蠢く人型の何かでいっぱいになっていた。

 顔を伏せる。それは無力感故か、罪悪感故か。

「―――今日のライブ、サトリちゃんとっても頑張りました。みんなすっごく盛り上がってくれました。みんな楽しんでくれました」

 俯いたまま、呟く。

「サトリちゃん、とってもとっても嬉しくて、とってもとっても幸せでした」

 ぐっと刀を握りしめる。

「それを!」

 顔を、上げる。覚醒の足下から漆黒の瘴気が吹き上がる。

「すっかり!」

 刀に、瘴気が絡みつく。銘工の作である刀が、瘴気を帯びて、さながら覚醒の身体の一部であるかのように馴染んでいく。

「台無しに!」

 普段は黒い瞳が、周囲の怪物達と同様に朱に染まり、輝く。

「してくれちゃって!」

 怒りが形になったかのように、瘴気が膨れあがる。髑髏のネックレスが白銀の輝きを強めていく。

 吹き上がる、黒い瘴気。覚醒の身体と魂を蝕む奈落の毒は、しかし彼女にとっては生命そのものであり、自らの武器でもある。

 故に、まるで鋭利な刀そのものであるかのような奈落の瘴気は、名目上は同族であるはずの奈落の怪物達すらもたじろがせる鬼気をはらみ、そして。

「―――ごー・とぅー・へーる†」

 禍々しくも、美しい。戯けながらも真摯な剣鬼が、魔物達に終わりを予告した。


GM :覚醒の名乗りに呼応するように、奈落の眷属達が呻きを上げる。

 そして、戦いが始まる――。

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