第三章:オープニングフェイズ 魔女戦争
■オープニングフェイズ 1 シーンPC:洋一 登場判定:不可
目が覚めると、最初に見えたのはベッドの底だった。
複数人が宿泊することを想定していると思われる、向かい合わせの二段ベッド。その下段で、洋一は目を覚ました。
窓の外に見えるのは、七瀬ダムのダム湖。遠くには七瀬市の市街地も見える。おそらくここは、ダム併設の研修施設か何かなのだろう。
「あれ、は……夢?」
そんなはずなはい。そもそも夢だとしたら、こんなところで目を覚ますはずがない。
確かにあったことなのだ。洋一の力の象徴、『ライジングフォース』が、炎の欠片となって消えたことも。
――魔女と人の戦いも、銃弾に倒れた魔女のことも。
GM :洋一は現在、七瀬市郊外の研修施設の一室にいる。
七瀬ダムからほど離れた、少年自然の家とかそんな感じの施設だね。周囲は山に囲まれて、キャンプ場なども併設されている。
窓からは、七瀬ダムの美しい湖面が見えている。洋一が望むなら、本来そこにあるはずの結界が、見えていても見えていなくてもいい。
『ライジングフォース』以外のクエスターとしての能力を維持しているか、それとも魔法使いとしての能力まで失ってしまったのか、ということだね。洋一に任せよう。
洋一 :あるはずなのに見えない、かな。平穏な景色に見えてる。
GM :了解。では美しい湖面は、いつものように揺らめいている。ただし、そこには観光客などの姿はなく、どこか薄ら寒さを漂わせている。
前回のエンディングで、洋一はあのダム湖に転落した。そしてそれを、魔術師連盟の魔術師達に救出された。
彼らが言うところによれば、現在この施設は、フューネラルコンダクターが中心となった退魔組織連合の拠点となっているようだ。
そして彼らから、洋一はここで安静にしているように言われている。
洋一 :「…………」落ち着かなげに何度もシャードの有った場所を見てはダム見て、がっくり凹む。
もう力もないし、魔法世界に関わらんでいいよ的なことを、やんわり言われた感じ。
GM :ちなみに携帯は現在取り上げられている。キミの立場と、その携帯がつながっている先を考えれば当然のことだが……(笑)
洋一 :「……何も、出来ないで……だって、ヒトゴロシなんて……それに……」
最後の瞬間のことを思い起こす。鮮血を散らして倒れていった、顔見知りの魔女のことを。
彼女は確かに、洋一を助けるために、自らの盾を差し出した。そしてかわりに、銃弾に倒れることとなったのだ。
「……くそっ」
ベッドに身を投げ出し、頭を抱える。ただひたすらに、苛立たしかった。
何もできなかった自分が。何もしなかった自分が。
――何かが間違っていることはわかるのに、何をしていいのかわからない自分が。
GM :ではそこに、ドアがノックされる。
「うぉーーい、洋一坊、起きてるか?」
と、低く力強い声が聞こえてくる。
洋一 :「……」ちょっと呆けて「じ、爺さん!?」ガバッと起き上がる。
GM :キミの聞き覚えのある、よく馴染んだ声だ。しかしここで聞こえてくるのは意外……かもしれないし、納得できることかもしれない。キミの伯父、天城太陽が勝手にドアを開けて入ってくる。
許しを待たず、扉が開かれる。そして中に滑り込んでくるのは、大柄でがっちりとした肩幅の男だった。
「よぅ、元気か? 相変わらず爺さんはひでぇなあ。こちとら最強無敵のお前の伯父さん様だぜ?」
にかっと笑う。その妙に子供っぽい笑顔は、紛れもない洋一の伯父、天城太陽その人のものだった。
GM :ちなみにその装いは、ボディスーツ系の黒服にマントという怪しげな恰好だ。
洋一 :多分だけど、思い出の子供の頃から外見年齢変わってないんだろうなあ、ろくに。
GM :そうだね。年齢としては5~60のはずだが、まだ40代にしか見えない。むしろだからこそ爺さん呼ばわりしているのかもしれないな。
洋一 :「何でこんな……いやもうなんか納得だけどさぁ。もらったもんから出てきたジャケットとか」
GM :太陽「おう、説明が省けて楽でいいな。……その通り、お前の伯父さん様とは世を憚る仮の姿、天城太陽様こそは地上最強の魔法使いだった……というわけだ」
どっかと椅子に腰掛けて「リンゴ喰うか?」と丸ごと差し出してくる。
洋一 :「と言うか何っしょその怪しい格好……妙に似合ってるのがまたなんて―か、冗談で笑い飛ばせねえや。あんないろいろ見たあとじゃ……」
と、リンゴを受け取って所在無げに弄くってます。
GM :太陽「冗談も何も……むしろこっちが驚いたぜ。まさか洋一が”こっち側”に来るとはなあ。さすが俺の甥っ子ってところか。いやいやびっくり仰天」
からからと笑って、真顔になる。
「……俺は魔術師連盟の執行者って奴だ。だいたい、お前らがこれまでやってきたことに近い、この世界を侵蝕する敵と戦うのを仕事にしてる」
洋一 :「……奈落、と」
GM :太陽「奈落を含む、この世界に仇成すもの全てと、だな」と訂正する。暗に、魔女たちもそれに含まれていると示唆しているね。
洋一 :「……だ、だけじゃない、のか!? ここに来たってまさか爺さん……!?」その裏に気づいて立ち上がりかけ……足に力が入らなくて、立てない。
GM :太陽「おら、もうちょっと休んでろ」洋一にぺしっとデコピン。
「お察しの通り、俺の今度の仕事は『魔女戦争事案』……つまり『ウィッチレルム』からの大侵攻に対し、その芽を潰すことだ。そのために、対神秘組織は連合して、一つの軍隊を結成した。俺はそれの……『異端十字軍』の総大将ってわけだ」
洋一 :「そ、それって……『ウィッチレルム』は、そしたら……」
GM :太陽「滅ぶな。このままだと、確実に」さらりと。
洋一 :「…………」絶句、呆然とした後……俯いちゃおう。自分の腕にシャードがないって確認してさらに凹む。
GM :太陽「そもそも、『ウィッチレルム』は不安定な世界だ。その成り立ちについては不明なことも多いが、随分昔からマナが枯渇して、『ブルースフィア』からの供給がなければ成り立たない状態になっていた。……そこにもってきて、お前らの活躍によって、一つの重大な事実が明らかになった」
洋一 :「それって……青髭、の?」
GM :太陽「……そう、そいつだ。知らないうちに世界の屋台骨が、奴に食い荒らされてたのさ。もう立て直しも効かない。だから、『ウィッチレルム』の魔女達は、『ブルースフィア』に侵攻を開始した。自分たちが生き延びるためにな」
洋一は押し黙る。太陽の言うことを鵜呑みにするならば、『ウィッチレルム』が『ブルースフィア』に本格的な侵攻を開始した、つまりは先に手を出したのは『ウィッチレルム』の側であるということになる。
それが、やむにやまれぬ事情だとしても、先に手を出したという事実があるならば、事を収めるのは難しくなる。
俯いた洋一の様子を太陽は黙して見守っていたが、不意ににかっと悪戯っぽく笑って、指をぴっと立てて見せた。
GM :太陽「……というのが、俺らの立場だ。だが実際のところはちょっと異なる」
洋一 :「……え?」(顔を上げる)
GM :太陽「そもそも、『ウィッチレルム』は『ブルースフィア』に寄生してるようなもんだ。そしてそいつが奈落に食い荒らされているとなれば、『ウィッチレルム』を食い尽くした奈落は、次はどこを狙う?」
洋一 :「『ブルースフィア』を……」
GM :太陽「そう、ここだ。『ブルースフィア』に、『ウィッチレルム』を丸ごと平らげて、丸々太った青髯の奈落が侵蝕してくる。しかも、『ウィッチレルム』と『ブルースフィア』の接点は一つじゃない。……世界中に、同時多発的に、巨大な奈落が押し寄せてくることになる」
洋一 :「そ、そうならないために……切り捨てる?」
GM :太陽「そういうことだ。『異端十字軍』の本当の目的は、『ウィッチレルム』と『ブルースフィア』の接続点、世界を繋ぐ楔である『結節点』の破壊。そうすれば、『ウィッチレルム』と奈落を、まとめて地獄にたたき込める……って算段だ。そうすりゃ、少なくとも『ブルースフィア』を守ることはできる。
で、『ヴァルプルギスの夜』の魔女達は、それを予期して結節点に強力無比な結界≪アヴァロン≫を張った。奈落の前に『ブルースフィア』に潰されないようにな。
そいつの一つが、そこのダムにあって、俺の部下たちは今現在、結界破りに四苦八苦してるところってわけさ」
洋一 :「で、でも、そしたら、『ウィッチレルム』の人たちは……」
GM :太陽「今現在、おそらく戦えない人間を『ブルースフィア』に逃がす算段を整えてるだろう。かつても魔女達は同じように、『ブルースフィア』のあちこちに隠遁した歴史があるのさ。あの結界は、そのための時間稼ぎだ」
洋一 :「……で、でもみんな受け入れるのは……」
GM :太陽「ムリだろうな。ムリだろうと、やらないと死ぬのが『ウィッチレルム』の立場だ。しかも妖魔、妖精、様々な幻獣、魔獣。魔女たちに混じってそういったものも移住する。マナの秘匿の大破綻だ」
洋一は思い起こす。レプラカーンのTTTが、『ブルースフィア』でどのような振る舞いを見せたか。それが種族単位で移住してきたとして、それが姿を隠し通せるとは到底思えない。
そして、『ブルースフィア』は、マナとそれにまつわる魔法的技術を秘匿することで、有限資源であるマナの枯渇を阻止してきた世界である。
なるほど。魔法を日常の根幹にまで利用している魔法族、まして神秘の権化とも言える妖魔幻獣の類いの大規模侵入は、断固として阻止すべき要件となるだろう。
GM :「……だから、魔術師連盟も、それを阻止するべく『異端十字軍』に参加しているってわけだ」
洋一 :「な、なんとかなんて……」言いかけて、口つぐんじゃう。
GM :太陽「”できない”。……そう、『ウィッチレルム』も、俺達も判断している。だから、戦うしかないのさ」
洋一 :「…………」
洋一はがっくりとうなだれた。本当に、手の付けようがない。
普通のクエスターであった自分ですらどうしていいのかわからないのに、戦う力を失った今の洋一に、できることがどれだけあるだろう?
GM :しばらく洋一の様子を伺っていた太陽は、窓から外を……洋一が落下したダム湖のあたりを眺めながら「……シャードがなくなったって?」と問いかけてくる。
洋一 :「……ダムに落ちる、前に……『ライジングフォース』も、バラバラになって、もう出てこなくて……」
GM :太陽「そうか。……きっと人と戦いたくないんだな、お前は」ぽん、と頭の上に掌を置く。
洋一 :「……そう、なんかなぁ……」じわっと涙が滲み。
GM :太陽「別にそれでいいのさ。別に好き好んで人の戦争に首を突っ込む必要もねぇ。だが、それで納得いかないくらいには、お前も男の子みたいだな?」(わっしわっし)
洋一 :「……でも……」もう、力はないのだと。
GM :太陽「シャードとクエスターの結びつきってのは、そんな生やさしいもんじゃない。何しろ、クエスターが死んでも心臓ひっぱたいて動かしてくるくらいだ。
……力が出ない、シャードが姿を見せないなら、それはお前が”迷っている”からだ。
シャードは果たすべき使命の介添人だ。なら、使命を選び取れない人間の前に、シャードは答えを示さない。
そしてお前は即席魔法使いだからな。そうなれば、力も出ないさ」
洋一 :「…………」
GM :太陽「だから……洋一。まず”迷え”」
洋一 :「……え?」
GM :太陽「迷ってる奴は、出口を探してる。それは停滞じゃない。道が選べないなら、選ばず迷う道を選べ。そうしなければ、自分の道を見つけることもできない。男ってのは、そういう不器用な生き物なんだろうさ」(わっしわっし)
洋一 :「だけど……判んねえんだよ、爺さん……」鼻をすすって「向こうにも、優しくしてくれた人がいて、バカ一杯やったけど、憎めない奴とかいて……。
でも、こっちにだってトモダチだっているし! なのにそいつはそいつで突っ走ってわけわかんねえこと言うし!! ってか好きんなった子が死ぬ覚悟ばっか決めてこっち見てもごめんなさいって目しかしねえし!
ほんとわけわかんねえよ!! 何なんだよこれっ!!」
思い出せば感情がざわめいていく。苛立つ。二階堂の言葉が、ほとりの目が、銃弾に倒れていった魔女の姿が、幾度もフラッシュバックを繰り返す。
誰も、誰かを救いたいのだ。誰もがそう叫んでいる。
しかしなぜだろう。いつも願いは遠く叶わない。いつも選択と結果が、願いを裏切っている。
GM :太陽「みんな、誰かに幸せになって欲しいんだろうになぁ。優しい奴ほど、誰かに幸せになって欲しいために、無理して一番大事なものを後回しにしちまう。よくある矛盾だよな」
洋一 :「ぜんっぜんなってねえじゃん……っ!」心臓が脈打つ。置かれてる現状の理不尽にただ腹立ちをぶつけて。
GM :太陽「まったくだ。だからこそ……迷って、正解を捜してみろ。”幸せになりたい”ってところに絞り込んで、手の届くみんなで幸せになる方法を考えてみろ」
洋一 :「……幸せ、に……?」涙と鼻水まみれで顔上げ。
GM :太陽「”幸せを願われているのだから、自分自身にも幸せになる、そうなろうとする責任がある”。……俺の尊敬する先生の言葉さ。お前もお前の好きな彼女も、幸せを願われている子供だ。なら、お前達が幸せになる方法を考えろ」
「それがいつでも道標、”生きていくための光”になる」
言いながら、太陽は懐からメダルを一つ取り出し、ぴんっと弾いて投げ寄越した。
「生きていくための、光……わっとと」
突然のことに慌ててメダルをお手玉する。ようやく手の中に収まったそれを眺めると、それは羅針盤のような刻印の刻まれた黄金のメダル。細かく刻まれた文字は、洋一にはもちろん読み取ることはできないが、『ウィッチレルム』で見掛けたルーンに似ているような気もする。
洋一 :「爺さん、これは?」
GM :太陽「昔、先生に貰った御守りさ。どんな時でも正解を指し示す≪極光の羅針盤≫とかいうらしいぜ?」
洋一 :「い、いや、何でオレに、これ、爺さんの大事なもんじゃ……?」手の内にあるものに重さと、ぬくもりを感じて。
GM :太陽「なぁに。御守り一つに頼るほど、天城太陽様は落ちぶれちゃいないさ。今、その羅針盤はお前にこそ必要だ」
洋一 :「…………」胸に押し当てるようにする。さっき吐き出した、癇癪のような熱を恥じるように「爺さん、その……オレ」顔上げて「そ、その、言うから。ちゃんと考えるから。だからその……」死ぬな、無事でいてくれ、と言外に。
GM :太陽「ははっ、何て目してる。俺を誰だと思ってる? 最強無敵のお前の伯父さん様だぜ?」
ぽん、と太陽はまた洋一の頭を叩いて、立ち上がる。
「これから、≪アヴァロン≫攻略作戦が再開される。戦闘員以外が近くにいられると迷惑だ。とっとと出て行って、自分の仕事をやるんだな」
洋一 :「……うん」頷いて自分も立ち上がる。
GM :太陽「じゃあ、またな。洋一坊」そして太陽は部屋から出て行く。あとは洋一次第だ。
洋一 :そうだな、じゃあ……。
「わっかんねえ。わっかんねえよ。でも……」
鼻を啜る。立ち止まっていては、ダメだ。それだけはわかる。
だが、考えても答えは出ない。そんな器用ではないし、判断する知識もない。
そして知識があろうとも、一人で考えすぎるから、あらぬ方向に突っ走ってしまう。それは二階堂が示したことだ。
「……多分、やりたいことは、ある。やんなきゃいけない事も」
だから、衝動に従う。いつだって、正しい方向は、胸の炎と、大切な仲間達が指し示してきた。
こんな世界に巻き込まれた時から、ずっと自分は一人じゃなかった。
だからまず一人じゃなくすること。きっとそれが、最初に必要なことだ。
「……行こう。どうにか連絡取るんだ」
どうにか、両の足は身体を支えてくれた。ぱんぱんと膝を叩き、少し迷って、太陽が渡してくれたメダル……『極光の羅針盤』をポケットに突っ込む。
ハンガーに下がった、太陽のジャケットに手を伸ばす。それを羽織って、洋一は歩き出した。
■マスターシーン
「……ことここに至っては、あの御守りは、俺を守っちゃくれないからな」
一人、天城太陽は呟く。見据えるのは、虹色に輝く防護結界≪アヴァロン≫。
その向こうに遠く視線を投げかけて、そして大魔法使いの弟子は、己の道を進んでいく。
「さて、子供達の無理と無謀がどう流れを変えるか……見せて貰うぜ、洋一坊」
■オープニングフェイズ 2 シーンPC:覚醒 登場判定:不可
追われるまま、何日が過ぎただろうか。
襲撃者は、フューネラルコンダクターを主とする『異端十字軍』。蒼き世界を護らんとする、全く正しき正義の味方たち。
追われるのは、世界の破壊者。奈落に冒され、侵略者に与する生ける屍。
なるほど、と覚醒は笑う。正義の守護者と、悪の侵略者。客観的に見れば、これほどわかりやすい構図はない。
だとしても、覚醒が滅ぼされてやる道理はなかった。それがどんなにわかりやすい正義であったとしても。
その正義で救えないものたちがいて、それが彼女と、彼女の救いたいものであるからには。
覚醒 :はーい†
GM :ロケバスが、路地裏を駆け抜けていく。
覚醒 :字面の時点で何かがおかしい!
GM :運転手は、いつもの四谷だ。全身をスーツと手袋で覆った見慣れた姿で、ハンドルを握っている。
負傷した覚醒を拾って、七瀬市を逃げ回ってはや数日。かつての苛烈な訓練を想起させるタフさで、四谷は覚醒をサポートし、ここまでキミを逃げ延びさせてきた。
覚醒 :サトリちゃんの右腕はどうなっています?
GM :切断されたままだ。覚えたばかりの≪ヒール≫で治療をしても、まったく回復する様子がない。
ほとり:アルシャードの≪ヒール≫は、欠損部位の修復もできますからね。
アルシャードの≪ヒール≫の魔法は、マナの記憶を呼び起こして、その部位を『破壊される前の状態』に修復するものだ。
そのため、GMの許可次第ではあるが、ここでは基本的には『切り落とされた腕の修復』くらいは可能なものである、としている。
逆に言えば、明確に≪ヒール≫で修復できないとGMが述べているということは、そこに何らかの妨害が働いていると判断してよい。
覚醒 :なるほど……では傷に演出で≪ヒール≫をかけながらよっちゃん(四谷)に話しかけます。「めちゃくちゃに宜しくない状況だねー。いやはや、分かってたことなのですけれど」
GM :四谷「……仕方ないでしょう。何しろ貴女は言うなれば歩く奈落爆弾だ」
覚醒 :「『ならくばくだん』! いいねえよっちゃん、それ最高です」くすくす笑って。
GM :四谷「冗談ではないのですけど、やれやれ、本当に貴女はタフだ。肉体だけではなく、精神的にも。
かつての貴女は、ブレが小さいが故に頑丈だった。今は、ブレを大きくしていながらも頑丈なままだ。……何が、貴女をそこまで強くしたのだか」
ぎゅらららら、と車がまた急ドリフトを決める。
覚醒 :「うーん、どうかなー。色々と、吹っ切れただけかもしれません。まだ安定しているとは言い難いかな、喋り方とか」このように口調が『昔の灰岡覚醒』と『今のサトリちゃん』が混ざりつつある。
GM :四谷「……吹っ切った?」
覚醒 :「んー……しおのがいなくなったとき、記憶は色々曖昧になってたんだけど、このままじゃいけない! っていうのが強くあったんです」
GM :四谷「あの頃は、実際不安定でしたからね。……それで?」
覚醒 :「しおののおかげで少し前向きになれて、彼女がいなくなって不安だったけど前は向いていようと思って。そこからアイドルになって、変わろうとして強めのキャラ作って。いつしかそれが『自分』になって」
GM :四谷「…………」黙ってハンドルを握り、続きを促している。
覚醒 :「でも、しおのが生きてた―――生きてたって言っていいのかはまだ分からないけど。あの時、結構ワタシ、葛藤してたんですよ。仕事を楽しむ『サトリちゃん』は、あんまりそういう素振りを見せなかったですけど」
*舞台裏*
洋一 :へー、そうだったんだ……。
覚醒 :ちゃんと当初から考えてたんですよ!(笑)
GM :四谷「…………」やはり沈黙。きゅるきゅるきゅる、ぶろろろろろ。
覚醒 :「本心を言えば、しおのと戦いたくなんてなかった。でも敵が奈落なら倒さないといけない。それで自分の中で都合よく、前半を『覚醒』に、後半を『サトリちゃん』に任せてたんだと思うんだよね、今考えると」
GM :四谷「それが吹っ切れた、と?」
覚醒 :「しおのを助けることが出来る、っていうのが分かったのもあるけど……色々あった中で、自分の中で『変わっていないもの』を再確認できたから、吹っ切れたんだと思う。今のサトリちゃんも昔のワタシも全部ひっくるめて灰岡覚醒なんだって」
GM :四谷「……………なるほど」 満足そうに四谷は口元を緩める。
覚醒 :「やっぱり、生きるからには楽しまないと。精一杯ネ†」にっかり笑顔で。
GM :四谷はハンドルを切りながら言う。
「……私は珠来しおのが姿を消したあの時、貴女を『処分』するべきか、本気で迷っていたんですよ。
私は『あの災厄』の唯一の生き残りです。そう、本当の意味で生き残ったのは私だけだった。貴女は厳密には違う。貴女はあの災厄で『生まれた』ようなものだ。
だから、私は貴女の行く末を、私達の残滓を見守り、必要ならば『処分』するためにずっと付き従ってきました。
貴女の永遠の回り道を終わらせてやるために……最初はね?」
ちらり、と覚醒の方に視線を送る。その懐……昔からずっとそこには、一丁の拳銃があるのを覚醒は知っている。
覚醒 :「……」笑顔のままでそれを聞いています.
GM :四谷「しかし、違った。貴女はもはや道具だったあの頃の我々とは違う。貴女は貴女という個として、自分の望みのために戦っている。
ならば……我々の最後の一人として、私は貴女を見届ける。その最期の時まで見守り、手を貸し続ける。それが私の役割だ……と思っています。
……この調子だと、貴女の方が私より長生きしそうですけどね?」
覚醒 :「よっちゃん看取るのは辛いなあ。絶対泣いちゃうよ」
偶像は笑顔で言う。この身体になってから泣いたことなどないのに。
覚醒 :「それが本当によっちゃんのやりたいことなら、サトリちゃんも最後まで付き合うよ。ワタシの責任でもあるからね」
GM :四谷「では、別れの涙を楽しみにするとしましょうか――」
その瞬間、車に横殴りの衝撃が叩きつけられた。
それなりの重量のあるロケバスが吹き飛ばされ、横転する。
気がつけば、横転した車はフューネラルコンダクターの埋葬部隊に包囲されていた。
「………どうやら、足を変えないといけないようですね」
額から血を流しながら、横転した車から這い出した四谷が、懐の銃とコンバットナイフを抜いた。
覚醒 :「……全く、無粋な連中ですねえ。このままよっちゃんと昔話するのも悪くないと思ってたのに」左手だけで器用に刀を抜き放ちつつ。
GM :四谷「残念ながら、それでは話は進まない。現状を打開するには、貴女が自ら切り拓き、選び取る必要がある」
覚醒 :「……過去が集まって今があり、今が集まって未来があるのですよ?」よっちゃんの意図を察しつつも。
GM :四谷「わかっていますよ……だからこそ覚醒さん、今はあなたの問題を解決して下さい。その胸の奈落の扉も、珠来しおのの事も、まとめて。そのための時間は私が作ります」ちゃき、と拳銃を葬送人達に突きつけて。
覚醒 :「……いずれ、ちゃんと昔話はしたいから。彼らはともかく、死亡フラグだけはしっかり縊り殺していただかないと困りますからね」
GM :四谷「もちろん、最善の努力を。……お忘れですか、覚醒さん。
――私は、あの災厄をただ一人生き延びた男です」
四谷が駆け出す。卓越した体術で葬送人を攪乱し、覚醒の退路を切り拓く。
覚醒 :「でしたね」くすくすと笑い「……生きていれば、きっと良いことがある。間違ってなかったかもしれませんね、『リーダー』」とつぶやいて、退路を走り抜けます。
身を翻した覚醒の背中に、四谷の声だけが聞こえてくる。かつての『彼』を想起させる声で。
「叶えてくれ、君の望みを。みんなも、君と一緒にいる。だから君の願いが、俺達みんなの希望になる!!」
発砲音。特注の退魔弾の白い閃光。身体を焦がす光に紛れ、覚醒は町の闇へと身を躍らせる――。
GM :クエスト【覚醒の望みを叶える】を差し上げよう。
覚醒 :拝領します。
GM :では、シーンエンド!!
■オープニングフェイズ 3 シーンPC:ほとり 登場判定:不可
『ウィッチレルム』の姿は、伝説の空飛ぶ島を想起させる。
一際高い峰を中心に、聖地たる『ブロッケン樹海』。その周囲に張り付くように、都市や村が広がっている。
その外縁、七箇所に、光の柱が立っていた。
≪アヴァロン≫……その結界術はそう呼ばれている。ブリテンおよび西欧の伝承に語られる、アーサー王伝説の終焉の地。もしくは、救世主が訪れたブリテン最初の土地の名前である。
幼い頃のほとりは不思議にも思わなかったが、『ブルースフィア』の伝承を知った今、『ウィッチレルム』が操る結界術としてはいささか不似合いな名前に思える。アーサー王伝説の成立時期と、『ウィッチレルム』の歴史には大きなタイムラグがあり、もし名前を模倣しただけだとすれば稚気が……日本流に言えば中二病が過ぎる。
……だが、今はそれは重要ではない。今のほとりに重要なのは、その光の柱が、『ウィッチレルム』を守る最後の防衛線であり。
「ストランド! メキシコゲートから負傷者七人来る! トリアージ済み、手順通り!」
「はい、わかりました!」
何より重要なのは、そこから毎日のように……否、毎時のように、傷ついた魔女達が搬送されてくる、という事実だった。
GM :『ウィッチレルム』と『ブルースフィア』が戦闘状態に入って、数日が経過した。だいたい他のPCと同時期と思ってもらっていい。
ほとりは『ウィッチレルム』の魔女として、戦闘の後方支援に回されている。具体的には、負傷者の治療とか、そういうのだね。
理由は簡単だ。ほとりやいずみのような『侵蝕者』は、≪真名の枷≫によって無力化されるおそれがあるから、前線に安易に出せないんだな。
ほとり:あとは現実問題、私はそれほど『強い』タイプではないですしね。前線よりも遊撃向けですし……。
GM :それでも基本性能の高さは既に『ウィッチレルム』の魔女の中でも一級品だけどね。
まあ、そんなわけでその実力を生かすため、ほとりは今日も伯母ヴァネッサの指示で、結界の強化や負傷者の治療に駆け回っていた。今は自分の担当が一段落して、負傷者の治療を行っているいずみを横目に見ている状態だ。
いずみが治療しているのは、緒戦で深手を負った魔女だ。結界≪アヴァロン≫を展開するために七瀬市に転移し、結界を展開して『ウィッチレルム』に戻ってきた。ほとりは、かつて覚醒と契約した際に、洋一と一緒にいた魔女であると覚えている。
ほとり:ああ……あの時の方ですね。大切な儀式の折だったこともあって、印象に残っています。確か天野さんをからかっていたような。
覚醒 :前回のよっちーのEDの後、生きてたのですねえ。
洋一 :(ほっとして)良かった……俺はまだ知らないけど。
GM :そうだね。まだ意識は戻らないが、いずみの治癒魔法がかなり強力なこともあって、どうにか一命はとりとめた。
ほとり:「いずみさんのおかげで助かります。私だけですと、とても魔力がもたなくて」そう言いながら幾つか小さなベリーの乗ったお皿を差し出しましょう。
GM :いずみ「……もうちょっと……頑張って……あ、ありがとう、海辺ほとり」と顔を上げたいずみの顔は酷く憔悴して見える。
ほとり:「いつものお礼です」笑って一つ、口に入れてあげる。
GM :いずみ「……んぐ。……美味しい」もぐもぐと飲み込んで「ドーナツ……食べたいなあ」とちょっと弱音を吐く。
ほとり:「そうですね」思わず自然に、同意してしまう。
GM :いずみ「…………」そのまま俯いて、黙り込んでしまう。そこに背後から、ほとりを呼ぶ声がかけられる。「ストランド。ヘクセン・ヴァネッサがお呼びです」
ほとり:「はい。了解いたしました」と返事をしてから「いずみさん、もうしばらく、ここをお願いします」と頭を下げます。
GM :いずみは「……わかった」とだけ応えて、目元を拭って再び治癒魔法にとりかかる。
ほとりがその場を立ち去る直前、その背中に小さく呟きが聞こえた。
「どうして、こんなことになってるんだろ……」
(本当に)
振り返らぬまま、内心で同意する。
(本当にどうして、私が運命に従うだけならともかく――私の大切な小さな先輩まで)
GM :さて、そんなわけで、そのまま場面はヴァルプルガ大聖堂、『ヴァルプルギスの夜』のヘクセン第四位、ヴァネッサ・エインセルが待つ礼拝堂となる。
「……来ましたね、ストランド」
いつもと変わらないような振る舞いで、伯母のヴァネッサは毅然と立っている。
ほとり:「はい。ストランド・カニングフォーク、招集に従い参りました」
*舞台裏*
GM :ここでヴァネッサがほとりに指示を出すんだけど……ほとりはどこまで状況を報告してる? 何か隠すようなことはあった?
ほとり:そこなのですが、冷静に考えるほど、実は私から隠す事……そして隠せることはないんですよね。サクラダ・アウローラの件に関しては間違いなく報告しなければ、世界の危機ですし。
GM :すると、サクラダ・アウローラ消滅、”青髯”の存在、ジュライ・シオノの聖樹が”青髯”に攻撃を受けている、までは確定、と。
ほとり:それ以外のあれこれ、細かいことに関しては「むしろ私に秘匿されていた話」であって、私が隠す話ではなかったんですよ。
……プライベート、天野さんや覚醒さんとの、それを除けば。
GM :ふむ。すると、サクラダ・アウローラ生存の可能性についても報告してるんだね。
ほとり:PL視点で考えたのですが、それは【『ウィッチレルム』を守る】と言うクエストがある以上、報告するべき事柄だと、ほとりは認識すると思うんです。
ほとりにも彼女の生存の如何によって、この世界がとるべき”生き残るための方法”が大きく変化することは、想像できるはずですからね。
GM :了解。では……。
GM :ヴァネッサ「……貴女の報告は確認しました。聖樹サクラダ・アウローラの消滅、少なくともマナ供給能力の喪失……そして、聖樹達は巨大奈落とその力を相殺されている、ということですね」彼女は、サクラダ・アウローラの生存の可能性については触れずに問いかけてくる。
ほとり:「はい。私の見聞きした情報、そして私自身の身に起きた変化を考えた結果、それは現実である。そう結論が出ました」
GM :ヴァネッサ「なるほど。……他ならぬ貴女とアマノ・ヨーイチの存在によって、私達もほぼ同時期に、同じ結論を得ました。貴女達二人は、サクラダ・アウローラのシャードの継承者。それはつまり、サクラダ・アウローラが自らのシャードを手放す状態……消滅したと考えるのが妥当です」
ほとり:「ヴァネッサ様。現状の確認のために私をお呼びしたのでしょうか?」
GM :ヴァネッサ「……もちろん、違います。ストランド・カニングフォーク。貴女の階位は、既に≪樹霊化身≫に相応しい段階まで成長しました。そして……今、この『ウィッチレルム』には、決定的にマナが不足している。≪アヴァロン≫を七つ維持するだけのマナを、誰かが供給しなくてはならないのです」
ほとり:「それに私が選ばれたと言うならば、私はこの世界と、この世界に生きる命のために、そういたしましょう」
GM :ヴァネッサ「……今、≪樹霊化身≫が可能な魔女は、あなたと、新たに目覚めたばかりのイズミだけです。そして今、『ウィッチレルム』は戦争状態にある。……戦える可能性のある魔女を、手放すわけにはいかないのです」
ほとり:「……戦況は思った以上に悪いようですね。『ブルースフィア』は、本気でこの世界を切り落す覚悟ですか」
GM :ヴァネッサ「『ウィッチレルム』には『前科』がありますからね。『ブルースフィア』の反応は想定された通りです。そしてそれを予期して、先手を打って結界を張ったのですから、お互い様とも言えるでしょう」
背を向けたヴァネッサが淡々と告げた内容は、ほとりも魔女学院で学んだことだ。サクラダ・アウローラの出現まで、『ウィッチレルム』の魔女は幾度も蒼き世界への侵入を試み、それを排除しようとする『ブルースフィア』の間で熾烈な戦いが繰り広げられた。
現在の両世界の関係を保障するのは、サクラダ・アウローラの契約だけ。そして彼女の力が失われ、そのままでは『ウィッチレルム』が滅ぶとわかった今、魔女達が座して滅びを受け入れるはずがない――少なくともそう『ブルースフィア』は考えている。それは”『ウィッチレルム』が≪アヴァロン≫を展開する前に、既に戦闘部隊が結節点に集結していた”ということからも明らかだ。
だからこそ、この戦いを収めるためには、”『ウィッチレルム』が滅びない”ことを示す……つまりは”青髯”を倒し、サクラダ・アウローラを救出する必要がある。それ以外に、有効な問題解決の手段はない。
――それは、ヴァネッサもわかっている、はずなのに。
「ストランド、貴女は魔女イズミに≪樹霊化身≫の命を伝えた後、第三結節点の防衛に回りなさい。あちらはタナトスとの交戦状態にありますが、貴女の『守護者』は日本に釘付けとなっているはず。あそこなら、≪真名の枷≫のリスクは最小限に抑えられるでしょう」
ヴァネッサは酷く冷たく、まるでほとりの見解を無視するように、命じた。
ほとり:「失礼ながら……いずみさんは、まだ、年若い魔女です。『樹霊』になるには時期尚早では? それに『ヴァルプスギスの夜』は私のサクラダ・アウローラに関する報告を、どうお考えなのですか?」
GM :ヴァネッサ「それを判断するのは『ヴァルプルギスの夜』です。イズミほどのマナであれば供給量については申し分ない。……少なくとも、『ウィッチレルム』の住人が『ブルースフィア』に拡散するまでの時間稼ぎには足りるでしょう。そして」
そこでヴァネッサは言葉を切って、ほとりに背を向ける。
「サクラダ・アウローラの消滅は、観測上の事実です。そして、私達に”青髯”に触れる手段がない以上、仮に生存の可能性があったとしても、それを助け出す手段はありません。
”青髯”を『ウィッチレルム』から切り離す術が見いだせない現状を鑑み、『ヴァルプルギスの夜』は『ウィッチレルム』からの脱出を決定したのです。これは私達『ウィッチレルム』を司る者の選択です」
ほとり:「では――他のこの世界の命はどうなるのですか」
GM :ヴァネッサ「……可能な限り、脱出を試みます」言外に、不可能な部分は切り捨てるしかない、と言っているね。
ほとり:「それは『ウィッチレルム』の魔女の在り方ではありません! 魔女は『ウィッチレルム』という世界、そこに生きとし生けるものためにあると、私に教えて下さったのはおばさま……あなたです」
GM :ヴァネッサ「己の在り方の是非を問う段階は通り過ぎている、通り過ぎていたのです。私達には、この世界に生きる命を少しでも多く生き長らえさせる義務があります。……ストランド」
ヴァネッサは振り向いて、ほとりの目を見返す。
「あなたの背負う【クエスト】は、【『ウィッチレルム』を救う】ものですか? それとも【『ウィッチレルム』の人々を救う】ものですか?」
ほとりはその視線ではなく、言葉の重みに身を凍らせた。
『ヴァルプルギスの夜』は、【『ウィッチレルム』の人々を救う】ために行動している。それは、必ず『ウィッチレルム』という世界を救うことを意味しない。
そしてほとりはクエスターだ。彼女にシャードが与えている第一のクエストは、【『ウィッチレルム』を守る】というものであり、それを否定することは、己がクエスターであるということを放棄するのに等しい――少なくともほとりはそう考えているし、実際にクエストをねじ曲げた結果、シャードが失われたという事例は存在している。
だから、ほとりはこう答えるしかなかった。まるで機械のように。
「――【『ウィッチレルム』を救う】、ものです」
「ならば、貴女は既に『ヴァルプルギスの夜』の指揮下から離れました。……ストランド・カニングフォーク。貴女を除名し、追放処分とします」
僅かな間も置かず、ヴァネッサはそう宣言した。冷たく、感情を感じさせない視線で見下ろして。予め用意した脚本通りの台詞を読み上げるように。
――呆然と。
ただなんの感情もないような表情で。
返事をすることも出来ずに。
ほとりはその場に立ったまま、自分の伯母を見つめていた。
GM :ヴァネッサ「まつろわぬ魔女よ。本来ならば記憶の消去を施すところですが、その力も惜しまれるのが現状です。……今この場より、この世界より立ち去りなさい」ぱん、と鞭で手の内を叩くと、ほとりの足下に魔法陣が浮かび上がる。転移の魔術だ。
ほとり:「あ」
GM :キミは足下に何か穴が空くような衝撃を感じる。落下。落下だ。次元の障壁を飛び越え、キミは『ブルースフィア』に放り出されていく――。
足元が崩れたように感じたのは、ある意味では錯覚ではない。
ほとりの足元に浮かび上がった魔法陣は、速やかに発動した。両足を支える感覚が消失し、ほとりの身体は虚空に放り出される。
思考は完全にパンクしていた。まっ白になった思考を余所に、冷静な部分が勝手に術を……例えば認識阻害などの魔法を行使する。
いつかのヴァネッサの、表情を変えない、しかし相手のためを思う声で教わった、その手順通りに。
そして未熟な部分は、ただ泣き叫んでいた。どうしてこんなことになったのか。誰も裏切りたくなどないのに。誰かに死んで欲しくなどないのに。
そのとき、はっと意識に答えが浮かび上がった。
(ああ……わかった――私、死にたくないんだ。だけどそれ以上に)
転移の影響で、意識が闇に飲まれていく。かすれていく意識の中で、ほとりはその答えを、必死に絞り出していた。
(それ以上に、みんなに、死んで欲しく、ないんだ)
それが、ほとりの望み。自らに課す使命。
誰も死なない可能性。誰も傷つかない可能性。それを手にする選択は、これしか――。
GM :ほとり、クエストを受け取るかい? シャードは【ほとりの願いを叶える】という漠然としたクエストを提示する。
ほとり:それを受け取ります。そう、願いはあるのだから。
GM :では、シーンエンドだ。
■マスターシーン
姪を異世界へと送り出し、ヴァネッサ・エインセルは小さく息を吐き出した。
あちこちから、警報が届けられる。彼女を送り出すため、≪アヴァロン≫に穴を開けたのだ。当然、その周囲に徘徊する『異端十字軍』が反応する。
しかも、重大な戦力である高位のクエスターを、独断で追放処分にしたこともある。事が収まった後は、相応の責任を果たさねばなるまい。
「――でも、いざというとき責任を持つために、私達は権力を手にしているのですものね」
やや諧謔的に笑みを浮かべて、ヴァネッサは指を鳴らす。周囲から、無数の長銃を携えた若手の魔女が駆け寄ってくる。
「出ます。侍従は後方に控えなさい」
魔術で浮かび上がる、無数の長銃。杖を手にして悠然と歩みを進める大魔女に、まず長銃が、そしてそれに続いて若者達が身を凍らせつつも付き従う。
(貴女は、貴女の望みを叶えなさい、ストランド)
”百手鬼女”の異名を持つ魔女。自らの行いのツケを支払うべく、大魔女は戦場に赴く。
(そして願わくば、貴女が見失っている、一番大切なことを思い出して)
■幕間
ほとり:いい仕事をしました。
洋一 :ほんまにもう、どうしたら良いんだ(死)
覚醒 :サトリちゃんだけでも覚悟完了しておいて良かったと思いました(感想)
GM :ミドルフェイズは、合流して立ち向かう覚悟を決めるまで、という感じになるね。
覚醒 :あと右腕。
GM :右腕。そうだったね。ではその腕を取り戻すための流れでいきましょうかねえ。




