序章:『二つの目覚め』 プリプレイ
「チームA」セッションの実施日がやってきた。
オンラインセッションなので、間食や飲み物などはそんなに必要ない。ただなるべく安定したパソコンの前に陣取って、ただ開始時間を待つ。
準備はそれなりに万端。あとはおおむね行き当たりばったりでいけばいい。
参加者がIRCのチャンネルにログインし、そして予定時間がやってきた。
GM :さて、それでは始めましょうか。
……まずは、お集まりの皆様、誠にありがとうございます。GM、緊張で案外ガチガチでございます。
これより、『ヴァルプルギスの侵略者たち』キャンペーンの開幕とさせていただきます。
一同:よろしくお願い致します!!
GM :ちなみに、今キャンペーンの趣旨は事前に知らせた通り、「リプレイ収録を意識」「少人数によるロールプレイ重視」「GMの趣味丸出し」などの特徴を備えている予定です。第三項目はさておいて、前者二つについては多少なりとも意識していただければ幸いです。
プレイヤー2:わかりました。
プレイヤー3:ガ、ガンバリマスロボ……。
プレイヤー2:そう言えば自己紹介ってどうします?
GM :今回は対話形式でいきますか。各員の突っ込みもアリで。
プレイヤー1:対話形式というと?
GM :まず名前とクラス、それから簡単な外見や性格などの自己紹介。これに、他のプレイヤーからのコメントや突っ込みを織り交ぜてキャラクターの紹介としようと思います。
この方式は、プレイヤー間でキャラクターを理解するのに役に立つ。もちろん使える時間が少ないときはその限りではないけれど、今回は長期のキャンペーンということで、最初は念入りに相互理解を求めることとした。
簡単にしたいときは、あらかじめテキストファイルなどに必要な事項をメモしておいて、それを見せながら説明する、もしくはオンラインセッションならコピペするというのが楽でいいだろう。その時、キャラクターシートが他のプレイヤーから参照しやすいよう、Dropboxなどのオンラインストレージに収めてリンクを添えておくと、なおよい。
GM :順序はPC1から順に。コネクションは自己紹介の後に取得を行ってくださいな。
▼PC1 天野 洋一 ”未だ目覚めぬ希望の手”
プレイヤー1:はい。名前は天野洋一。クラスはキャスター1/サイキック1/レジェンド1。年齢は……じゃあ十六で。高校2年生。
プレイヤー2:ハンドアウトが同級生設定なので、私も高校2年生で統一ですね。
GM :そのようによろしく。サイキックはPK、と。イメージはいわゆるスタンド使いだったかな。
プレイヤー1→洋一:ブリーチ掛けた明るい茶髪で、ちょっとチャラい感じ。髪型とか無茶してません。素行優良じゃないけど気合入って不良でもない……くらいの、スクールカーストでだいたい真ん中寄り。
GM :青春ものでは主人公か、それとも主人公の友達とかでよく見掛けるタイプかな。
洋一 :ぶっちゃけPLの血中ジョ●ョ濃度はそんなに高くないので、あくまでもイメージにとどまると思いますが。何か人型のビジョン出してウラウラします。
TRPGにおいては「●●みたい」というのは必ずしも否定するべきことではない。
相互のイメージを固めることが、オリジナリティよりも優先すべきことだからだ。イラストや声によるイメージの補強が望めない以上、「●●みたい」という形容は、そのキャラクターをイメージするための非常に強い武器となる。
――ただし、後述するように、もちろん限度というものはあるけれど。
GM :今20年越しの再流行だし、そのものではなくても流行に影響を受けて「近いものになった」とかも有り得るしね。そこは自分のスタイルに合わせていけばいいし。
プレイヤー3:困ったらペル●ナにしてもダイジョーブですよ多分!
洋一 :大体似たようなもんじゃないか(笑)
プレイヤー3:ペル●ナ作るときに荒木先生に許可取ったそうですからね。
プレイヤー2:そうだったんだ(笑)
GM :いかにもだしねえ(笑) さて、性格とか行動指針は?
洋一 :いわゆる今風の(偏見)想像力とか真剣味の今ひとつ足りないチャラ男君、でも心のなかに熱いものがあればいいな、と……行動指針は「惚れた女に格好いいとこを見せる」ですね。ええ。PC2に下心で声掛けようとしてそのままうっかり神秘に落っこちる。
GM :うん、いきなり地獄につきあってもらいます。
プレイヤー2:チャラ男のロールは説得力が大切なので、PC2としては期待してます(笑)
GM :あとは戦闘スタイルかな。まあ、現時点ではまだクエスターではないんですが……(笑)
洋一 :20m距離からの固定砲台。範囲化にムーブアクションが潰れるんで距離取ったりは難しそう? 逆に壁にもなれない柔らかぶり。……畜生、むしろ女の子に守ってもらう側っすよこれ(笑)
プレイヤー3:守りますヨー(肉壁)
GM :それこそ今風でいいじゃない(笑)
プレイヤー2:演出的には『星』なんですけど、データ方向が実は『法王』なのかな?
洋一 :多分『魔術師』ですね。熱を操るので。
GM :なるほど。あとは特別言う事があればどうぞ。
洋一 :特にないかな。説得力はないかもだけど頑張ります。
GM :では、次。PC2がよろしく。
▼PC2 海部 ほとり ”海風に揺れる侵略者”
プレイヤー2:はい、海部ほとりです。
プレイヤー2→ほとり:エンチャンター1/オーヴァーランダー1/キャスター1。ハンドアウトが異世界人と言う事もあって、素直にオーヴァーランダークラスを取得しました。
GM :世界魔法を用意しようと思ったんだけど、これは今はまだ様子見ということで。次のレベルアップでは取得可能にできるといいな。
ほとり:その時にも対応出来るようにデータは用意してます。クラスでは普通の黒い髪の毛の地味な女の子、と、思い込まれています。《異界の隣人》の効果で。
GM :なるほど。果たして、真の姿は?
ほとり:……真の姿は、白ワインのような緑がかった銀髪。目は緑と青のオッドアイ。どうみてもアニメの中にいる少女なのに、クラスメイトがその事に誰も気がついてない。と言うシチュエーションを狙ってみました(笑)
洋一 : ~クラスの地味子が実はアニメ調美少女だと俺だけが知っている~
GM :第二話のタイトル候補だね、それ(笑)
洋一 :ラノベっぽい!(笑)
ほとり:もう決まってるの!?(笑)
プレイヤー3:最近の流行りとしては胸に紐付けないと!
GM :例の紐が機能するような体格なのかしら。
時事ネタである。このリプレイを執筆している段階で、『例の紐』は既に風化しかけていたが、発表直前に続編の放送が発表されて復活した。
……良かったですね、巨大な『例の紐』を作ってたワールドデザイナーさん。
ほとり:たぶん、あんまり機能する体型ではないです。なにより拒否します(笑) それにパロディ記号が重なりすぎると、元ネタの印象に支配されて、リプレイ用のキャラの印象が残りませんし。
GM :ご配慮感謝(笑)
――というのが、既存のイメージの流用のデメリットだ。元のイメージに思い入れがあればあるほど「●●はこんなことしない」などと、そのPCではなく元ネタの方のキャラクター性の表現に引きずられることになりやすい。
既存イメージの流用は悪い事ではないけれど、「あくまで模倣」ということは心に留め置いた方がいい。
キミが演じているのは、元ネタのキャラクターではなく、キミの目の前にあるキャラクターなのだから。
GM :性格についてはどうかな?
ほとり:あんまり自分に自信がないタイプですね。名門の生まれだけど、親を失っている。と言う立場で。
GM :両親は不在……と。生存と死去、どちらにしようか?
ほとり:生存にしておきたいと思います。
GM :了解、うまく使えるように頑張りましょう(慇懃にゲス顔)。ということは、見知らぬ世界で隅っこで静かにしているタイプってことかな?
ほとり:はい。七瀬市は海に面しているので、異世界の内陸から来て、海を見て海に一目惚れ。なので偽名が「うみべのほとり」。
洋一 :笑顔とかは見せないのかな(わくわく)
ほとり:強がりの笑いが普段。ただ、自然や動物をみると、無意識に笑う。
洋一 :なるほど。自然な笑顔はそういう相手に向けるのか。
GMと洋一のプレイヤー、一斉にメモを取る。
プレイヤーからの演出の提示は「そういうことをしたい」という意思表示でもある。こういう要素は可能な限りメモを取っておいて、うまく表現できるように水を向けると満足度が高くなりやすい。
これはGMの視点のみならず、他のプレイヤーの視点からも同様だ。
GM :じゃあ、学校は海が見えるところが良さそうだね。席は海が見える窓際。
ほとり:いいですね。それらしい。
GM :ではそんな感じで。あとは行動指針……これはハンドアウトで『侵蝕者』という立ち位置が提示されているけど、それをどんな風に自分で解釈しているか、という感じで。
ほとり:アルシャードのキャラクターが完全に無知だと逆に違和感があるので、「一番マナの豊富な世界から、少しマナをもらっている」と言う認識はあって……ただそれがまさか奈落を呼び込む危険があるほどのリスクは把握していない。くらいにしたいと思います。
GM :了解。だいたいこちらの狙いに近いところで助かるよ。
ほとり:マナの深刻な欠乏が奈落を呼ぶまでは、一般的な知識じゃないはずなので、調整しました。
ハンドアウトは物語に対するGMからの要請でもある。
そのハンドアウトに一字一句まで従う必要は必ずしもないが、GMがどのような意図を持ってハンドアウトを提示しているかは確認した方が、物語がスムーズに動くだろう。
GM :では、あとは戦闘スタイルかな。
ほとり:戦闘スタイルは、弓使い(魔法)です。クロスボウを持って《アローキャスター》の特技で、攻撃魔法はもちろん、支援魔法の射程を伸ばしているキャラですね。
GM :支援魔法の射程は、ともすると攻撃魔法よりも頭を悩ませるからなあ。攻撃、回復、支援、どれもそつなくこなす優等生、という感じ。
ほとり:魔法によって矢を使い分けたりするのですよ。
GM :ダ●の大冒険初期のマ●ムを思い出す。あのグッズ好きだったんだけどなあ。
ほとり:魔弾銃ですね(笑)
GM :突如殴りタイプにクラスチェンジするのは熟慮の上でよろしく……(笑)
話題にしているキャラクターが、連載中突如僧侶から武闘家に転職してしまったのである。
TRPGにおいても成長中に突如方針変更をしたくなることはある。していけない理由はないが、自分のイメージと周囲とのバランスはきちんと考えよう。
……なお、話題のキャラクターはまさに周囲とのバランスからその道を選択したのだと補足しておく。
洋一 :こっちよりさらに射程が長いのか……思い切り分かれて戦うことになりそうな。
ほとり:【MP】豊富な事、《異界の魔力》で魔法のコストを軽減していることから、【MP】切れを起こしにくいエンチャンターに仕上がってます。行動値が遅いのも、状況を見て動く前提です(笑)
……データ的にはこんなところしか特徴はないですね。
GM :立ち位置としては、アタッカーのPC3に洋一のフォローを任せながら、射程外に避けて支援するような感じになりそうだね。洋一としては痛し痒しか(笑)
ほとり:以上、それではPC3、お願いします。
▼PC3 灰岡 覚醒 ”不朽のアイドル”
GM :よしなに。例によって名前とクラスあたりから。
プレイヤー3:コホン。
――嫌な予感がした。
プレイヤー3:「今日はキョンシー未来はミイラ、行き(息)着く先は…て息してない† こんばんワイト、皆さんごゾンビ! 次世代型即死系アンデッドアイドル†サトリちゃん・り・ぼーん!」
――予想以上だった。
ほとり:なんだかキャラ紹介するごとに世界が変わってませんか。
GM :仕様です。
洋一 :畜生、濃いっす……!
プレイヤー3:ということで名前は「灰岡覚醒」(はいおか・さとり)。享年十八歳。アタッカー1/サムライ1/ダークワン1で奈落種:アンデッドのゾンビ少女・兼・アイドル!
GM :肌の色は青白かったりするのですか。
プレイヤー3→覚醒:普通の人よりは白っぽいですね。普段はメイクとかで誤魔化してるかと。
GM :なるほど。基本的な外見は?
覚醒 :外見は肩口くらいまでのショートボブ、目鼻の整った凛々しい顔立ちの活発型お姉さま系。モデルとしても活動しているのでそこそこにタッパもあります。
GM :170cm手前くらい?
覚醒 :もうちょっと高い感じでしょうか。
ほとり:こちらがそんなに背が高くないロングヘアの設定なので、ヒロイン対比は整いますね。描き分けしやすそう(笑)
洋一 :じゃあ3cmくらい負けておこう(笑)
GM :結構あるね。その体格ゆえ……というにはちょっとタフすぎる気がするけど。なぁに、タフすぎてそんはない。
覚醒 :耐久力60ありますからね! この上<斬><刺>の防御修正も二ケタという。
ほとり:頑丈ですね。私の倍だ。
洋一 :同じくちょうど半分っす、しかもこっち防具ない(笑)
GM :初期のエネミーの攻撃が通じる気がまるでしないな……(笑) その恵まれた体格を活かして、アイドルとディフェンダーを務める、と。
ほとり:私とは逆で、徹底した接近戦型ですね。
覚醒 :アイドルとしてのキャラ付は肉体系ではないですけどね! 生前とある企業の謎の『教育プログラム』に則って育てられた孤児で、その一環で身体も結構鍛えていたと。
戦闘スタイルは《守りの剣》でディフェンダーが主なお仕事かと。攻撃も出来ますがそれ用の特技はタイミング常時のものしかないです(笑)。
GM :行動の選択肢が広いのは、ディフェンダーとしては優秀だよね。とくにこのパーティ、ほとりがかなり後ろの方にいる可能性があるし
しかしそんな生前ですら頑丈な彼女が敢えなく落命。なぜだ! ……はい、コネクションのNPC、覚醒が『守護者』をしていた相手のミスが原因の一つということでお願いしています。大丈夫かな?
覚醒 :はいはい。後に『侵蝕者』になる相手が追っていた奈落にやられたってことにしたいですが如何でしょうか。
GM :はい。『侵蝕者』はクエスターでなくても奈落などの神秘事件に対応することが求められていますからね。
その縁でサトリが『守護者』として、彼女と契約を結んだ。この相手については、ハンドアウトで提示します。
洋一 :その結果あんな愉快なアイドルに……(ほろり)
GM :さて、あとは性格と行動指針かな? アイドルとしての芸風は拝見したとして、本音のところと人生の目標的な。
覚醒 :性格は、生前のこともあるので実は真面目です。普段からアイドルとしてのキャラ付けに近い振る舞いをしますが、根っこのところは生前のままということで。
GM :ふむ、ありがとうございます。他の二人と違って、最初からクエスターとして活動していることを前提としているので、おちゃらけた雰囲気の中でも大人の視点を提示してくれることを期待しています。
GM :あとは何かあれば一言。なければGMに投げちゃって下さい(笑)
覚醒 :「次世代型即死系アンデッドアイドル†サトリちゃんを宜しくお願いスるケルトン!」 以上!
GM :くッ……(笑)
*舞台裏*
ほとり:ところで「即死系」なのに「り・ぼーん(再出産)」って、さりげなく矛盾してませんか(笑)
覚醒 :「『ファンのみんなと会うためにり・ぼーんしている』という設定なのデス†」
洋一 :毎回死んでは復活っすか……(笑)
GM :芸風の維持も大変だなあ(笑)
ちょっと勢いに飲まれつつも、気を取り直すGM。
そもそもこのキャンペーンは『現実に近い場所』、『魔女の世界』、そして『クエスターの世界』という三つの世界が相互に侵略するという作りで配置したつもりだったので、むしろこの勢いは望むべきものではあるわけで。
覚醒のプレイヤーの腕前と、自分の舵取りがうまくいくことに期待するとしよう。
GM :ありがとうございました。では、ここからはGMのターン。今回予告の提示です。
――『当たり前の日々』は続く。
朝起きて、学校に出かけて、授業を受けて、友達とバカをやって。楽しくも、どこか空疎な日々。
それが物足りないと感じていたのは確かだ。何かもっと熱くなれる、自分だけの何かが見つかるんじゃないかと、捜していたつもりだし、期待していたと思う。
――『閉ざされた日々』は続く。
使命を果たすため、嘘をついて、セカイから大切なものを盗み取る、侵略者の役目。
期待されているのはわかる。それをしなければならないこともわかる。だけど嘘で自分を塗り固めているうちに、どんどん自分のセカイが狭くなっているような気がする。
――だから。
――だから。
『当たり前の日々』が終わりを告げて。
『閉ざされた日々』の軛が砕けるのを。
僕たちは、ずっと心待ちにしていたのかもしれない。
それが、過去からずっと続く、二つのセカイに絡みついた、祝福と呪いの集大成。
その始まりであることなんて、まるで知りもしないで。
アルシャード・セイヴァー『ヴァルプルギスの侵略者たち 序章:二つの目覚め』
――そして、青き星と魔女の世界に、また奇跡が生まれる。
GM :それでは皆様、しばしの間、お付き合いをよろしくお願いいたします。
一同 :よろしくお願い致します!
さて、それでは、ゲームの始まりだ!