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第一章:ミドルフェイズ (2)記憶の迷宮

■ミドルフェイズ4 シーンPC:ほとり 登場:任意 難易度13


 レプラカーンが発した光に飲み込まれ、洋一、ほとり、覚醒の三人は意識を失った。

 浮遊感と失墜感をまとめてかき回した中に放り込まれているかのようだ。不可思議な感覚に翻弄されるほとりの耳に、洋一のあられもない悲鳴が聞こえた。覚醒の方は声は聞こえないが、なんとなく首回りに感じる圧迫感で、彼女も側にいることが感じられる。

 その声と圧迫感が、徐々に遠ざかっていく。どうやら、皆別々の場所に引き離されるようだとわかった。

 そして、一秒にも一時間にも感じられるような奇妙な時間感覚の果てに、ほとりは白い『どこか』に降り立った。


GM :気がつくと、そこは乳白色の世界だった。全方位が霧に覆われ、あやふやだけど確かに歩くことができる足場が、そこにある。

 ほとりの知識では、これはおそらく、レプラカーンが見せる幻惑世界、精神世界を切り取って作り出されるリーフワールドの一種であるとわかる。

 ただし、その規模は、本来レプラカーンが持っている能力をはるかに凌駕しているとも、わかる。

 ほとりは、そこに一人で佇んでいる。洋一も、覚醒も、しおのの姿も見当たらない。

ほとり:「なにも、見えない」霧についての知識を思い出します。「たしか、『レプラカーンの涙』?」

GM :では名称はそれで(笑)


 今そう決まった。


GM :ほとりの知識によれば、この世界は巻き込まれた知性体の記憶を繋ぎ合わせて作られている。そして、基本的には、距離の関係で、自分自身の記憶を再現するものになりやすい。

 というわけで……ここでは、過去の記憶を回想シーンのようにして一つ一つ見せつけられることになる。今回は、ほとりの両親についてのシーンとしたいと思う。

ほとり:はい。えーと……。


 レプラカーンという妖精の能力は知っている。記憶、認識、そして忘却。そういった心に関わる様々なことを操る恐ろしい妖精。魔女達が『ウィッチレルム』にやってくる以前からそこに存在していたと言われている。

 だから、『ウィッチレルム』の子供達は、彼らについて語る歌を伝えられている。彼らの気質と楽しさ、そして恐ろしさを伝える歌を。

「レプラカーンはさみしんぼう。だから一人じゃいられない、みんなを呼んでおおさわぎ。涙は真っ白霧のなか」

 記憶にある童謡を口ずさむ。

 それは両親の……病に倒れた両親が教えてくれた歌。

 その歌声に重ねるように、幻影迷宮が一つの像を映し出した。


GM :そうして、ほとりの目の前に両親の記憶が映し出される。まだ両親が健在だった頃の記憶だ。どんな両親だったろうか? 

ほとり:そうですね……おばさまと違って、形式がしっかりしているのが、少し苦手なお父さんで。お母さんがちゃんとしていると、時々窮屈じゃないかなってからかったりして。

GM :なるほど、では、空飛ぶ小舟でピクニックに行っているシーンとしよう。


 霧の中から、ほとりの口ずさむそれと、同じ旋律が聞こえた。その声には覚えがある。かつてほとりにその歌を教えてくれた人の声。

 霧の中に浮かび上がる、それは過去の記憶。黒い小舟に妖精の粉をかけて、母が船を浮かせ、父はほとりを抱いて童謡を口ずさんでいる。

 まだ手足も短くて。魔法もそんなに得意じゃなくて。お父さんに抱きついて、甘えん坊って笑われて。

「まだ魔女じゃないんだから、しょうがないのよ」と、懐かしい母が微笑んで窘めている。

 そんな、暖かくて懐かしい記憶。今は失われてしまったそれが、ほとりの膝から力を奪った。

 地面に膝を着いて、見ているのが辛くて頭を垂れて。しかし唇だけは歌を紡ぐ。 

「みんなを呼んでおおさわぎ。なみだは真っしろ、きりのなか……」

 父が口ずさむそれと、今のほとりが口ずさむそれが、重なって聞こえた。


GM :座り込んだほとりの周囲で、時が進む。気がつくと、周囲は炎に包まれている。


 それは、ほとりの記憶にある惨劇の光景。今のほとりを作り出した発端とも言える事件。

 理由はわからない。ある日突然、奈落に汚染された何かがあふれ出した。それに、ほとりと家族は巻き込まれ、そして両親は重度のマナ欠乏障害を負った。

 泣きながら両親にすがるほとりを庇うように、ヴァネッサが屹立する。周囲に迫る奈落を片っ端から撃ち落として、両親を引きずってその場から逃れさせようとしている。

 その時に負った傷によって、ヴァネッサは現役を退き、ヘクセンの役目に徹するようになったのだ。


ほとり:私はおばさまに助けてもらったのと、少しだけマナが多かったから、病気にはならなかった。でも、お父さんとお母さんは……。

GM :現在、両親は療養施設で療養を受けている、という扱いだったね。

 ……さて、そんな思い出から、奈落があふれてほとり自身にも襲いかかってくる。

ほとり:え?


 記憶の映像の中で、ヴァネッサとほとり、そしてほとりの両親を取り囲む奈落が、突如として膨れあがった。

 それは本来触れ得ざるはずの『現在のほとり』に伸び上がり、炎のように絡みつく。


ほとり:これは、奈落の悪意!?

GM :振り払うなら魔導判定で達成値を25。これは複数人で達成値を合計してもよい。失敗した場合、5Dの【MP】を消耗する。

ほとり:はい。

「……私は、ストランド・カニングフォーク。誇り高き、ウィッチレルムの魔女」

 そう呟きながら、脅威に対抗する魔導値判定をします。(ころころ)出目は8、18まで稼ぎました。

GM :よし、残り7だな。

洋一 :ふむ、助けに出られるか試してみる?

GM :どうぞ。消耗はシーンに登場してるPC全員に発生するから注意してね。目標値は13。

洋一 :それじゃ、ほとりちゃんへのコネクションで+2もらって……げ、出目3!


 もちろん判定は失敗である。


洋一 :く、この場面で失敗は辛いっしょ!?

覚醒 :むー、秘密の共有者を助けるために、サトリちゃんも登場判定挑戦しますよ。ええと、コネクションで+2で(ころころ……出目は合計12) ぐわー、1足りない……う、兎の足使います!


 兎の足は、登場判定を振り直すことができる。


覚醒 :よっちーと合わせて三度目の正直を! 登場判定!(ころころ)14!

GM :来た(笑) ではそこに颯爽登場覚醒ちゃん。

ほとり:これで足りるといいんですが……(笑)

覚醒 :サトリちゃんは魔導値5なのでファンブル以外で成功ですね。奈落に押され気味のほとりを見て「ほとりん!」と叫んで飛び込みます。魔導値判定てやー(ころころ)……問題なく12!

GM :では、あふれた奈落は斬り捨てられて、キミ達は、傷つきながらもほとりと両親を逃がすヴァネッサの背中を見送る。

覚醒 :「だいじょぶ、ほとりん?」と幻影を見送りながら……ってサトリちゃんにも見えるんだろうか?

GM :問題なく見えるよ。

ほとり:「覚醒さん、ありがとうございます。一人なら、押されてました」

覚醒 :「のーぷろぶ霊安室れーあんしーつ† サトリちゃんはほとりんの『守護者』だからね!」笑顔でブイサイン。

ほとり:「どこかに天野さんもいるはずです。なんとか探し出しましょう」

覚醒 :「そだね。よっちーと合流してあの子を助ける、という流れで!」


 そうして、合流したほとりと覚醒は、霧の迷宮を歩き出す――。



■ミドルフェイズ5 シーンPC:洋一 登場判定:目標値12


GM :さて、気がつくと、洋一は一人、霧の海の真ん中に放り出されていた。

 ほとりも覚醒も、もちろんレプラカーンもいない。誰もいない。あとランドマークの一つもない。

洋一 :「ほとりちゃん!? サトリちゃん!!? と言うかTTTもいねえ……ここどこだよっ!?」へっぴり腰でオロオロあっちこっち見回してる。

GM :しかしオロオロしているだけでは何も始まらない。何しろ洋一がオロオロしている時、ほとりは自分のトラウマと直面し、覚醒はそれを助けに飛び込んでいる最中だったからだ……(笑)

 ……もちろん、洋一にそれを知る由もなく。そんなわけで、洋一は霧の中をあてもなく彷徨うことになる。じっとしててもいいけど、そうすると相手の方から洋一に近づいてくる(笑)

洋一 :まあ、彷徨いましょう。迷子の鉄則は動くなだった気がするけど(笑)

GM :鉄則なんてくそくらえさ!(ダメです) というわけで彷徨っていると……


 洋一が霧の海をあてどなく彷徨っていると、その鼻孔を潮の香りが刺激した。

 霧の中にぽっかりと、どこかの埠頭の情景が見えてくる。


洋一 :「……海? っていうかようやく人が…」へっぴり腰で近づこう。

GM :そこには一人の子供と、一人のおっさん……年齢にして五十絡み、爺さんというほど老けていない感じの男性の背中が見える。どうやら、二人とも釣りをしているようだ。そしてそこで洋一は気がつく。その二人に、キミは見覚えがある。

 一人は、見覚えのあるジャケットを着ている。もう背丈が伸びて着られなくなったが、以前洋一が愛用していたものと同じ。そしてどこかで見たような顔の子供。

 もう一人は、なんとも趣味の微妙な、意匠化した太陽をでかでかと背中にプリントしたレジャージャケットを羽織った男性だ。顔立ちはどことなく洋一に似ている。

洋一 :「アレは……爺さん!? それにオレェッ!?」

GM :……そう、その通り(笑) 洋一の叔父さん、名前を天城太陽あまぎ たいようという。

洋一 :こっちに気づく様子は?

GM :二人は、洋一に気づく様子はない。洋一から触れることもできないので、おそらく幻覚か何かだろうと判断できる。

洋一 :「うん、やっぱりあれ爺さんっしょ、あの趣味の悪ぃジャケット……あれ、あれっ?」さわれなーい。

GM :ぺたぺた触ろうとする洋一をよそに、一緒に釣りをしているらしい洋一(小)と太陽は、何か話をしているようだ。

洋一 :「……?」耳を傾けてみる。


 それは、幼き日の思い出だった。

 いい歳だというのに子供のように笑う叔父の太陽は、当時の洋一と相性がよく、しばしばこうしてつるんで遊びに出かけていたのを覚えている。

 これはその日々の一幕。釣りに出かけた叔父と、一緒に出かけた洋一の思い出だった。

「てぇことは……これ、オレの思い出が見えてる?」

 推測ではあるが、ある種の確信があった。事前にレプラカーンから話を聞いていたからかもしれない。

 それは幼い日の、今も残るいくつかの楽しい記憶のひとつ。釣りの成果であったり、最近の遊びの話であったり。小さな洋一が次々と投げかける話題はとりとめがなく、そして現在の洋一の記憶にかすかにこびりついた内容でもある。

「あー、そうそう。イトコとか微妙に年上でポツンだったんすよねえ……」

 少し年が離れていたために、それぞれの従兄弟の顔色を伺ってついていくしかなくて。それがなんだかつまらなくて、視点がよく似ている叔父と遊ぶことが多かった、そんな記憶が蘇る。

「よし来たァ、もう一匹!! …………長靴かよ」

 幻影の叔父が、勢いよく竿を引き上げる。その頭にべちゃっと張り付くそれは、海藻を絡ませた古いゴム長靴の成れの果て。小さな洋一が、腹を抱えてケラケラと笑った。

 不機嫌の仏頂面を取り直すように、太陽が洋一に問いかけた。

「ところで洋一。そろそろクラスで特別仲良い友達とか、好きな子とかできたか?」

「……え、いや、その……」

 叔父の質問に、かつての洋一が口ごもる。

 その頃は、引っ込み思案でうまく友人の輪にも入れなかった。自分の場所をどうしても見出すことができなかった。

 では、今はどうだろうか。人の輪の中にいるのは得意だ。人の仲を取り持つのも苦手じゃない。だが、どこか、その輪の中にいるのに、少し遠くから輪を眺めているような、そんな感覚がある。

「そっかー。まったく、弟より俺に似てんのかね、お前」

 太陽が、竿を持っていない方の手で、幼い洋一の頭をわしわしと撫でる。

 現在の洋一が、自分の頭に触れて、その感触を思い出しながら。

「……あの頃と、大して変わってんのかなあ」

 幼い日とそっくりの仕草で、頬を引っ掻いた。


洋一 :小さなオレが答える。「ボクも……爺さんみたいになりたい。爺さん、凄く強いって」

GM :太陽「おー、強いぞ? 俺のデッキは百戦八十勝くらいだ!」当時流行っていたカードゲームのデッキを見せてケラケラ笑う。「俺もな。お前さんよりちょーっと大きいくらいの頃まで友達いなくてな。色々あったもんさ」

洋一 :洋一(小)「……どうしたら、爺さんみたいになれるの?」

GM :太陽「あ? どうやって変われたのかっていったら……そうだな、恋だ! 燃え上がるような恋をしてしまったのだ!! ……ちなみに相手は教育実習の先生な」

洋一 :「……?」オレと小さなオレが、二人してきょとんとする。

GM :太陽「あれがなー、とにかく厄介でなー。先生惚れました付き合ってください! って言うまでも大変でなー。有象無象のハードルの多かったこと多かったこと。……まあ、結局フラれたんだが、その時の経験が、俺様の強さに繋がった。たとえば――こんな言葉だ」


『胸の中で、本当の答えが見えたら。迷うな――――希望を捨てなければ道は開ける』

 過去の太陽と、現在の洋一の呟きが重なった。

 忘れかけていた言葉。しかし、かつての天野洋一という少年が、歩き出すための力となった言葉。

 そして、現在の洋一が、魔法使いとして目覚め、歩き出すための第一歩となった、大切な言葉だった。

 あの瞬間まで、長い間思い出すこともなかったのであるが――。

「……なんてな。実はこれ、先生の受け売りの俺風アレンジなんだが」

「なーんだ」

 けらけらと笑い合う過去の自分たちに、なんとなく口元を綻ばせた。

 

GM :さて、そこで太陽はポケットをまさぐり出す。

 太陽「だがまあ、そんな俺様の心の支えだったものを、お前にくれてやろう」

 と、太陽は小さなペンダントを一つ、洋一に手渡してくれた。

洋一 :洋一(小)「これ、ナニ?」

GM :「俺様の一番の御守りだ。お前がヤバくなったとき、少しは支えになるだろう」と、青い結晶体のペンダントを渡してくれる。

 今の洋一ならわかるんだが……これ、時空マントだね。

洋一 :「……へ?」今、持ってます?

GM :持ってるのをすっかり忘れていたけど、持ってる。

 ペンダントとして付けてるか、それともケータイのストラップにしてるとか、用途は任せる。それが可能なサイズってことで。

洋一 :「……え、爺さん、マジ何者っすかこれ」携帯のストラップをつまみ上げる。意識してみるとこう、中に見えるのは趣味の微妙な、意匠化した太陽をでかでかと背中にプリントしたレジャージャケット。

GM :いいのかそれで!(笑)

洋一 :寧ろこれで行くぜ(笑)

GM :いいけど(笑) ではそんな感じのものが入っているのがわかる。

洋一 :「ったく……マジ魔法使いだったらここ出る手段とか入れとけっツーの」嬉しそうにニヤけつつ、取り出して羽織ろう。

GM :では、何故か、記憶の中の太陽が、今の洋一に向けてにかっと笑ったような気がした。

 そしてそこで奈落の割り込みが入る。太陽が「おおっ、来たぞ来たぞ来たぞ、フィィィィィィィィィィィッシュ!!」と竿を思い切り引き上げて。


 ……サメが釣れた。


洋一 :「サメェェェェッ!? いやそんなもん釣った記憶は」

GM :サメは空中で糸を切り、まっすぐに洋一の方に向かって降ってくる。前回同様、魔導値で合計25の達成値を出すがよい!! 失敗すると痛い。

洋一 :「ちょ、ま、お―――――『ライジングフォース』っ!?」悲鳴半分でぶん殴ろう! 一応左手の魔法は外して……これで魔導値9だ。

GM :失敗時は5Dの【HP】ダメージを受けて戴きます。

洋一 :げー(ころころ)……達成値13。ぐしゃ。

覚醒 :わわ、ここで登場判定をします!

GM :登場判定、どうぞ。目標値は12です。ちなみに同行者宣言でまとめて登場も認めるよ。

覚醒 :登場判定てややー(ころころ)……8! 撃沈!!

ほとり:コネを考慮しても失敗ですね。ではこちらも(ころころ)……出目6で達成値10、私も出目が残念です……。

GM :ほとりさんほとりさん、コネクションあるから登場判定+2……(笑)

ほとり:そうでした! 今回は相互にコネクションがあるんでしたね。アルシャードのコネは、人間同士が引かれ合う要因も表現したりするので登場判定のルールにボーナスがあるんですよね。

覚醒 :クエスター同士は惹かれあうッ!

ほとり:そうなると+2でちょうど12。

覚醒 :では同行者宣言でほとりんと一緒に出ます。

GM :では登場成功。

ほとり:ではただちに魔導値判定します。……達成値19!

洋一 :「ウワァアタマガミッツニフエターーー!?」登場にも気づかず必死にウラウラしてます。

ほとり:では妖精の光をそちらに向かわせます!

GM :どうぞ! そして頭が増えたならこう、『ライジングフォース』が右手で頭1、左手で頭2をがしっと掴んで押し戻そうとしたものの、頭3に”はーーぷ”と囓られかけたところに、ほとりの「妖精光球」が炸裂!

ほとり:すぱーんと光が炸裂したあとに、鏃のない矢が一本落ちているのです。

洋一 :「うわ噛み付かれ……ほとりちゃんっ!?」

GM :吹き飛ばされたトリプルヘッドシャーク的な何かは虚空に消え、そして埠頭の光景も一緒に消えてしまっていた。

洋一 :後に残されたのは、ださい太陽ジャケット羽織った俺一人、と。

覚醒 :「セイヤー! ソイヤー! ……あれ、終わってた?」掛け声とともに飛び込んで来て、状況認識後ぽかんと。

洋一 :「え、あ、消えた……? あ、いや、助かったっしょ二人共」

ほとり:「大丈夫ですか、天野さん……その、ジャケットはどうなさったんですか」

洋一 :「あー……プレゼントされてたのに気づいた、かな」嬉しそうに。

GM :ああ、ちなみにほとりが見るとわかるが、洋一のジャケット、ところどころにルーン文字が書き込まれてるね。『ウィッチレルム』様式に近い。「太陽」と「イチイの樹」のルーンだ。

ほとり:「たぶん、この文様、魔術文字です……かなり強い魔力がこもっているみたいですよ」

洋一 :爺さん何者なんだ。

ほとり:「シンボルとなっているのは太陽とイチイ。もし『ウィッチレルム』で買うにしても、オーダーメイドになると思います。覚醒さん。こう言うものは、こちらでも売ってるんですか?」

覚醒 :「うーん、あるところにはあるけど、こんな形のは初めて見たかなあ。よっちーのおじさんって一体……」

洋一 :「……モノ仕舞えるお守りに……ますます爺さんが分かんなくなってきたっしょ」うへぇ。

GM :というわけでシーンも長引いたし、かくかくしかじかで説明をしつつ、次の行動に移ったとしておこうか。シーンエンド!


 このジャケットの演出は、オープニングでマジックローブの来歴に悩んでいた洋一の要望に添って、GMが背景設定に絡めて提示したものだ。

 こういう演出の提示にPLが乗ってくれると、GMはとても楽しい。これがGMをやっているときの醍醐味の一つと言えるだろう。



■ミドルフェイズ6 シーンPC:覚醒  登場:自動・任意


GM :さて、キミ達は合流し、状況を整理する。

 まず、ほとり。現状……つまりは『レプラカーンの幻影迷宮』についての知識を確認しておこう。これは【情報収集:異世界(理知):12】として判定を行ってもらいたい。

 これは、一応便宜上他の二人も判定していい。知っているのはほとりだけど、状況分析の補足をした、という形で。

ほとり:はい。素直に私の得意分野なのでこのまま判定してしまいます。……6ゾロ、クリティカルしました。

GM :わお(笑) では状況分析として、以下の状況がわかる。


 レプラカーンの幻覚魔法にアビスシードの魔力が合わさって作り出された異空間。一種の結界であり、この範囲内では結界を新たに張ることはできない。

 この空間内では取り込まれた者の記憶が具現化することがあり、これが奈落の影響によって歪められて取り込まれた人間を襲うことがある。


 レプラカーンは可能な限り古い記憶に身を隠そうとする習性があり、これを発見して取り押さえることにより、迷宮を解除することができる。

 なお、その際に巻き込まれた一般人も同時に解放される。

 迷宮内での移動は、目的地を指定した後に、登場判定を行い成功することで移動を行う。この登場判定は、多様な記憶が入り交じった状態であればあるほど複雑化し、難易度が上がる。

 失敗した場合、あらぬ場所に移動することになる。

 初期目標値は、13である。


GM :現在は目標値は11にまで落ちています。

覚醒 :登場判定に成功するごとに1ずつ下がってる、ということですか。

洋一 :別の記憶シーンを見る度に下がってるのかな。

ほとり:いろんな記憶を開封していくと、レプラカーンにたどり着けるのですね。

GM :そういうこと。現時点ではレプラカーンそのものへの到達には、記憶が雑多すぎて判定を行うことができない。というわけで、現状ではまず足を使ってなるべく過去に逆行し、この幻惑迷宮をシンプルにしていく必要がある。

 目的地の指定は、「●●の過去に向かう」とキャラクターを指定すればいい。とくに目的がない場合、行き先はランダムとなる。

洋一 :まず覚醒かな(笑)

覚醒 :「多分、サトリちゃんの記憶とか、見てもアンマリ面白いものじゃないと思うんだけどナァ」と言いながらたははと笑いますね。

GM :普通に過去を目指すだけなら、目標値は11。自分の記憶はコネクションがあるものとして、達成値に+2をしてよい。

覚醒 :了解です……13。成功。「まあ、潜らなきゃ先に進めないなら潜るしかないよね!」ずびしっと謎ポーズ!

洋一 :「あ、えーっと……目とか耳とか塞いだほうがよさげ?」

覚醒 :「別に見られて困るよーなものではないけど、見たくなくなったらそうしてー」

GM :では、しばらく進んでいくと、急に周囲が暗くなる。真夜中だ。


 それは、覚醒の記憶。日本の地方都市のどこかの山奥の研究施設。そこに、武装した覚醒とその仲間たちが向かっている。

 黒い戦闘服を纏ったその一団は……覚醒がクエスターに目覚める以前所属していたものだ。


覚醒 :「……いきなりコレかー」とちょっと苦笑するように。

GM :その装備と光景からわかる。これは、覚醒が仲間と行動した最後の記憶。

 ――生きている人間としての、最後の数分間の記憶だ。

 覚醒はこのとき、詳しい事情は聞かされていなかった。ただ、対抗組織であるTANATOSの一部門が研究する施設を襲撃し、その成果物を奪取する、というミッションを負っていた。

 同行していたのは、覚醒同様「プログラム」と呼ばれる育成課程を育った少年兵士達。覚醒としては顔見知りで、歪ながらも気の許せる仲間達だったことだろう。

覚醒 :ですね。とはいえ競争相手ではあったので、いざとなったら寝首をかいたりかかれたりするという仲ではありました。実にサツバツ。

GM :ふむ、ではそれを拾おう。

 ……その時のリーダーは、年長の少年だった。彼が先頭に立って施設の周囲を警戒していたのだが。

 かつての覚醒の視界内で、サブリーダーであった別の少年が、勝手にメインゲートに手をかけた。

覚醒 :「!? 何を……!」と幻影の覚醒が反応する。

GM :リーダーに先んじて、成果を上げようという野心故のこと。子供らしい視野の狭さ故のことだったろうが、ともかくサブリーダーは「大丈夫、警戒しすぎなんだよ。.……行くぞ」と奥に進んでいく。覚醒はついていっただろうか?

覚醒 :「……警戒はし過ぎて損はないと思うのだけれど」と言いながらもついていきますね。いざとなれば彼を囮にして逃げることも視野に入れて。

GM :では、ついていったところで、通信機からコールが入る。「おい、何やってる、戻れ! 撤収命令だ!! 早く……」

覚醒 :「(敵地で安易に通信なんて……? 様子が……おかしい?)」

GM :その直後、施設の奥から、加護≪アンリ・マンユ≫が発動する。

覚醒 :げぇっ、この世の全ての悪!?


 拡張加護≪アンリ・マンユ≫。この効果を受けた対象は、シナリオ終了までに対抗加護≪アフラマズダ≫によって打ち消されなければ、シナリオ終了時に死亡する。

 ここでは、覚醒とその仲間が見舞われた「絶対に回避不能な死」を表現するために使用している。


GM :対象はサブリーダーと、その周辺にいた隊員全員。クエスターでない覚醒たちに、これを抑えるすべはなく、瞬時に死亡する。

覚醒 :「なん―――」と呻こうとしてそのまま加護に飲まれます。

GM :では、そこでリアルPC組。知覚判定をどうぞ。失敗すると避け損ね、奈落の余波を浴びて次の戦闘シーンに【邪毒3】を受けて開始することになる。目標値は11。

ほとり:これは辛いですね。(ころころ)……私は成功です。


 ちなみに【邪毒3】というものはルールに定義されていないが、クリンナッププロセスに末尾の数字分のダイスを振り、その値だけ【HP】を失うバッドステータスとして処理している。

 判定の結果、洋一と覚醒が失敗した。


洋一 :大失敗!!

覚醒 :こっちも飲まれたー!

洋一 :んー。さとりちゃんに≪リトライ≫? 洋一は極論あんま殴られんし。

ほとり:いえ。悩ましいですが【HP】が低い事を考慮して洋一さんに投げます。極端な話、私が成功したと言うことは、私のメインプロセス《キュア》でいい。と言う事ですし。

洋一 :サンキュ! (ころころ……)


 しかし出目は5で失敗、ダイスは無情だった。


洋一 :ゴメン(げしょ

ほとり:仕方ないですよ。

覚醒 :ダイス目は時の運ですからねえ……。

GM :出目はしょうがないな。溢れる奈落の瘴気にあてられて、濃厚な不快感が胃の下あたりにわだかまる。

洋一 :「ちょ、こっちにも……!?」巻き込まれる。

覚醒 :せめて演出として、サトリちゃんは過去の自分を薄く微笑みながらずーっと見てる。瘴気の奔流に飲まれても邪毒にまみれても微動だにせずずーっと見てる、という感じで。

洋一 :「ぐむ、うえっぷ……さ、サトリちゃん!? 逃げ……おえっ」顔真っ青で吐き気を堪える。

ほとり:「奈落の瘴気……!」

GM :では、そこで全員の視界にノイズが入る。


 視界を埋め尽くすノイズ。それが晴れた後、そこは研究施設の内部だった。

 傷一つないままに、しかし生命の痕跡すらない密室に、覚醒と、その仲間達の骸が横たわっている。

 その空間に、光が差し込んだ。開かれた扉から、退路の確保をしていて一人生き残ったリーダーが、誰かの肩を借りながら入ってくる。

 リーダーも奈落の侵食を受け、思うように身体が動かない。

 そしてそれに肩を貸していた誰か……おさげの少女が、膝を突いて嗚咽した。

「間に合わなかった……ごめんなさい、ごめん……!!」

 ライムグリーンのおさげが、嗚咽とともに繰り返し揺れている。


ほとり:「ジュライ・シオノさん……?」

覚醒 :「……」今のサトリが微笑みと共にそれを見つめている。

GM :奈落の影響で朽ちることもなく保管されていた覚醒の肉体がシャードを得るのは、この後しばらく過ぎてからということになる。

 ただ、そうだな。覚醒。【知覚】判定で10を振って貰おうか。他のメンバーは12で。

覚醒 :何でしょう……(ころころ)14! こういう時は出目が良い……。

GM :ふむ、では覚醒は気づいた。当然と言えば当然なんだが、こんな光景に見覚えはない。だってキミ、この段階で死んでたし。

覚醒 :ですね。絶賛死亡中ですね。

洋一 :つまり別の人の記憶が混じってる?

ほとり:そもそも覚醒さんの記憶だと思い込んでいるだけで、他の人の記憶、と言う可能性も。

GM :その可能性も充分にあるね。今はどちらなのか判然としないけれど。

覚醒 :ふむ……。

GM :このシーンの演出はこんなところだ。ちなみに、この奈落解放の原因は今をもってもはっきりしないが、TANATOSが研究していた奈落を、サブリーダーが勝手に触れて開封してしまったせいではないか、と考えられている。

覚醒 :まあ、当時は神秘側の人間ではなかったので、詳しいことは分からずじまいでしょう、サトリちゃん的には。

GM :ふむ、というわけで、再生を追えた映像は霧の中に消えていく。何か言うことがあればどうぞ。

覚醒 :では霧の中に消えていく『過去の覚醒』を見ながら、『今のサトリ』がその時を回想します。


 命が終わったあの瞬間、不思議なくらいに苦しみがなかったのを覚えている。

 ただ、自分が死ぬのだと、自分という生命がここで終わるのだということだけは、妙に明晰に理解できた。

 そんな冷静に現状を分析する自分と、まるで話に聞く断末魔の走馬燈のように、過去の記憶を遡る自分がいたことも、はっきり覚えている。

 その最後の瞬間に思い出していたのが、『誰か』の言葉であったということも。

 それを言ったのがかつての『仲間』であったのは確かだが、それが誰だったのか、その後どうなったのか、ということは全く覚えていない。だが、その言葉だけは、覚醒の片隅にずっと残っていた。

 過酷な訓練と任務を繰り返す、自由とは程遠い環境の中で、絶望に押し潰される者も多い中でふと、誰かが口にしたその言葉。

『生きていれば、きっと良いことがある』

 覚醒はこと切れる瞬間、この言葉を思い出し、そして自嘲気味に思っていた。

『良いことなんて、結局何もなかった』と。

 そして、その言葉を遺言のようにして、かつての覚醒の意識は闇に沈んだ。


覚醒 :――そして、そんなことを思い出して、現在のサトリちゃんがふっと笑います。

「……まさか、死んでから良いことがあるなんて、思わないからね」

 一言、そう呟いて、幻影に背を向けて歩き出します。

GM :ではシーンを終了しよう。 

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