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 立ちはだかる魔物の頭へと、僕は剣を振りおろした。

 この辛い作業も、もうすぐ終わる。

 長い旅の末、僕は遂に魔法使いの居る塔へと辿り着いたのだ。


 ここまで来れたのは僕一人。

 僕と同じく不老不死になった仲間は、何度も味わう死の痛みと苦しみに、その精神が壊れてしまった。


「残念だけど、あの子の心はもう治らないわね」


 それが、仲間の様子を見た魔女さんの言葉だった。

 お気に入りの玩具が壊れてしまったかのように、つまらなさそうな顔をする魔女さん。


「坊やは、そう簡単に壊れないでよね?」


 そう言い残して、魔女さんはまたもや消えてしまった。

 仲間の事は気掛かりだったけど、僕は迷いを振り切り先へと進んだ。

 それこそが、仲間達の願いだと信じて。


 


 次々と現れる魔物を、苦戦しながらも倒していく。

 たび重なる戦いで傷を負っても、僕の身体はすぐに治った。

 だけど、心はそうはいかない。

 自分の身体に走る痛みと、殺生をする苦しさに、僕の心はボロボロになっていた。

 それでも今、止まる事は出来ない。

 あと少しだと、自分の心を叱咤(しった)しつつ、僕は階段を駆け上がる。


 階段を上った先、一際大きな部屋へと、僕は辿り着いた。

 そこで僕を待ち受けていたのは大きな竜。

 竜は僕の事を見つけると、その大きな口から炎を吐き出した。

 僕の全身を、炎が包む。

 炎は僕の皮膚だけでなく、身体の内側をも燃やし尽くす。

 激しい熱さと痛みに、思わず悲鳴を上げるけど、喉も焼かれてしまっている僕の身体からは、声は出なかった。

 普通であれば、すでに絶命し、楽になっている事だろう。

 だけど僕の身体は焼かれてもすぐに再生し、また焼かれる事を繰り返す。

 永遠に続く、灼熱の地獄。

 心が壊れてしまえば、楽になれるとも思った。

 けれど、ここまでの道のりが、倒れていった仲間達の無念が、僕の身体を突き動かす。

 炎に全身を焼かれながらも、僕は少しずつ前へと進む。

 燃え尽きずに進む僕の姿に、竜が怯んだようだ。

 炎の勢いが、一瞬弱まる。

 その瞬間、僕は竜の懐へと飛び込み、竜の口へと剣を突き出す。

 剣は竜の口内を突き破り、そのまま頭を貫いていった。

 大きな地響きと共に、竜の巨体が沈む。

 竜の死を確認した僕は、大きな息を吐くと共に、その場へとへたり込んでしまう。

 何度も死ぬような目に遭っているとはいえ、さすがに焼かれるのは初めてだった。

 出来ればもう二度と味わいたくはないものだ。




 少し休んでから先へと進もうとした、その時、


「見事なものだな」


 僕の耳へと、陰鬱な声が響く。

 慌てて声のする方を見ると、そこには紫のローブに身を包んだ男の姿が。


「……貴方が、王女様に呪いを掛けた魔法使いですか?」

「如何にも」


 僕の質問を、男が肯定する。

 急いで立ち上がり、僕は剣を構える。

 だけど、男は戦う意志を見せなかった。


「私は戦闘向きの魔法使いではないのでね。それに、不老不死の相手を倒す術を、私は知らない」


 そう言って男は肩を(すく)めた。

 男に戦う意志がないと知った僕は、聞きたかった事を男へと問いかける。


「どうして王女様に呪いを?」


 全ての元凶である、その行為。

 それさえなければ、皆が死ぬ事も、悲しむ事も無かっただろう。

 だから僕は、その理由が知りたかった。

 だけど男は、首を横へと振るだけだった。


「それを知ってどうするのだ? 私に正当な理由があれば、キミは私を許せるのか?」

「それは……」


 男を許す事は出来ないだろう。

 この男のせいで、皆が死んだのだから。


「それでいい。私はキミにとって、ただの悪い魔法使いだ。それ以上の理由はいらないだろう?」


 男は、どうあっても理由を話す気は無いようだった。


「呪いを解いては貰えませんか?」

「私が死ねば、解けるだろうさ」


 僕の言葉を、男はせせら笑った。

 僕は唇を噛み締め、男へと近付く。


「最後に、キミに良い事を教えよう」


 死を目の前にしているというのに、魔法使いの男は悠然としていた。


「私は、私を殺した相手に復習する為に、ある呪いを自分の身体に掛けている」


 剣を手に、僕はゆっくりと、男へと向かい歩いていく。


「私を殺した者の血肉を、死ぬまで腐らせる呪いだ」


 歩いていた足が止まる。


「不老不死のキミがこの呪いを受けたら、どうなるかね?」


 ニヤリと、愉快そうに笑う魔術師の男。

 僕は剣を横へと振るい、その首を刎ねた。


「そんなものは、この身体になった時から覚悟してますよ」


 そして僕の身体は腐り始めた。

 あまりの激痛と、肉の溶ける不快さに、僕は意識を失うのだった。



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