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僕達は大臣さんの許可を得て、魔女のいる森へと旅立った。
森へと行くのは、僕を含めて十二人。
僕と同じ年頃の、少年兵ばかりだ。
森へと向かう旅路も、安全なものではなかった。
三人が、魔物との戦いで命を落とし、重傷を負った一人と、途中の街で別れた。
それでも残った僕達八人は、何とか魔女の住む家へと辿り着く事が出来たのだ。
「成程ねぇ……」
僕達の話を聞いた女の人が、顎に手を当て、何かを考えるようなしぐさをする。
この人が、この森に住む魔女だそうだ。
「話は分かったわぁ」
そう言って、女の人はニッコリと笑う。
その表情に、僕らの顔も明るくなったのだけど、
「けど、お断りよ」
その言葉に、僕らは絶望に突き落とされる。
「そんな!? どうしてですか!?」
たまらず僕は問いかけた。
「だって、他人が掛けた呪いを解くのって大変なのよぉ? それこそ、坊や達の国がやっているように、掛けた本人を倒す方が、手っ取り早いわ」
魔女の言葉に、僕らは唇を噛み締める。
どうやら彼女に呪いを解いて貰うのは無理そうだ。
「だったら……魔法使いを倒すのに協力して下さい!」
仲間の一人が、悲痛な声で魔女へと懇願する。
「それこそ嫌よ。何で私が、そんな面倒な事に協力してあげなきゃいけないの?」
取り付く島もない、否定の言葉。
それでも、僕達は諦められなかった。
「お願いします! どうか……!!」
皆で必死になって、頭を下げる。
ここに来るまでにも、仲間が犠牲になったのだ。
その犠牲を無駄にはしたくない。
「ん~……いいわねぇ」
僕らの必死の形相に、魔女が楽しそうな笑みを漏らす。
「坊や達の必死な顔は、ゾクゾクするわねぇ」
魔女の嗜虐的な笑みに、僕達はゾッとする。
どうやらこの魔女は、困った性格のようだ。
「まぁ、暇潰しにはいいかもしれないわね」
そう言って魔女が、パチンと指を鳴らす。
何をするのかと思ったその時、僕らの目の前に、どこからともなく、怪しげな液体の入った杯が現れた。
数は、僕らと同じ八つ。
「これはねぇ、不老不死の呪いが掛かった水よ」
杯の一つを手に取って、魔女が説明する。
「これを飲めば、坊や達は剣で斬られようが、槍で突かれようが死ななくなる」
魔女の説明に、皆がどよめく。
それが本当なら、僕達でも魔物と戦えるようになるだろう。
何せ、死ぬ事がないのだから。
「ただし、精神はそうはいかないわ。死ぬような痛みや苦しみに、坊や達の心は耐えられるかしら」
皆が、それぞれの杯へと伸ばしていた手が止まる。
この水を飲めば、死ぬ事はなくなる。
その代わり、死ぬような苦しみを何度も味わう羽目になるのだという。
「それでも……!」
覚悟を決めた仲間の一人が、目の前の杯を一気に飲み干した。
僕らもそれに続こうと、それぞれ手を伸ばしたのだけど、
「ぐっ……ぐぅぅっ……!!」
杯を飲んだ仲間が、苦しげにもがき始め、その場へと倒れる。
「おい! どうした!?」
近くにいた仲間が、彼の様子を確かめるけど……、
「ダメだ……死んでる」
その言葉に愕然とし、僕らは一斉に魔女を睨みつけた。
「騙したのか!」
何人かの仲間が、剣を抜き放つ。
「不老不死の恩恵を得ようというのよ? そう簡単に手に入る訳がないじゃない」
それでも魔女は、臆する事なく悠然と笑う。
「その水は不老不死の呪いを掛ける物でもあり、同時に劇薬でもあるの。耐えられなかった者は、そこに倒れた坊やと同じ目に遭うわ」
倒れている仲間へと、皆の視線が集まる。
「さぁ、どうするの? 諦めて帰る?」
僕達の苦悩する顔を、魔女は愉快そうに眺める。
人の苦しむ様子が、魔女には大層楽しいらしい。
「どうすればいいんだ……」
誰かから、苦悶の声が漏れる。
僕達は散々悩んだ末、杯を飲む事にした。
これを飲まなければ、僕らに出来る事など無いのだから。
「いいか皆。生き残った者が、王女様の呪いを解くんだぞ」
仲間の言葉に、皆が頷く。
そして一斉に杯をあおった。
「ううっ……!!」
身体の中を、鋭い針で突き刺されるような痛みが襲う。
周りを見てみれば、僕と同じように、皆が苦しんでいた。
「いいわねぇ坊や達、本当に面白いわぁ」
そんな魔女の言葉を聞いたのを最後に、僕の意識は暗闇へと沈んだ。
僕が目を覚ました時、周りには仲間達が横たわっていた。
無事に薬に耐えられたのは僕と、もう一人だけ。
他の仲間達が目を覚ます事は、二度となかった……。