ぼく
目が覚めた。カーテンから差す陽光の中、キラキラと光る綺麗な何か。ふーっと息を吹きかけると楽しそうに踊っている。なんだか楽しくなってきた。布団を跳ね除け起き上がる。
そうだ。今日はお父さんとお母さんと一緒に遊びに行く日だ。
部屋を飛び出し、走ってお父さんとお母さんの所に向かう。ひんやりとした空気。明かりのない食卓。卓上には透明な紙で覆ったお皿が置いてあった。
そっか。
お皿をレンジの中に入れ、あたためと書いてあるボタンを押す。二分もすればチンと音がなる。レンジから取り出して透明な紙を剥ぎ取る。
いただきます。
お母さんが作ってくれたケチャップライス。僕は箸が上手く使えないからスプーンで食べる。暖かくて美味しいのになんだか物足りない。お皿を水に漬けてから着替える。
今日は公園に行こう。
僕はお父さんから貰った鍵を首から下げて家を出る。ドアをきちんと閉めて鍵を掛ける。お父さんはいつも鍵を掛けるのを忘れてお母さんに怒られてる。僕はきちんと鍵をかける。それがなんだか嬉しい。
てくてくてく。
狭い道を歩く。車が来ると轢かれそうで怖い。
公園が見えてきた。ぐるぐるに巻きつけられたブランコ。砂のない砂場。柵が敷かれたジャングルジム。撤去された滑り台。傾かないシーソー。僕以外に誰もいない。
そうだ。森で虫取りをしよう。
来た道を引き返し、森に向かう。
てくてくてく。
森の入口にはフェンスが敷かれ、上の部分にはぐるぐるしたとげとげがあった。なんだか怖い。
そうだ。おばあちゃんの家に行こう。
川に沿って、てくてくてく。橋を渡って、てくてくてく。
おばあちゃんちはすぐそこだ。扉をガラガラガラと開ける。
おばあちゃん。来たよ。
いつもと違う匂いがする。少しだけ煙たい。
家に上がり込むと何かが聞こえる。それは聞き覚えのある声だった。
ごめんなさい。
そう聞こえた。誰の声だっけ。
怖くなった僕はばあちゃんの家を飛び出した。ここにいたくない。
そうだ。帰ろう。僕のおうちに帰ろう。
僕のおうち、どこだっけ。