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ゴースト・21

 赤い円卓の上には、ターンテーブルが乗っている。その上に乗っているのは、多種多様な中華料理だ。

 蒸籠で湯気を立てる饅頭。溶岩のように赤黒く、どろりとした麻婆豆腐。黄金色に輝く山のような炒飯。透き通っていながら多重の色合いを持ち、周囲に食欲をそそる匂いを放つ青湯。

 円卓を囲んでいるのは、三人。

 ラティファ・ユーテンシル。アーデルベルト・ワイズマン。三条 崇仁。ライブラ・セキュリティ・コントラクトの三人が、思い思いの中華料理を手にとっている。

 ここはラティファ達が滞在しているホテル内中華料理屋。夕食を奢るとワイズマンに言われたので、ラティファと崇仁ここに呼び出された。

 ラティファが口にしているのは、ワンタンスープだ。透き通った琥珀色のスープを掬い、複雑な旨みを舌の上で転がしながら、つるりとした平たいワンタンを口に運ぶ。ワンタンは海老ワンタンであり、中に獣肉を使っていないことは確認済みだ。

 口に運んだ、火傷しそうなワンタンを噛もうとして、ラティファは驚いた。

「む……」

 口の中でワンタンがつるりと滑り、噛むよりも先に飲み込んでしまった。暑い塊が喉を通って行く。

「美味いワンタンは飲み物だからな」

「どこぞの、蕎麦を飲み物だって言って、噛まずに飲んでた文豪じゃねぇんだぜ」

 饅頭を手にしながら、崇仁はワイズマンに向かって言う。

 確かに、このつるりとした喉越しは飲み物のそれのようだ。薄い生地と、あえて量を少なくしてあるタネもそれを前提にしてあるようだ。

 口当たりも非常に良く、スープの旨味と相まって、いくらでも食べることが出来そうだ。

「そんな事よりも、何のためにこんなところに私達を呼んだんだ?」

「そこは俺も気になってたところだな」

 崇仁の問いに、ワイズマンは答える。

「正直なところ、こっちの調査が完全に行き詰ってな。実際にニコライ・レザノフ達、グラビーチェリと戦ったお前達の感触を聞いて見たくてな」

「感触か……」

 そう言われて、ラティファは思い返す。ニコライ・レザノフという男と戦ったことを。

「あの男は強い。その強さには、何か根のようなものがある。私にはそう思える」

「さっきもそんな事を言ってたな、そう言えば」

「根、ねぇ……」

 ワイズマンはそう呟く。

「ああ」

 頷くラティファにワイズマンは問う。

「その根が有る奴が、どんな目的でこんな行動をとっているのか……」

「別に、何だっていいじゃねぇか。目的なんざ分かっても分からなくても、やることは同じなんだから」

 崇仁の言にも理はある、とラティファは思う。

 自分達のすることはエーテルギアを用いた戦闘行為であり、それ以外の何者でもない。そしてそれは依頼によって為され、対価として報酬を得る。そういう存在である以上、戦闘を戦闘以上の何かとして見ないというのも、何も間違っては居ないだろう。

 ラティファはそう思わないというだけの話だ。

 崇仁は続ける。

「実際、あいつらの行動なんて考えるだけ無駄だろ。ただ単に、コロニーぶっ壊したかっただけなんじゃねぇの」

「私はそうは思わないがな」

 確かに、グラビーチェリはコロニーに僅かな損傷を与えたこととエーテルギア数機を破壊したこと以外、これといった結果を出していない。それを、自分達ライブラ・セキュリティ・コントラクトとPMCボリショイ・シチートの努力の結果だとは、言い切れないだろう。それにしては不自然な退却などもあった。

 だからと言って、こんなエーテルギアを用いた嫌がらせじみた事だけが目的であるとは到底思えない。

 ――何か目的はある。

 そう思わずには居られないのは、二度の戦闘であの男の強さに触れたからであろうか。

「壊されたのは発電プラント部分だったな」

「そうだ。今も急速に修復が行われている筈だ」

 ワイズマンの疑問に、ラティファが答える。

「発電プラントっていうのもな。確かにインフラ基盤の中うような部分を占めてはいるが、予備電源もあるし、火急に危険になったりするわけじゃねぇ。狙ってやったんだとしたら、嫌がらせにしかならねぇよ」

 言いながら、崇仁は饅頭を頬張る。

 その通りだった。ジムリアー連邦の受けたダメージは、はっきり言って小さい。元々の政情不安があったにも関わらず、エーテルギアによるテロ攻撃を受けているにしては、コロニーからの脱出者が少ない。

 恐らくは、自分達の危機敵状況に実感が薄いのだろう。攻撃を受けているにも関わらず、一時的に電力供給に不備があった程度で済んでいる所為だ。

「それら全てが予定通りで、尚且つ何か裏の目的があるとしたら――それはなんだ」

 ワイズマンは静かに自問した。

 その問いを、ラティファは己の中で繰り返してみる。

 破壊工作が目的であり、それによる何かが真の目的であるとするならば――

 ――分からない。

 ラティファは首を振る。

「全ては失われたもののため……」

「ん? なんだそりゃ」

 崇仁が問う。

「そう言っていたんだよ。ニコライ・レザノフが、戦闘中に」

「全ては失われたもののため……」

 そう呟いたワイズマンは、急に表情を変えて立ち上がった。

 そして、低い声が響き始めた。

「……ワイズマン?」

「どうした、おい」

 ラティファ達の視線に構わず、ワイズマンは声を響かせる。

 それは笑いだった。

「なるほど、そこがスタート地点か。なら、返すというのはそういう事で、全てはそういう事か」

 笑いながら、ワイズマンは席から離れようとする。

「お、おいワイズマン!」

「心配するな、ちゃんと勘定は済ませておく。ただ、ちょっとそれどころじゃなくなりそうなんでな」

 ラティファにそう返すと、ワイズマンは一人中華料理屋から出ていった。

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