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ゴースト・11

 水分を含んだ白髪を振りながら、ラティファは部屋を出た。ノーマルスーツから普段着――白いシャツにジーンズという格好に着替えるついでに、シャワーを浴びたのだ。仕事の関係で先はスーツを着たが、あれはラティファの身体にはどうにもしっくり来ない。

 ――要するに、根っからの肉体労働者ブルーカラーだということなのだろうな。

 そう思いながら、咥えたゴムを手に取り、髪を纏め、通路を歩き出す。国籍によって様々な都市計画があり、それによって様々な姿を見せる。しかしこう行った、ドッグと都市との間のような場所は、何処も同じだ。

 冷たい臭がする。無機の臭いだ。チューブのような構造の通路は、カーボンや金属、プラスチックといった、建築に使ったマテリアルがそのままの姿、機構を剥き出しにして姿をみせている。

 ――システムに囲まれている。

 そう感じながら、ラティファは通路を歩く。

 飾り気の無い通路は、その事実を文字通り包み隠すこと無くさらけ出している。コロニー生活は、そうした人工物とシステムによって成り立っている。

 自然か不自然かというと、不自然だということになるのだろう。完全なる人工物によって管理された居住空間。雨は降るが、そのスケジュールは秒単位で管理されている。

 しかし、その不自然に関して、ラティファは奇妙なものを感じざるをえない。

 ――別に不自然ではない、気がする。

 人工物に囲まれて生活することを不自然だと認識するのは、そう有るべきだという情報、知識をラティファが得ているからに過ぎない。それはラティファが生活の中で得た感覚ではない。

 ラティファは地球に降りたことがない。人工物の揺篭から出て生活したことはない。

 ――だから、だろうか。

 このような、飾り気を排した環境の方が、ラティファにはよく馴染む。コロニー内の生活区域には、草木が生え、緑が見られる。

 それは見せかけで、マスキングされた有り様だ。

 不自然、なのだ。

 コロニーの本来あるべき姿は、この通路のようにシステムが働き、人工物で構成されている事を隠さないものなのかもしれない。

 ――と、言うのは私の本心ではないのかもしれないが。

 ラティファがこのような無機質で人工的な光景を不自然に思わないのは、ただ単にどこのコロニーでも同じ印象だから、というだけなのかもしれない。

 どのコロニーも、基本的に国籍に則った都市デザインを為されている。それは大概の場合、地球にある本国よりも分かりやすく過剰なカラーを持つことになりがちである。その過剰性は、コロニーに観光に行くわけでもなく、そこに住んで慣らされるわけでもないラティファには、違和のもとでしか無い。

 気持ちが悪いと感じる時もある。規格の合わないパーツを無理やり接続しているかのような感覚。

 そして、この通路のほうがラティファにとってはしっくり来るパーツということだ。

 しかし、そんなパーツからも放たれる時が来る。通路は通路、何処かと何処かを繋ぐためのものである。

 通路の出口を抜けると、急に明度が上がる。ミラーによって取り入れられた太陽光は、十二分にジムリアー連邦を照らしている。

 手で陽射しを遮りながら、ラティファは市街地に向かって歩き出す。観光用のARソフトを起動。ラティファの視界、風景の上に情報が書き込まれていく。

 店舗の宣伝、公共交通機関のアクセス、今日の天気予定、交通情報。ポップアップしてきたそれらの殆どをブロックしながら、ラティファは辺りを見回す。

 ジムリアー連邦の建築物は、新しい印象をうけるものが多かった。しかし、その新しさに、ラティファは違和を覚える。

 ――まるで、無理やり塗り潰したみたいだ。

 場にそぐわない高層ビルが立ち並び。区画が不自然に整理され。秩序だったもののない植生の植物が植えられた区域がある。

 市街地を歩く。

 強迫観念をもって、下地の何かを塗り潰したのではないかというような街を。

 ARソフトによってポップアップする情報には、ここ数年のものが不自然なまでに多い。それ以前を語らないためだろうか。

 道行く人の数は少ない。時折行き交う人も、背中が妙に丸まっていたり、きょろきょろとあたりを見回していたりする。胸をはって歩いている人間の姿は無い、と言ってもいい。

 そんな事を思いながら、ラティファは歩く。別にこれといった目的地があるわけではない。民間軍事会社に所属してはいるものの、ラティファに出来るのは、エーテルギアの操縦だけである。戦闘が起こるまではデータの確認やウェアウルフの維持ぐらいしかやることがない。

 ――さて、どうしたものか。

 PMCボリショイ・シチートのビルにまた行くか、或いは依頼の長期化のためにとったホテルの部屋でも見に行くか。

 或いは食事でも――と、ラティファは一軒の道に面した壁面がガラス張りのカフェに目を止めた。

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