表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/21

ゴースト・1

 自信はあった。

 エーテル適正というそれなりに稀な才能を持ち、それを生かしてPMCボリショイ・シチートに入社、二〇メートル級の人型機械であるエーテルギアの操縦者ドライバーとして、訓練を続けてきた。実戦経験は無いものの、それだってこれから積めばいいだけだ。

 そう思っていた。

 しかし、それは思い上がりに過ぎなかったのだろうか。先天的な能力の時点で、自分は戦場に出てはならない人間だったのだろうか。

 エーテルギアの中で、機体を動かしながら青年は荒く息を吐く。

 エーテルギアの各種センサーからの情報が、機体と直結した電脳に送られてくる。三次元空間全ての情報、それを強化現実(AR)上で再構成する。宇宙空間に転がる、複数の石塊、味方機二機――いや、一期は撃墜済みだから実質一機か、そしてさらに一つ。その一つもまた、エーテルギアだ。

 そのエーテルギアを捉えきれない。

 流星の如き速さで、それは動きつづけている。その動きを、青年の知覚が捉えられないのは、エーテルギアからの情報が不十分なのではない。

 それはあまりに速く、あまりに鋭い。青年から見て前方から下方、下方から後方。移動しているこちらに対して、ほぼ一定の距離を保ったまま、高速で宇宙空間を疾走する。それが描く軌道も恐ろしい。

 曲がる角度が、慣性をほぼ無視している。直角に曲がり、Uターンし、ジグザグに動き、円を描く。

 敵機の狂った速度と軌道を、青年の脳が処理しきれていない。火器管制の処理速度も凌駕して、機体は駆け抜ける。

 エーテルギアに搭載された機構である、アライメントチューナーによる機動だ。この機構を動かすことに必要となるのが、エーテル適正である。

 しかし、この速度は、機動は、並のエーテル適正で出来ることではない。

 エーテルギアが急に軌道を変更する。慣性を無視したかのような、直角の軌道変更。

「――何をしている、避けろ!」

 味方機――隊長機からの通信。

 それにはっとして、自機のアライメントチューナーを起動させる。機体各部のエグゾースタが、周囲の空間状態――エーテルのアライメントに干渉。緩やかに書き換えられた、今までの進行方向とは逆向きの力によって、速度が抑えられる。

 脳に僅かな痛みが走る。全力を尽くして尚、止まらない。敵機は、この何倍の力で同じことをやっているのだ? そう疑問に思わずにはいられない。

 敵機の戦法は単純と言っていい。

 極度な高速と高運動性を生かして、撹乱。隙を見ての一撃と離脱。

 その単純な戦法に対応できず、味方機は撃墜された。

 敵機が眼前を横切る。いや、観測データ上は横切ったことが理解できる、というのが正しい。認識と脳の処理を超えた速度域。

 背が泡立つ。

 当たり前だ。見えない敵と、どうやって戦えばいい?

 だが、だからと言ってむざむざやられるわけにもいかない。

 アライメントチューナーをもう一度起動させ、機体に速度を取り戻させようとする。戦闘中に足を止めるというのは、自殺行為でしか無い。たとえ僅かの時間であっても。

 その矢先、敵機が再度軌道を変更した。

 青年の体温が下がる。

 敵機の起動は、背後から一直線にこちらを狙うものだと理解できる、データを認識するまでもなく。

 そうだ、たとえ僅かの時間であっても、戦闘中に足を止めるなど、自殺行為でしか無かったのだ。

 敵機をこちらに襲いかかるまでの時間は、極僅か。

 その僅かの間に、エーテルギアの背面向け光学カメラからの情報によって、青年は初めて自らに襲いかかるものの姿を認識した。

 それは黒銀色メタルカラーのエーテルギアだ。四肢も頭部も鋭角的であり、更にその鋭角であることを強調するかのように、全身に切り羽根のようなスタビライザーを装備している。

 狼のような頭部、そのツインアイを真紅に光らせ、右腕の砲剣一体型デバイスを振り上げるそれは、民間軍事会社(PMC)ライブラ・セキュリティ・コントラクトが誇る人狼機。

 パーソナルネームは『ウェアウルフ』。

 青年はその名が誇大でないことを、認識せざるをえなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ