プロローグ
その日は土砂降りの雨が降っていて、洋館の敷地内は薄暗く地面はぬかるんでいた。齢十歳の俺の小さな手に握られているのは右手にハンドガン、左手にナイフ。
そしてその眼前に立つのは短刀を構えた男──年は二十後半くらいだろうか、がっしりとした体格に軍の迷彩服を身にまとっている。なんでも俺がここに到着する前に派遣したアサシンのほとんどを返り討ちにしてターゲットをこの洋館から逃がしたらしい。
「その年でこんな稼業とはねぇ、同情はしないが逃げるなら追わないでやるぞ」
俺は男の言葉を無視してただ前を見つめる──。
「……やれやれ最近の子供はどうしてこうも怖いもの知らずなのか」
さっきと変わらない静かな口調だ。しかし短刀を構えて片足を後ろに重心を前に倒した瞬間──ひりつくような殺気が放たれた。なるほど、今まで相手にした敵の中でも上位……軍出身者のアドバンテージがあるのかもしれない。
しかし、大体分かった脅威なのは間違いないが制圧は可能だ。
「すぅ──」
大きく息を吸い、サイドに駆け出す。
男は視線だけを動かし構えたまま動かない。
そのまま俺は男の周りを回るように走りながら、片手の銃の標準を瞬時に頭に合わせ一発早撃ちする。
ダンっと音を立てて放たれた弾丸はしかし、相手の頭を捉えることはなかった。
「青いな少年」
そう呟かれた時には──男は爆発的な踏み込みによって撃ち終わりの体勢の空いた懐に滑り込むように入り短刀を心臓に突き刺そうとする。一瞬の隙や判断ミスはこの業界では命を差し出すのと同義だ。
短刀が胸を貫く前──ドクンと心臓が大きく脈打つのと同時に脳のタガが外れ身体能力が活性化する。
そして跳躍しながら身体を大きくひねり致命の一撃を回避した。
それと同時に空中で再び頭に狙いを定めて一発撃つ。
「かぁ!」
男は大きく全身で横っ飛びし、なんとか弾丸を避ける。
「な──」
だが、俺はもうすでに飛んだ男の懐に入り込んで、さらにナイフを素早く切り上げていた。
血しぶきをあげながら男は力が抜けたようにぬかるんだ地面に仰向けに倒れ込む。
俺は男に銃口を向けてながらいつもの質問を口にする。この質問をするために毎回とどめはすぐにはささないのだ。
「あなたが今まで幸せだと思った瞬間はなんですか?」
これは元々父が相手を殺す前にしていたことらしい。
「さあな、こんな稼業やってりゃそんなもん分かるわけないわな……グフ」
答えを聞いて、俺は引き金を引き男にとどめをさした。
それが、俺が養成機関で最年少で派遣され生き残った殺しの仕事だった──。




