2 婚約者
ルーチェの体調がすぐれないため、とオリビアは説明したが、面倒なことはやりたがらないルーチェのことだから、おそらく仮病だろう。
けれど、騎士団にはルーチェの婚約者が所属しているはず。まわりに決められた政略結婚だが、それでも婚約者に会いたいと思わないものなのだろうか。
ノーチェは実際に会ったことがないが、二人は仲がいいと聞いている。ルーチェの代わりに会えば、さすがに別人だと気づかれるのでは……。
不安を抱えたまま、その日はやってきた。
城の中は、どこもお祭り騒ぎみたいだ。侍女も衛兵も、どことなく浮き立っている。
けれどこの謁見の間だけは、厳かな空気が漂っていた。
屈強な騎士たちも、不誠実そうな臣下たちも、硬い表情で黙りこくっている。そんな中でも臆さずに、女王陛下がよく通る声で騎士を称える。
そんな威厳と気品あふれる陛下のことを、ノーチェがお母様と呼んだことはない。母親としての一面を見たことがないし、この国を守ることだけに心血を注いでいるように見えたからだ。そのため娘というより臣下の一人のようで距離を感じてしまう。
「ルーチェ殿下」
臣下に話しかけられ、ハッとする。今、自分はノーチェではなくルーチェなのだった。
「武勲を立てられたフレイ・ウォード様に、褒美を授けられてください」
フレイ・ウォードといえば、ルーチェの婚約者ではないか。
カツカツと足音を鳴らし、フレイがためらいもせずに向かってくる。
鋭く研ぎ澄まされた剣のような銀髪と、真冬の海みたいな目をしている。端正な顔立ちだけど近寄りがたい雰囲気すぎて、素ではとても話しかけられそうにない。
緊張しながらも、懸命に平静をよそおう。そんなノーチェの目の前で立ち止まり、親しげに目配せしたり囁くこともなく、無表情のまま跪いた。
「最小限の被害で鎮圧したそうね、褒めてつかわすわ」
ルーチェのように堂々と振る舞う。
「今後もこの国のために邁進しなさい」
何を言っても、フレイの顔も体も微動だにしない。
まるで感情がないみたいだ。




