1 ノーチェとルーチェ
生まれたときは平等だった。
この世に生をうけた日も、身体も、顔立ちも、何から何まで同じだった。それなのに──
「王になりたい?」
この国の女王が、幼い我が子にそう問うた。
双子の姉は、王というものが理解できず考えこんだ。その間に、妹は即答した。
「なりたい!」と。
そうして運命は決まった。妹は、表舞台で脚光を浴びる女王に。姉は、その影武者となった。
薄暗い地下室で、ろうそくの火が、頼りなく揺れている。
どこにも窓がないため太陽を感じることができず、今が夜なのか朝なのかもわからない。
そんな中、ノーチェがベッドから起き上がる。身だしなみを整えると、ドアをノックする音が聞こえてきた。
アッシュブラウンの髪をきっちり後頭部でまとめている教育係が、部屋の中へと入ってくる。押しているカートには、新鮮なフルーツやとろとろの半熟オムレツ、バターをたっぷり使用したクロワッサンなどが乗せられている。
「本日の朝食はこちらになりますが、すべてを一口だけ、お召し上がりください」
「一口だけ?」
「ルーチェ様が先ほどそのようにお食事をすまされましたので」
「そうなんですか……でももったいないので、もう少しだけ食べても──」
「いけません。ルーチェ様と同じ体型と体調を維持するための食事なのです。それをご理解のうえ、お召し上がりください」
つまみ食いも見逃さないとばかりに、グレーの目を光らせるオリビア。こちらに背を向けて作業していたとしても、なぜか気づかれるのだ。ノーチェはしかたなく、料理を一口だけ食べた。
「昨日のルーチェ様の言動が、こちらになります。会話が噛み合わないことなどないよう、しっかり把握されてください」
流れるような筆跡で、ルーチェが言葉を交わした相手と、その内容まで書きとめられている。
大勢の人と上手くコミュニケーションをとっているルーチェを、すごいなと思う。ノーチェとは正反対な積極的で前向きな性格だから、女王に選ばれたのだろう。
このバートランド王国は代々、第一王女が王位を継承している。影武者の歴史はない。
過去に同等の力を持っていた双子の王女が、王座をめぐって争い、第一王女だけでなくその支持者も暗殺した第二王女が、王座についたことがある。そんな悲劇が繰り返されることを懸念して、影武者が生みだされた。
そのため死んだことになっているノーチェの存在を知っている者は、ごくわずか。このまま知られない方がいいとノーチェは思う。そうでなければ、本当に悲劇を繰り返しかねない。
「明日、騎士団のための祝勝会がおこなわれます。暴動を瞬く間に鎮圧された騎士の方々をねぎらうため、盛大に執り行うそうですよ」
「暴動ですか」
不安を感じると、それに気づいたオリビアが話を続けた。
「気にやむほどのことではありませんよ。日頃の鬱憤をはらしたい者は、どこにでも存在するというだけです」
「……そうですか」
「話を戻しますが、明日の祝勝会に参加していただきます。ルーチェ様として」




