推しの令嬢、守護します! 1-6
レブカント歴 1345年。
エドガーが、『LOVERS』の世界に転生し、6年の歳月が流れた。
エドガーに望としての意識が覚醒したのが、4歳であった為、既にエドガーの年齢は10歳になっていた。
「エドガーッ! 5番のテーブルね??」
「りょうか~~い」
10歳になったエドガーは、書き入れ時には店を手伝っており、母のファラに言われた通り、目的のテーブルへと料理を運んでいた。
「はい、お待ちッ!
アンチョビポテトサラダと、タコとマッシュルームのアヒージョ」
エドガーは慣れた手付きで料理を運ぶと、お客に軽く一礼し、カウンターへと戻っていく。
「いや~~、エドガーが手伝ってくれて、ホントに助かるよ!」
配膳を終えたエドガーに、丁度お手すきになったファラが話しかけてきた。
「ホント、配膳をするルールなんかも、エドガーからの提案だったよね??
テーブルの番号管理なんかも、最初は戸惑ったけど、慣れちゃえば断然今の方が楽だし。
凄いよッ!!」
ファラと同じように、酒場のフロアで働く、女中であるアンナも、手が空いた為か、会話に参加し、エドガーの功績を褒めた。
エドガーは、前世での知識を遺憾なく発揮し、ファミレスでアルバイトをしていた経験もあった為、大いにその経験を生かしていた。
エドガーが提案するまでは、指差しや口頭指示、目線等で、注文された料理を届けるテーブルを指示していたが、エドガーが全てを番号で管理する事を提案し、より酒場は円滑に回る様になっていた。
「別に凄くないよ?
――俺は覚えも悪いし、察しも母さんやアンナみたいに良いわけじゃないから、自分で分かるようにそうしただけで……。
俺に合わせて、覚えてくれた二人が凄いだけだし。
今まで、阿吽の呼吸で出来てた事が凄いよ……、超人だよ」
エドガーは、とても真似出来ないと本心で思いながら、謙遜とかではなく、事実をそのまま述べた。
エドガーの噓偽りの無い言葉に、ファラは満足げに笑顔を浮かべながら、エドガーの頭を強く撫でる。
「――でも、ごめんねエドガー……。
普通の10歳なら、同い年の子達とかと遊びたいでしょ??
ホントならそうさせたいんだけど……、今は猫の手も借りたくて…………。
ごめんねぇ~~」
「別に気にしなくていいよ。
俺もやりたくてやってる所あるし……。
――――お店手伝うと、特典もあるしね」
申し訳なさそうに話すファラに対し、エドガーは店の手伝いを不自由に感じた事は無かった。
エドガーは続けて最後に小さく呟くと、酒場を見渡し、何人かの、交流のある常連を一瞥する。
そして、そんな三人の会話に、酒場の料理を一任している、父であるカリスが会話へと参加してきた。
「まぁ、お店やってて一番有難いのは、父さんと試行錯誤した、新作料理の評判を見れる事だよな??
エドガーの発送は凄いぞ~~ッ! 料理の天才だ!!」
エドガーの父、カリスはご機嫌で会話に参加し、エドガーを褒め称えるようにして話した。
「あら、アナタ……、そっちも一段落??」
「おう!」
ファラとカリスは短いやり取りを交わし、カリスはエドガーを見つめる。
「ホント……、天からの授かりもんだよ」
「大袈裟な……。
父さんの料理スキル有りきだよ、新作料理は。
――俺は提案だけ……、作り方なんかは完全に父さんの腕便りなんだから……」
エドガーは料理に置いても、前世の知識をフル活用し、日本の料理を幾つか、この世界に再現させていた。
しかし、あくまでエドガーは、料理の完成形は知っているだけであり、作り方等は大まかな事しか伝えられず、日本の料理の再現は、父のカリスの料理の腕に、かなり頼っている節があった。
(酒場の息子で……、親父の腕が良くてホント助かったよな……。
前世でも料理なんて、まるでしてこなかったし。
こっちの世界では、父さんに教えてもらいながら、新作料理にせよ、元々あったメニューせよ、簡単な物なら作れてきたけど…………)
パシフィニア学園の入学を、目下の目標にしているエドガーは、貴族ではない、上流階級の生まれではない事に、嘆く事もあったが、やれる事をコツコツと積み重ねている現状では、酒場に生まれた事を残念には思わなかった。
前世の知識のおかげで、カリスの酒場は、好調であり、カリスの酒場でしか食べられない料理も、多く存在していた。
「店も盛況だし、エドガーが生まれてからは良い事尽くめだ……」
「世事は良いから、今日もまた、時間ある時に、試作お願いね!」
幸せを噛み締めるように呟くカリスに対し、エドガーは新たに店に来店した客に気付くと、カリスに一言告げ、接客へと戻っていく。
「いらっしゃいませ~~ッ!
お二人ですか??」
慣れた様子で接客するエドガーに対し、初めての来店なのか、10歳の若い少年が出迎えた事で、二人の客は少し面食らった様子で答えた。
「あ、あぁ……、二名だ。
テーブルは使えるかな??」
来店した客は、二人とも物珍しい服装であり、頭から顔が隠れる深いローブを被り、風貌は旅の者の様に見受けられた。
一人は大人であり、もう一人は、エドガーとそこまで背丈の変わらない、子供であった。
(顔が見えずらい……。
風貌からして遠方から来てる旅人かなんかだろうな。
――いやでも、親子? 子連れだし、どっちかと言えば観光? 旅行みたいなもんか??)
子連れで酒場に来店する客は珍しく、エドガーは不思議そうに見つめながら、テーブルへと案内する。
「――不思議かね?
子連れで来店は」
お客を見過ぎたのか、エドガーの考えは、ローブを来た男にバレ、エドガーは慌てて取り繕う。
「い、いえッ!
ま、まぁ珍しくはありますけど、昼食や夕食なんかを、食べにくる親子も居りますので」
「ふふッ……、そうか……。
黒髪の少年、若く見えるが、年は幾つかね??」
「え、えっと、今年で10になります」
エドガーは、客の男と会話をしながら目的の席へ、客をエスコートし、男と連れられた子供は、用意された椅子に腰を下ろす。
椅子に座るなり、ローブを被っていた男は、頭から被っていた部分だけを外し、素顔を見せた。
エドガーと会話をしていた男は、白髪の無精髭を蓄えた老翁であった。
少しくたびれた、古い緑のローブと、無精髭の風貌から、一瞬、浮浪者にも見えなくもない外見であったが、エドガーは男に、奇妙な違和感を感じていた。
「今年で10歳かッ!?
若いのにしっかりしてる。
まだまだ遊びたい年頃だろうに…………、レアリー、お前と同い年だよ」
老翁はエドガーの年齢に驚きつつ、自分の連れである、子供に話題を振った。
老翁が話題を振ったことで、エドガーの視線も自然と子供へと移り、今まで口を開かなかった子供は、老翁の言葉に反応するように、口を開く。
「御じい様……、私は既に社交の為、多くの事を学び始めています。
――10歳がまだまだ遊びたい年頃であるならば、7歳から学問に励む私は、なんだと言うんです」
老翁に連れられた子供は、幼子の声ながらも、とても澄んだ清らかな美しい女性の声で答え、話し方と言葉遣いから、エドガーは初対面であったが、話した子供が品のある人だと強く感じた。
しかし、エドガーが幼い女の子に好印象を持ったのに対し、幼い女の子は、老翁がエドガーを褒めた事が気に食わなかったのか、少しトゲのある口調で、老翁の言葉に答えた。
(あれ……、いきなり嫌われてる……かも)
幼い女の子に、少し嫌味のような事を言われたエドガーであったが、落ち込む事は無く、寧ろ品の感じるお客に興味を持ち始め、まるで好きな子にちょっかいを掛けるかの如く、エドガーは不敵な笑みを浮かべて、話し始める。
「お客様……、大変失礼ながら、私、10歳にして料理も作れます!
お客様に提供できるレベルではないですが、普通に美味しく食べれます。
――同い年の女性には勿論の事、料理をしない、あまりしない程度の女性と競っても負けないレベルです!」
「――ほぅ」
エドガーは自信たっぷりに話し、老翁はエドガーを、子供が必死に背伸びをしているのを、見るかのように、微笑ましい光景を、楽し気に相槌を打ちながら様子を伺っていた。
「酒場の悪ガキが大きく出ましたね……。
そこまで言うなら、私が驚く料理!
貴方が作った料理を持ってきて貰いましょう」
少女は依然として、頭からローブを外さなかったが、僅かに見える琥珀色の煌びやかな瞳は、エドガーを真っ直ぐに捉え、挑戦を突きつけるようにエドガーへ言い放った。




