推しの令嬢、守護します! 1-5
ルードとの会話を経て以降、エドガーはすぐに目的の為、計画を立てる。
仕事中の父、カリスに頼み込み、A4サイズ程の羊用紙を貰い、ペンとインクを借りると、店の端っこの席へと移り、熱心にペンで書き込み出す。
(まずは目的。
――奏がこの『LOVERS』に転生した際に、一番に取り組むであろう事…………)
エドガーは、生前の妹、奏を思い浮かべながら、羊皮紙に『キャラクター達の救済』と、程々に大きな字で書き込む。
(『LOVERS』はあくまで乙女ゲーム、主人公である聖女の女の子が、ゲームの舞台、パシフィニア学園へと入学し、そこで様々な男性ヒロイン達と恋に落ちる内容だ。
男性ヒロインは、勿論どれも人気のあるキャラクターであり、それぞれのルートがある為に、きちんと幸せになれる未来が絵が描かれてる)
エドガーは『LOVERS』の内容を思い返す。
(『LOVERS』の中に登場するキャラクターは、魅力的なキャラが多い。
――ただ、魅力的なキャラクターの中には、どうしてもシナリオ上、不幸なエンディングを迎えてしまうキャラクターもいる。
そして、その大きな一例として挙げられるのが、妹の推しのキャラクターでもあった『オルレッド レアリー』。
物語における悪役。
悪役令嬢と呼ばれるキャラクター)
エドガーは、『キャラクター達の救済』と書いた下に、レアリーの名前を書いた。
そして、ゲームの内容とキャラクターを思い出す中で、自然と奏と交わしたある日の会話すらも蘇る。
◆ ◆ ◆ ◆
「お兄ちゃん! ゲームやった? やってよ! 面白いからさッ!!」
「乙女ゲームだろ?? 男がやれないよ。
やっても共感出来ないだろうし……」
奏は生前、『LOVERS』にドハマりしてしまい、その内容の良さから、兄である望にまで、ゲームを勧めてしまっていた。
「乙女ゲームだけど、女の子のキャラクターも良いんだってッ!
ほらッ! このレアリー嬢!! 可愛くない??
悪役だけど、別にシナリオ読んでて嫌になる部分ないし、何より所々抜けてる所があって可愛いだよね~~」
「ふ~~ん。
でも、悪役なんだろ?? 乙女ゲームだし、主人公と意中の人を巡って、争ったりとかするんじゃないの??」
「確かにそうゆうのがメインではあるけど……、でも、『LOVERS』ファンからは人気で、大切されてるキャラクターなんだよ??
最後は主人公を庇って、国から追放されちゃうんだけど、その最後を嘆いてる人も結構多いし」
奏はレアリー嬢の話をしながら、携帯を操作し、レアリーの人気を望に伝える為、ネットに出回るレアリーの、キャラクターのファンアートを望に見せつけた。
ほらと言わんばかりに、突きだされた携帯を見て、望は生返事を返し、奏はレアリーの事を熱く語り、シナリオ内のレアリーを思い出したのか、優しく微笑みながら続けて話した。
「推しなんだよねぇ~~。
途中、逆境に立たされながらも、最後まで凛々しく、誇り高くシナリオから退場したレアリー嬢……。
私もあんな風に強くなれたらなぁ~~、なりたいなぁ~~」
まるで尊敬する想い人を話すかのように、感傷に浸りながら話す奏を見て、望は『LOVERS』に少しだけ、興味が湧いてきていた。
◆ ◆ ◆ ◆
「よしッ! 決めたッ!!」
奏との会話を思い出し、エドガーは方針を固める。
(早急に目指すは、レアリー嬢の救済だな。
多数あるエンディングの中で、6割、7割は、レアリー嬢にとってはバッドエンドに終わる。
――どのルートに入るかは、分からないけど、マークしておくのは確実)
目標を定めたエドガーだったが、それと同時に、目下の課題も浮かび上がる。
(その為には『LOVERS』の舞台に、俺も立たないといけないんだけど、平民の出だしなぁ~~。
ハードルたけぇよなぁ~~)
『LOVERS』の舞台となる、パシフィニア学園は、基本的には貴族の生徒達だけで構成され、貴族の生まれではない平民も、学園に通う事は出来るが、途轍もない才能が必要であった。
平民の生まれの者は、全体の2割も満たない程、少数であり、武芸、芸術を極めた者、あるいわ学問を修めた秀才等が、学園に通う事を許されていた。
(芸術は……、あんまり美的センスを自慢に思った事は無いから無理だし……。
入学するのであれば、武術を極めるか、勉学を極めるかだよな……)
パシフィニア学園の入学条件を鑑みて、エドガーは何を極めるか考えるが、結論はすぐに出た。
「まぁ、後々の特典を見ても、武術一択だな」
エドガーはパシフィニア学園にて、学園内に発足されるルールを思い出し、それが自分の目的を達成し易くすると考えた。
(護衛騎士制度……。
特定の条件を満たした、武術を極めた生徒には、令嬢の護衛として、学園内生活での近辺警護を行う事が許される。
護衛の対象となる令嬢は、全て大貴族の令嬢。
パシフィニア学園卒業後、武術を極めた生徒達の殆どが、騎士や軍に所属する。
――卒業後の仕事の予行演習としても、学園はその制度を推奨し、生徒達に経験を積ませる。
そんな設定だったはずだから、レアリー嬢の護衛に付ければ、何かと都合よく動けるよな)
護衛騎士を目指す為、エドガーは護衛騎士になる為の、特別な条件を洗い出し、全て羊用紙に記載した。
(さて、武を磨く事は確定として、何を磨くか……、だけど。
――その前に、手っ取り早くやれる事を考えないと)
「教えを乞うにも、学園に入学する為にも、まず必要なのは、お金だよな。
――幾らかかるなんて想像もつかないけど、使っても使いきれない程には、稼いどかないと……」
エドガーは賑わう酒場で、誰にも聞こえない程の小さな声で、自分の考えを纏めるように小さく呟くと、すぐに行動に起こした。
この世界に生を受けて数か月、ただ漠然と酒場を見つめていたエドガーだったが、酒場を観察していたおかげで、店の常連については、あらかた人となりを把握していた。
エドガーは羊用紙をぶっきらぼうに掴み、席を立つと、一人の商人へと向かって歩き出した。
「ねぇ? おじさん??
ちょっと、面白いお話があるんだけど……。
いいかな??」
いつも一人、昼間に飲んでいる事も見受けられる商人へ、エドガーは笑みを浮かべながら訪ねた。
エドガーに声を掛けられた商人は、酒が入っている為、顔は少し赤く染まり、話しかけてきたエドガーを一瞥するも、すぐにエドガーから視線を外す。
「酒場のガキが、俺になんのようだ??
おこずかいなら、親にせびれよ?」
商人は素っ気ない態度で、子供あしらう様に、冷たく返事を返すが、エドガーは引くことをしなかった。
エドガーは子供らしく、可愛らしい笑みを浮かべながら、続けて商人に話しかける。
「おこずかいをボクがあげるよ。
おじさんにとっては、面白い話だと思うよ??」
「あぁあん?? 何だガキッ…………」
子供に揶揄われていると感じた商人は、エドガーをあしらう為にも、少し威嚇するように、強く言い返すが、商人の言葉は途中で途切れた。
旗から見れば可愛らしい、子供の笑顔でエドガーは、商人に話しかけていたが、大人が怒ろうとしても、エドガーの姿勢は崩れることが無く、商人にはエドガーの笑顔が不気味に思えてきていた。
「儲かる話だよ??
――おじさん、ここで飲んでて良かったねッ」
エドガーは念を押すように、まるで商人に選択を迫るかのように、続けてそう言い放った。




