推しの令嬢、守護します! 1-4
エドガーとして転生し、2か月。
段々と世界の事が分かってきたエドガーは、酒場のカウンター席にて、今日も今日とて同じように、酒場を俯瞰して見つめていた。
「――う~~ん、どうしようか……」
転生した望は、エドガーとして生きる事を決めていたが、何をやりたいのか、何がしたいのか、自分の将来について、生き方に関して決めかねていた。
エドガーは唸りながら呟き、酒場に訪れる多種多様な人物を呆然と見つめた。
エドガーの人間観察は、もはや恒例のものになりつつあり、最初は酒場の客も、エドガーの両親ですら、行動を奇妙に思っていたが、エドガーが飽きずに何日も続ける事で、もはや常連は誰も気にする事は無くなっていた。
「よっ! 酒場の息子!!
今日も飽きずに、酒場観察か??」
父、カリスから出された子供用のジュースを飲みながら、店で大人しくしていると、酒場の常連であるルードがエドガーに話しかけてきた。
「そう、人間観察。
ルードおじさんは、サボり? 仕事終わり??」
エドガーは、冒険者である屈強な男ルードに、臆することなく、旗から見れば、怖いもの知らずのような、そんな受け答えをする。
「サボりじゃねぇって! これから仕事だわ」
「これからぁ~~?? 酒入れるの??」
仕事前に酒場に訪れたルードに対し、エドガーは正気を疑うかのような、そんな口ぶりで話し、まるでダメ人間を見るかのような、そんな視線を向けた。
「いや、今日は資材調達の任務だから緩いの!!
だから、仕事前に一杯いれても問題ないのッ!!」
「一杯で済むわけないじゃん……」
エドガーの問いかけに、ルードは駄々をこねるかのように、言い訳をし、いつものエドガーの飲みっぷりを見ているエドガーは、ルードの言葉を全く信用していなかった。
「――とゆうか、俺の仕事の話はどうでもいいのさ。
エドガー……、お前そんなに毎日、同じ席で、同じような光景見てて飽きないのか??」
「飽きないよ? いろんな職業の人いるし、最近は、よく来る人なら、その人がどんな人なのかも、分かるようになってきたし……。
考え事しながら、ボーっと見つめるには丁度いい」
「ふ~~ん、理解できないな。
可愛げのないガキだよ、ホント」
「可愛げのない? 母さんが聞いたら殺されるよ??」
酒を煽り始めたルードに、エドガーはルードの言葉が引っ掛かったのか、エドガーの母、ファラの存在をチラつかせ、発現に釘を刺す。
「大丈夫だ! 今は、あっちの客をご対応中だ」
エドガーの指摘に、ルードは得意げに、遠くにいるファラを指差し、抜かりないと言わんばかりに、エドガーに答える。
「そういや、本は止めたのか??
一時期、凄い読み込んでただろ? 四歳児の癖に……」
「家にある本は、読み切っちゃったからね。
でも、最近も読んでるよ? 週に一回、国の図書館に連れてって貰えるんだ、母さんに……。
そこで一冊借りれるから、本は定期的に読めてる」
ルードは一時期、酒場で本の虫になりつつあったエドガーを思い出し、その事について尋ね、エドガーは最近の本事情も踏まえながら、質問に答えた。
エドガーは四歳児でありながら、本が読め、『LOVERS』の世界だからという大きな理由があった為に、読み書きが既に出来ていた。
(日本のゲームだから、この世界で使われているのも当然日本語……。
途中、専門的な用語はあるにしろ、それは『LOVERS』の専門的な言葉であり、ゲームをやってた俺には問題なし……。
変な世界観だよなぁ、ホント……。
――たまに現実感が感じられなくなる程に……)
エドガーはルードと会話しながら、改めてこの世界の異様さに考えさせられた。
「そんで? 普通の四歳児なら本を読むどころか、読み書きすらまだまだ怪しいのに、いろんな難しい本を読めてしまう、酒場の天才少年様は、何になるんだ??
――やっぱり学者か??」
ルードに他意は無いが、少しトゲのあるような物言いに、エドガーも特に気にする事無く、少し考えた後、素直に自分の心境を話し始める。
「正直まだ何も考えてない。
やりたい事ないんだ……」
転生して以降、エドガーはやはり自分本位で、何かをしたいという思いに駆られる事はなく、煌びやかなファンタジー世界であっても、心動くものは何も無かった。
「――何もやりたい事はないか…………。
ならよ? 冒険者とかはやっぱりどうだよ??」
「だから、やらないって……」
ルードに誘われた事で、エドガーは少しムッとした表情を浮かべるが、そんなエドガーに対し、待てと言わんばかりに片手で、エドガーを制し、続けて話した。
「自分で何かやりたい事はないんだろ??
――なら、人の為になる事をすればいいッ!
誰かの為に頑張るって言うのは、気持ち良いもんだぞ!?」
「だからって冒険者はッ…………」
ルードの言葉に、エドガーは賛成しないつもりだったが、ルードの一言に引っ掛かった。
エドガーは、途中まで言いかけた自分の発言を止め、顎に指を当て考え始める。
「誰かの為……、そうかッ!!」
エドガーは今まで、考えもしなかった事に気付き、「誰かの為」を考えた際に、すぐに一人の人物が思い浮かんだ。
(どうせ、この世界でやりたい事なんてないんだ。
――でも、折角この『LOVERS』の世界に、転生したのなら、アイツがやりたいと考える事をやろう!
アイツは……、奏はこの世界には、生きていないんだから)
エドガーは一気に、雲が晴れたように、今まで悩んでいたのが嘘かのように、目的が決まり、目的が決まると、すぐに何をすべきかまでもが、頭の中でどんどんと湧き上がる。
「ルードありがとう! 目標が決まったよ!!」
「お?? 冒険者か?」
晴れやかな顔になったエドガーに対し、エドガーの天才っぷりから、冒険者でも絶対に役に立つと考えていたルードは、冒険者への引き抜きが出来たと思い、語気には嬉しさがにじみ出ていた。
エドガーの思い立った様子から、冒険者の道をこれから志すと、ルードは思い込んでいたが、そんなルードの期待を、エドガーは一瞬にして裏切る。
「冒険者はやらないよ?
――でも、人の為になる事はする!
元々、罪滅ぼしがしたかった人生だしね」
「えぇ~~ッ? 冒険者ならないの??
――罪滅ぼし??? また、訳の分からない事を…………」
晴れやかな表情のエドガーに対し、ルードは落ち込んだ様子で呟き、片手に持ったビールを一気に飲み干した。




