推しの令嬢、守護します! 1-3
エドガーの親が経営する酒場に来る冒険者、ルードとステッドとの会話を打ち切り、別のカウンター席へと移り、酒場を呆然と見つめていた。
(ガルバニア王国にレブカント大陸……、聞きなじみのある世界だ。
パーム帝国なんて名前の国もあるみたいだし、もう十中八九、あの世界なんだろな)
ルード達との会話を思い出しながら、エドガーはある仮説を立てた。
エドガーが聞きなじみある国の名前は、日本で生きていた際に認知した名前であり、あるゲームの中で登場した国の名前であった。
(『LOVERS』、あの中にあった国の名前と全く同じ、そして、パーム帝国、ガルバニア王国が位置する大陸の名前すらも、この世界には存在してる。
――あの世界のキャラクターに会ったわけでもないし、断定は早いけど、もう『LOVERS』の世界に転生したと、そう仮定して考えた方がいいだろうな)
エドガーは自分の中で一旦結論付け、その上で何をするか考える。
(俺も好きなゲームだし、色々見たいものはあるけど…………)
エドガーは自分の知る『LOVERS』の世界であるならば、興味のある事がいくつか思い浮かぶが、わざわざ行動を起こそうとはならず、二度目の人生を目一杯楽しもうと、そういう気持ちにもならなかった。
「俺なんかじゃなく、あの子がこの世界に転生すれば良かったに」
エドガーは、自分をこの世界に転生させた神の様な、あるいわ上位存在、この運命対し、自然と恨み言を呟いた。
恨み言を零しながら、不意に生前の妹、上原 奏の姿が思い浮かび、もし自分と同じ状況に置かれれば、どれ程喜んだのだろうかと、そんな事すら想像した。
満面の笑みを浮かべ、はしゃぐ奏が容易に想像でき、そんな有り得ない想像に、エドガーは自然と笑みが零れる。
「なに笑ってるの~~? エドガ~~。
なんか楽しい事でもあった??」
自然と零れた笑みを浮かべるエドガーに対し、仕事中でも息子が気になるのか、エドガーの母、ファラが嬉しそうに、微笑みかえながらエドガーに話しかける。
「え? あ、何でもないよ!
ただ、みんな楽しそうで自然と笑みがね??」
急に話しかけられた事で、エドガーは特に言い訳を考えておらず、咄嗟に思いついた事を、無理やり自分の行動に紐づけて答えた。
「そう!
酒場なんて、見てても暇だろうなって思ってたけど、エドガーが楽しそうならいいわッ!」
エドガーの返事に気分を良くしたファラは、ニコニコと笑みを浮かべながら、エドガーが座るカウンターの対面で、料理をしているエドガーの父、カリスに仕事の話をし始めた。
隣で話す両親を、エドガーは呆然と見つめる。
(仲良いよな、俺の両親……)
エドガーは両親を見て、不意にそんな感想が頭に過る。
そして、不意に浮かんだそんな何気ない感想に、エドガーは更なる疑問が生じる。
(俺? 俺って言っていいのか??)
日本で生活していた上原 望が、ある日を境に、急に異世界に住むエドガーという幼子の中で覚醒し、既にエドガーの意識は完全に、上原 望のそれになっていたが、エドガーは改めてその異常事態に疑問を持つ。
(――厳密に言えば、俺はこの二人の子供ではないよな?
この体と、元の体の持ち主のエドガーは、ファラとカリスの子供って言えるけど、俺はエドガーの中で急に芽生えた人格みたいなもので……)
エドガーは考える程に、今度は罪悪感のようなものを感じ始める。
(この子の意識は何処に行ったんだ? 本来の人格……、魂みたいなものは??
――エドガーとしての記憶なんて、俺には……)
エドガーは上原 望としての記憶ではなく、このガルバニア王国で生まれ育った記憶を思い出そうとする。
望としての記憶ばかりであり、その記憶が濃い為に、エドガーの記憶は思う出せないと、そう考えていたエドガーであったが、苦悶していく中で、段々とモヤが少しずつ晴れていくように、エドガーの記憶も思い出せた。
(こ、これは……、俺の記憶…………)
エドガーは明確に、ガルバニア王国で過ごす、昨日以前の記憶も持ち合わせており、その記憶は他人事の様には感じられず、正に自分が体験した経験であり、自分の記憶だと強く感じられた。
そして、エドガーの記憶を思い出す中で、急に気分が悪くなり、エドガーは目を回すようにして、意識が途切れた。
◇ ◇ ◇ ◇
「――ん……、ここは??」
意識が飛んだエドガーが、次に目覚めた所は、見た事のある部屋だった。
この『LOVERS』の世界に生まれ変わり、一番最初に見た光景であり、エドガーは既に部屋に慣れ、自分の部屋だとすんなりと認識できた。
「まさか、こっちの世界での記憶を思い出すと、気持ち悪くなるとは……」
エドガーは意識が途切れる寸前まで、自分が何をしていたか覚えており、望の記憶だけでなく、エドガーの記憶も鮮明に思い返す事が出来た。
そして、エドガーの記憶を得た事で、意識や考え方が変わり始める。
(エドガーの記憶を、きちんと思い出せるようになるまで、自分の体であって、他人のものっていう変な感覚があったけど、なんかそんな事も思わなくなったな……。
こっちの世界の意識と統合?されたって事なのか??)
この世界に転生して以降、元の体の持ち主、本来のエドガーのような存在を気にし、望は、自分が転生した事で、意識を乗っ取ってしまったのではないかと、罪悪感を感じる部分があった。
しかし望は、自分の部屋で二度目の目覚めを迎えて以降、そんな罪悪感は消えており、自分がエドガーだと、ハッキリと自信を持って、他人に言える程、自分の事を強く認識できていた。
「エドガーッ! 大丈夫!?」
まだ少しだけ、ふわ付いた感覚を持っていたエドガーに対し、デジャブを感じさせる来訪が、エドガーにあり、エドガーの部屋を勢いよく開け、母親のファラと父親のカリスが部屋に訪れる。
「――父さん、母さん……」
エドガーは意識せず、自然と二人を両親と呼び、無意識下で自然と出た言葉に、少しだけ戸惑うも、違和感を感じる事は一切無かった。




