推しの令嬢、守護します! 1-2
◇ ◇ ◇ ◇
(エドガー……、酒場に生まれた一人息子……)
昼間だというのに、多くの人で賑わう酒場の店内を、エドガーは呆然と見つめていた。
望としての生を終え、突如、エドガーとして生きる事になり、窓の外の世界を見ていたエドガーは、母親と思わしき女性に抱えられ、酒場のカウンターで大人しくしていた。
「異世界転生ねぇ~~…………」
未だに実感が湧かない現状に、エドガーはつまらなそうに一言、小さく呟く。
(人によっては、喜ぶ様な状況なのかも知れないけど、別に俺は嬉しくも何ともないな。
やりたい事があるわけでもないし、やり残した事があるのだとしたらそれは、日本での話。
――何年生きるか分からんけど、どうするかなぁ~~)
年齢にして4歳のエドガーであったが、4歳児の考える事ではなく、無気力から来るものでもあったが、早くもその思考論理は、爺臭いものを醸し出していた。
「人間やりたい事も無いと、こうも生きる気力は出ないのか……」
エドガーはお客の座るカウンターで、父親から出された果物のジュースを飲みながら、そんな事を呟いた。
そして、そんなエドガーの呟きは、隣の席で早くも酒盛りをしている、髭を生やした、30代半ば程の年齢に見える男の、冒険者の様な風貌をした者の耳に入る。
「なんだぁ? 酒場のガキが爺みたいな事、言ってぇ~~。
早くも悟りの境地か~~??」
ビールが入った木製のコップを片手に、冒険者の男は、上機嫌でエドガーに話しかけた。
「別にそんな事は無いよ。
ただ、将来の夢が見つからないって感じ」
成人した大人が見ても、大柄に見える冒険者の男に声を掛けられても、エドガーは男を一瞥した後、淡々と受け答えをした。
そして、そんな落ち着いた様子で、受け答えするエドガーに、声を掛けた冒険者の男は、目を丸くし、驚いた表情を浮かべる。
「――え、えっと、酒場のガキは四歳児くらいだったよな??
つい先日も見かけたけどよ、こんな流暢に喋ってたか?」
エドガーの様子に、屈強な大人が狼狽えた様子を見せ、同じようにカウンターで飲んでいた冒険者仲間に、まるで共感を求めるかのように訪ねた。
「いや……。
ついこないだまで、俺達、冒険者にはビビった感じだったような……。
酒場の親父の後ろに隠れてるような印象だったけど」
髭の冒険者が訪ねた仲間の冒険者も男であり、髪の毛一本も無い、綺麗なスキンヘッドを持っていた。
スキンヘッドの冒険者もエドガーの様子には、驚いた様子であり、興味深そうにエドガーを見つめながら答えた。
(流石に、四歳児が物怖じせずに受け答えし過ぎか?
――まぁ、何でもいいや)
冒険者の反応を見て、幼子の反応をしなかった事に、エドガーは一瞬反省するも、すぐにどうでも良く感じ、態度を改めようとは考えなかった。
そして、酒を楽しむ冒険者の服装、身に着けている物、一番目を引く得物を見つめ、冒険者達に問いかける。
「――冒険者って楽しい? 大変??」
エドガーはまだ冒険者が何の職業なのか、何をするのか全く分かっていなかったが、見識を広げる為にも、冒険者達に、そのことを尋ねた。
「え? あ、あぁ。
――まぁ、楽しいかって聞かれると、楽しい時もあるって感じか?? 今は楽しいぞッ!!
大変なのは……、常に大変だな!」
冒険者は最初、エドガーの様子に少し戸惑いつつも、酒場での新しい楽しみを見つけたといった様子で、エドガーの問いかけには快く答えた。
「坊主も冒険者興味あるのか??」
「――あんまりかな…………。
なんか、魔物??とかと戦ったりするんでしょ?」
エドガーは魔物の存在を知らなかったが、鎌をかけるように、冒険者に話題を出す。
「あぁ、勿論!
戦ってなんぼの商売だからな!! 魔物倒して、素材売ったり、ギルドにあるクエストクリアしたり」
お酒のせいも相まって、冒険者は楽し気に話し、エドガーは「ふぅ~ん」と気の抜けた相槌を打ちながら、彼らの話を聞いた。
(ゲームみたいだなほんと……。
ギルドもあって、クエストもあって……。
日本人には、抵抗なく呑み込めてありがたい)
サブカル大国に生まれた望にとって、エドガーと転生しても、冒険者達の常識は、かなり馴染み深い物ばかりであった。
新たな知識はどんどんと、エドガーにすんなりと吸収されていたが、その新たな知識が、エドガーの新たなる好奇心を、湧き起こすまでには至らなかった。
「でも、大変でしょ?
常に危険と隣合わせだし」
「――お前、ホントに四歳児か??
近所のガキなんかは、カッコいいぃ~~ッ!って、俺もなりたい~~ってなるけどな……」
全くもって憧れの視線を向けられない事に、スキンヘッドの冒険者は少し不満げな様子で、ぼそりと呟いた。
「いや、カッコいいのかもしれないけど、痛いの嫌だし……。
体力とかもちゃんと、付けなきゃじゃん。
適正とかもあるだろうし」
エドガーは自分で話していく中で、ある事を、あるお約束を試していないと気づき、おもむろに手を翳し始めた。
エドガーの急な行動に、隣の冒険者男性陣は、奇妙なものを見るように、エドガーの行動を見つめ、エドガーは次の瞬間、大きな声で宣言するように声を発した。
「ステータスオープンッ!!」
エドガーの声は、それなり大きな声であったが、賑やかな酒場では、それほど目立つものではなく、エドガーとエドガーの行動を見ていた冒険者達だけに、奇妙な静寂が流れた。
「――出ないか…………。
まぁ、何でもかんでもお約束通りってわけでもないか」
エドガーは少し残念そうな声を上げた後、すぐに気持ちを切り替え、また無気力そうに飲み物を飲み始める。
「な、なんだ、今の……」
「気にしないで、発作みたいなものだから」
エドガーの行動に、若干引き気味に話す冒険者に対し、エドガーは冒険者の質問をテキトーにあしらうように答えた。
そんな、冒険者達とエドガー達の会話に、エドガーの行動を一部始終見ていたのか、三人の会話に金髪の女性が割って入る。
「――ちょっとッ! ルードにステッドッ!!
エドガーに変な事、吹き込まないでよね!!」
エドガーの母親と思わしき、金髪の女性は、髭を蓄えた冒険者とスキンヘッドの冒険者に注意するように声を上げ、表情は明らかに不満げな、これ以上エドガーに関わるなといった様子で、会話に参加した。
「わ、悪かったよファラ……。
あ、あまりにも聡いガキだったもんで、面白くってな??」
「当たり前でしょ!! アタシとカリスの子供なんだからッ!!
ねぇ~~? エドガ~~??」
屈強な冒険者にも、エドガーの母、ファラはまるで物怖じせず、逆に冒険者の男性陣の方がファラを恐れ、笑顔を引き攣らせていた。
ファラは、ルード達に釘を刺した後、我が子に出れる様にして、満面の笑みを浮かべ、エドガーに問いかける。
(ファラ……、エドガー、この子の母親だよな。
精神年齢が成人男性だからめちゃくちゃ気まずいな……。
――とゆうか、美人過ぎて、母として接しられると超絶恥ずかしい……)
ファラはルード達に注意し、エドガーの顔を一瞬でも見れて満足したのか、繁忙期という事もあり、すぐに仕事へ戻っていった。
「あ、相変わらず、ファラは怖いな……」
「え? 母さん怖いの??」
ファラが退散した事で、ルード達はホッと胸を撫でおろした。
そして、ルードの呟いた言葉に、エドガーもまたルード達とは別の高揚、美人のファラに微笑み掛けられて、ドキドキしている高揚を紛らわせる為にも、ルード達に続けざまに尋ねた。
「あぁ、おっかないね!
ガルバニア王国一おっかない女性だと、俺は思うねッ!!」
エドガーの何となく訪ねた問いかけに、ルードは自信満々に宣言するように答え、ルードの答えに、隣にいるステッドも強く頷いた。
ルードはステッドの頷きに気付くなり、ファラの怖いエピソードを話し始め、ステッドもそんな話をつまみに楽しそうに酒を飲み始める。
会話は一気にファラの話題へと移った中、エドガーはルードの言葉に引っ掛かっていた。
手を顎に当て、何かを考えるような面持ちで、ファラの話題で盛り上がり始めたルードに、再度質問を投げかける。
「ねぇ、さっきガルバニア王国って言ったよね?
ここがそうなの??」
「んあ?? そうだな。
ここはガルバニア王国の下町だな……。
――なんだ、年相応に知らない事もあるじゃねぇか、可愛いな!」
先程まで達観した答えしか返って来なかったエドガーに対して、ようやく子供らしい、無知な部分が見えてきた事で、ルードは楽し気に話し、エドガーの頭をワシャワシャと撫で始める。
エドガーはされるがまま、ルードが頭を撫でるのを止める事無く、続けてルードに尋ねる。
「大陸の名前は? レブカント大陸??
パーム帝国なんて国があったりする?」
「おう!! あるぞ~~。
何なら俺はパーム帝国に行った事もあるッ!!
スゲ~だろ、正に冒険者よ!」
エドガーの年頃らしい質問に、ルードは答えなれてるのか、誇ったように聞いていない事も堂々と答え、気分良く酒をあおる。
そんなルードに対して、エドガーは別の事で頭が完全に支配されていた。
「――知ってる…………。
俺はこの世界を知ってるかもしれない」
ルードの隣で、エドガーは小さく呟いた。




