推しの令嬢、守護します! 1-1
◇ ◇ ◇ ◇
チュンチュンと小鳥の囀りが聞こえ、ほのかに暖かい日差しが窓から差し込み、気持ちの良い朝方。
中世ヨーロッパの雰囲気を感じる、木造建築の二階、一人の少年は、姿見に移る自分の姿を見て、驚愕し硬直していた。
「な……、なんだこれ…………」
少年は見知らぬ天井、見知らぬ部屋にて目を覚ましていた。
慣れない小さな体を起こし、知らないベットから降りると、部屋の隅には姿見が置かれており、そこで自分の姿を認識する事になる。
(ここは何処なんだ?? それに俺は……?
この体は一体??)
色んな疑問が浮かび上がる中で、少年は自分が思い出せる過去の記憶を掘り返した。
最初はすぐに思い出す事が出来なかったが、段々と霧が晴れるように、記憶が鮮明になっていき、自分の過去、上原 望としての過去が、思い返されるようになる。
(――俺は、確か葬式の後、変な通り魔にあって……。
ナイフを刺されながら、トラックに跳ねられたはず……)
望は思い返しながらも、改めて酷い結末だったなと感じつつ、何故自分がこうしてまだ生きており、尚、知らない場所で、少年としているのか理解不能であった。
そして、日本にいた際の知識をフル活用して、この状況に何とか、自分なりの結論を出そうとする。
(俺は死んだ、確かに死んだはず……。
まぁ実際の所、正確には分からないけど、多分、助かってない。
死んだと仮定するならば……)
「異世界転生って奴か??」
日本の様々なサブカル的知識を用い、この超常的な現象に、一つの結論を望は付けた。
(もし仮に、異世界転生をしているのだとしたら、この見知らぬ体、部屋にもある程度は納得付く。
――いや、あるいは夢か??)
望は夢現な現状に、ハッキリさせる為にも、自分の頬をしっかりと抓った。
「――ひたい…………」
頬を抓り、上手く喋れないながらもしっかりと痛みを感じ、思わず声が漏れた。
そして痛みを感じた事で、これが夢ではない事が確定する。
頬を抓った望は、そのまま小さな体を動かし、外が見れる窓まで向かう。
身長が低い体な為、普通に外を覗く事が出来ず、途中、足場に使えそうな椅子を、一生懸命に引っ張り、窓前に設置する。
椅子をよじ登り、ようやく窓の外を望は見る事が出来た。
「凄いなこれは……」
窓の外に見える世界は、日本の景色とはまるで違い、正に別世界の景色であった。
望の居る家は、人通りのある大きな通り沿いに立っており、道は石を敷き詰めたような、石畳な道が整備されていた。
通り沿いには、幾つもの家、店が立ち並び、木造の建築、レンガ造りの建物なんかも見受けられた。
「コンクリート造の建物は、見受けられないな」
望は転生した世界を見て、転生した世界の文化レベルを確認していた。
(日本でよく設定として使われる、中世ヨーロッパ的??な世界なんだろうか、ここは……)
分からない事だらけな状況の中、望は更なる情報を求め、食い入るように外を見つめる。
通りを往来する人々は、望の元居た、現代でも見受けられるチュニックや、アラミスシャツといった物を身にまとっていたが、現代のソレとは似ても似つかない服であった。
まるで劇で出てくるような、そんな中世ヨーロッパの中流階級の人々の服装に、望は興味を惹かれる。
(多分、そんな身分が高い人たちじゃない、一般人みたいな人達だよな?
兵隊みたいな人も見受けられるけど、凄いなこの世界は……)
完全に異世界転生というよりも、タイムトラベルをしている感覚になる望に、今度は別の物が目に入る。
「――な、なんだアレ…………、城か??」
望の家から少し離れた位置、どれ程離れているのか、視覚からでは判断できなかったが、その存在感、大きさは十分に、望に伝わっていた。
明らかに他の建物とは違い、規模もその精錬されたデザインも、何もかもが特別といった様子であった。
(デカい城壁だなぁ~~、街の中に城を守る城壁があるのか。
街の外っぽい方向にも、街を守る壁みたいな物は見えるけど、城には更に、周りに作らせてんだな……)
望の興味は尽きず、キョロキョロと首を回し、途中で窓までも開け、身を乗り出し、外を見ていた。
年端もいかない少年が、そんな行動をしていると、奇妙な光景なのか、通りを往来する大人の視線が数人、望の方へと向かう。
そして、望の元の体の知り合いなのか、望に対して声を掛ける者も現れる。
「お~~いッ! 酒場の息子ぉ~~!
あんま身を乗り出すとあぶねぇ~ぞ!!」
大声で望に向かって、一人の30代程の男が声を掛け、賑わう街ではあったが、望の耳にその男性の声はよく届いた。
望は最初、自分の事を言われているのだと、気付かなかったが、声を掛けた男性が、明らかに望を見つめ、声を上げており、視線が合った事で、自分の事だと認識した。
(酒場の息子……、ここは酒屋なのか??)
酒場の息子と言われた事で、自分の出生を知り、望はこれ以上大人を心配させないよう、窓から身を乗り出すのを止め、注意してくれた大人の男性に、大きく手を振り、それに答えた。
望が手を振った事で、声を掛けた男は気を良くしたのか、笑顔で手を振り返し、自分の用事に戻る様に、歩み出した。
「――良い街かもな」
望は外から吹き込む風を感じながら、ぼそりと一言、呟いた。
そんな行動を取っていた望に、大きな音を立て、慌てた様子で一人の女性が、望の部屋に入ってくる。
「エドガーッ!!!」
バンッと強く扉を開け、髪を乱しながら入ってきた女性は、綺麗な女性であり、20代前半から半ばのくらいの見た目をした、若い女性だった。
「エドガー??」
女性の声に、望は首を傾げた。
(俺の事か? とゆうか、この綺麗過ぎる女性は??)
扉を開け入ってきた女性は、金色の長い髪を後ろで束ており、首を傾げる望に向かって一直線で、歩いて向かってくる。
望に手の届く距離まで移動すると、金色の髪の女性は、その豊満な体で、一気に望を抱きかかえる。
「うわぁッ!!」
急な出来事に、望は反応できず、女性に成すすべなく抱かれ、椅子から降ろされる。
「もう!! お客さんに聞いて、驚いたわよッ!!!
まさか、窓から身を乗り出そうとしてるなんて!」
望は椅子から降ろされた後、続けざまに女性に強く抱きしめられ、女性の大きな胸が顔面へと押し付けられ、息苦しい状況になる。
(くッ! 苦しいッ!!)
中身が成人男性の望であったが、美人に抱き着かれた事の嬉しさよりも、苦しさが勝ち、振りほどけない望は、何とかこの状況が早く終わる事だけを祈った。
そして、苦しい中でも望は、先程の女性の言葉から思考を回す。
(この女の人、エドガーとか言ってたよな?
もしかして、俺のこの世界での名前……、何ならこの体の持ち主の名前か??)
少しずつ新しい情報を入れつつ、望はこの世界について、見識を広げていった。




