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【悪役令嬢救済】推しの令嬢、守護します!  作者: 下田 暗
第0章 プロローグ

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推しの令嬢、守護します! 0-2


(やばい死ぬ!)


致命傷なのは、見なくても分かる程に、背中には激痛が走り、既に立っている事すらのぞむは、困難な状況だった。


タックルを仕掛けた望が、半ば刃物を刺してきた男に体重を預ける形になっており、組み付くと言うより、もはや寄りかかる形へと、体勢は変わりつつあった。


刃物を望に刺した男は、望に力が抜けていくのが分かったのか、望を横に放り投げるように、望の体を自身から剥がした。


「――ぐッ!!」


望は地面に叩き付けられ、依然として続く背中の痛みに、顔を歪める。


望が起き上がって来れない事を、男は確認すると、望に突き刺さる刃物をそのままに、自分の黒いローブのような大きなコートから、もう一丁、刃物を取り出した。


まだ意識がはっきりしている望は、その男の行動に驚愕する。


刃物をもう一度手にし、再び、男は少女の元へとゆっくりと歩みだす。


「や、やめろッ……」


望は出しずらくなっている声を振り絞り、まだ動く両手で、男の足を掴む。


望の行動に、刃物を持つ男は微動だにせず、足を強く振るい、掴んだ望の手を振り払う。


望の手は、簡単に振り払われ、刃物を持つ男を止める事すら出来なかった。


そして、少女に向かって、刃物を持つ男は歩み始める。


(く、くそッ!! か、体が動かない!!)


望はもう自力で立ち上がる事は困難であり、這うようにしてしか、刃物を持つ者を追えない状況だった。


背中に受けた傷が致命傷であり、依然として背中には刃物が深々と突き刺さり、ドクドクと血を流していた。


傷の深さのせいか、ハッキリとしていた視界は段々とボヤけ、しかし、痛みのせいか、常に激痛が体に走り、脳だけが生きてるような、神経だけは活発に動いているような、そんな感覚が望にあった。


そして、そんな自分を俯瞰し、自分の命も助からない、長くはないのだと、そんな事も実感する。


(こんな事で、こんな所で俺は死ぬのか……?

夢も叶えられず、奏に対しての償いも出来ずに?)


いじめで死んだ奏の為、奏のような子供を救う為、望は教員を目指し、そして、望は生きている内に出来る贖罪がそれだけだと、そんな事だけを考えながら、奏が死んだあの日以降、ずっと生きていた。


(誰も救えてない……、未来でも、あの日でも……。

そして今、この瞬間もッ!)


望の思考は、あの日の懺悔から来るものばかりであり、奏への申し訳なさから、次第に目に涙が浮かぶ。


奏が死んだその日以降、久しく涙を流していなかった望だったが、望の目から、溜まった涙が零れ始める。


「――た、助けないとッ! あ、あの子だけはッ」


望の視界には、怯える少女と、刃物の男だけが移り、立ち上がる為にも、体に力を入れる。


しかし、望の思いとは裏腹に、望の体は限界を迎えていた為、体に上手く力が入らず、立ち上がる事は困難であった。


立ち上がろうと懸命に、両手で地面を襲うとするが、上半身が少し地面から離れるだけであり、遂に、刃物を持つ男は、少女の目の前へと到着する。


(ま、間に合わないッ!!)


男はゆっくりと刃物を少女に構え、少女は助けを求める為か、周りを見渡し、立ち上がろうと藻掻く、望と目が合った。


「――助けて……、お兄ちゃん」


少女は絶望を感じる程の恐怖の中、望に弱々しい声を上げ、望から見た少女は、怯えて涙を浮かべる少女の顔が見え、少女の上げた弱々しい、助けを求める声が望の耳に届いた。


少女の顔と声を聴いた瞬間、望は覚醒したかのように、今まで上手く動かせなかった体が動かせ、力を上手く伝え、よろめきながらも立ち上がる事が出来た。


「うおおぉぉぉぉぉぉぉおおおおッ!!」


望は刃物を持つ男の位置、その背後を確認すると、またもや刃物を持つ男に突進を仕掛ける。


刃物を持つ男の標的を自分に変える為、望は大声を上げながら、男に向かって走り出し、単調な突進と、注意を引かされた事で、望の突進に余裕綽々で、男は構える事が出来た。


刃物を持つ男は、突進してくる望の腹部に、刃物が刺さる様に刃物を構え、望もその事には気が付いていたが、微塵も気にする事無く、むしろ自ら刃物に刺さる様に、一直線に男へと激突した。


「――ん゛ん゛ッ!! うおおぉぉぉッ!!」


激突した瞬間に、望の腹部へ刃物は突き刺さるが、望は痛みを堪え、一気に男を押し、今度こそタックルを成功させる。


完全に火事場の馬鹿力であり、一度止めた事から、刃物を持つ男は、望の突進を舐めていたが、望は自分の体ごと押し込み、望の考えた通り、男を車道へと吹き飛ばす。


車道には当然、車が多く交通しており、幸いにも信号までの距離が長い車道であり、スピードを出す車が往来していた。


「チッ! お前ッ!!」


突き飛ばす最中、刃物を持つ男も、望の考えに気が付いたのか、舌打ち交じりに声を上げるが、既に時遅く、男と望の運命は既に決していた。


刃物を持つ男と車道へと飛び出る望は、横目でこちらへと向かってくる大型トラックを目視し、自分がやり遂げた事を察する。


(――これで、少しは奏も見直してくれるかな……。

そして、これが薄情な兄に与えられた罰)


車道に飛び出た刃物を持つ男と望は、次の瞬間、大型トラックに跳ねられ、男と望は大きく吹き飛ばされる。


トラックに吹き飛ばされた望は、地面へと叩きつけられ、その衝撃で、腹部と背中に刺さっていた刃物は抜け、車道で仰向けで倒れこんだ。


もう指一歩動かせない状況で、途切れ行く意識の中、救急車とパトカーのサイレンが街中に響き渡り、周りの音が聞こえずらくなってきた望にも、その音は届いた。


(よかった、もう多分大丈夫)


サイレンの音を聞く中で、望はゆっくりと目を閉じ、その時を待った。


「刃物で暴れてた奴! 今なら抑え込めるぞ!」

「今だ!! 押さえろ!! 男は手伝え!!!

車に引かれて弱ってるから、そのまま警察来るまで押さえつけよう!」

「おいッ! あんた大丈夫かッ!!

すぐに助けが来る! 頑張れ! 耐えるんだぞ!!!」

「こっち!! こっちよ! 車道に倒れてる人を優先して!

まだ生きてる!!!」


多くの人の声が望に聞こえる。


「――お兄ちゃんッ! お兄ちゃんッ!!

ありがとう! ありがとうッ!!」


倒れた望の手を、小さな両手が包み、ひたすら望に感謝の声を届ける者もいた。


(最後に救えた……。

目の前で助ける者の命を……。

――――ごめん奏……、不甲斐ない兄で……、あの時、気付いてあげる事が出来なくて)


目的を達成できた望は、少しだけ達成感を感じる事が出来たが、やはり最後に思う事は、奏への懺悔であり、後悔であった。


そして、そんな少女の声を最後に、望の意識は完全に途切れた。


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