推しの令嬢、守護します! 0-1
◇ ◇ ◇ ◇
墓参りを終えた望は、車に揺られ、父である雅の運転で、自宅へと向かっていた。
家族の中に会話は無く、雅は運転に集中し、母、香は、携帯を操作していた。
望は特に何かをするわけでなく、過ぎ去る景色を呆然と見つめていた。
「「お兄……、ちょっと話があるんだけど……、今、いいかな??」」
墓参りに行くと必ず、望は奏との最後の会話を思い出す。
奏は命を絶つ前、何かを望に相談しようとしていた。
しかし、望は大学受験の為、最後の佳境へと入っており、奏の相談を断っていた。
そして、奏が何を相談しようとしていたのか、彼女の死後、望はその内容を知る事になる。
(――あの時……、優しい奏が唯一、誰かに救いを求め、懸命に手を伸ばしていたあの時、その手を取れていれば、変われたんだろうな)
同じ場面での後悔を、もう何十回も繰り返し、今もまた、望はその光景を鮮明に思い出しながら、同じ後悔をし始める。
上原 奏は、学校でいじめを受けていた。
高校一年になり、きっかけは些細な事だったが、最初はほんの数人、イジる様な形で始まり、次第に学校での奏のキャラクターは、イジられ役へと確立される。
そして、高校一年の7月頃には、体育祭という高校の一大イベントを経て、各々小さなコミュニティを作っていた高校生達は、段々と様々な、別のグループと合流し、大きなコミュニティへと変わった。
ほんの数人に認知されていたイジられ役は、クラスの共通認識へと変わり、イジりは過激に、いじめへと変わる。
望は奏のその死後、学校内の調査により、奏が普段受けていた、あるいは一部の同級生から受けた過激ないじめの内容を聞きいた。
その内容は聞くに堪えない程、酷いものであった。
奏を思い返す中で、奏の高校の教員達から、謝罪とその調査報告を聞いた瞬間まで、望は思い返し、一機嫌な感情までも蘇った。
望は奏の高校生活での想像までもしてきた為、一旦、思いに耽っていた思考を切り替えた。
(『LOVERS2』もやらないとな~~)
奏が楽しそうにしていた瞬間、好きだった物を思い返し、望はそんな事を考えた。
『LOVERS』をプレイしていた望は、自然と本編の内容も思い返された。
そして、自宅に向かう途中の町、香が思い返したように声を上げる。
「――あッ! 今日、買い物行きたいと思ってたんだ。
お父さん、何処かスーパーに寄れない?」
「スーパー? 何処でもいいの??
何処でもいいなら、ここから近い、坂木原駅の近くに大きなスーパーあるけど」
「あ~~、そこでいいよ」
香の提案により、急遽寄り道をする事になり、事の成り行きを聞いていた望は、駅に向かった後の暇つぶしを考え始めた。
そして、すぐに目的地へと到着し、望は結局、何処で時間を潰すか纏まる前に、駅近くで過ごす事となる。
「じゃ、30分?20分くらいで戻るから、どっかに行くなら、アンタもそのくらいで戻りなさいよ?」
香はそう一言告げると、雅と共にスーパーへと向かい、車の中にいるのも微妙だと感じた望は、適当にフラつく事にした。
駅前は賑わっており、田舎でも無かった為、様々な店が望の興味を引いた。
フラっと本屋に出向いて見れば、商品をテキトーに眺め、ゲームセンターに赴けば、プレイするわけでもなく、筐体を眺め、時間を潰した。
そうしてぶらつく中、時間を程々に潰せた望は、家族と合流するために、車が止めてある駐車場へと向かう。
(何だかんだ、フラフラしてるだけでも時間は潰せるもんだな)
家電も見に行こうと、電気屋すらこの後、フラつくつもりでいた望だったが、時間も差し迫った為、電気屋は諦めていた。
そんなことを考えている望に、不意に意識外から、女性の大きな悲鳴が耳に届く。
騒がしい町ではあったが、女性の悲鳴は、その場では異様であり、望を含めて、悲鳴を聞いた街中の人々は、声のした方向へと視線を向ける。
悲鳴の方向には、人溜まりが少し出来ており、望からは、何が起こっているのか、少し分かりずらかったが、すぐにその状況が明らかになる。
人だかりから、人々を掻き分けるようにして、何処かへ逃げる人が数名見え、段々と人が件の場所から減っていく。
逃げ惑う人を見て混乱する人、逃げ惑う人を見て、同じように、状況が分からない様子ではあったが、便乗して逃げる人、人混みが減ったことで野次馬をし、最初に逃げた人と同じものを見たのか、血相を変え、同じように逃げ出した。
望はその場に立ち尽くしながら、行く末を見据え、段々と状況を理解する。
(な、なんだあれ…………)
望が見た光景は、異様なものだった。
大人が6,7名倒れ、じっと動かない者、地面を這うようにして、その場から離れようとする者、誰かに助けを求めるかのように手を伸ばす者、様々な人が見て取れた。
(血……?)
倒れ込む大人の次に、望が違和感を感じたのは、地面や辺りの景観を良く見せる為の木や、街路沿いの草花に血痕のような、赤い液体が飛び散っていた。
望がそれを血痕だと認識するのには、少し時間が掛かり、あまりの異様さに思考が追い付かなかった。
(なんだ? な、何がどうなってッ……)
その場から少しずつ後ろず去りし、思考が纏まっていないながらも、体にだけは逃げる判断を下していた。
そして、その光景に目を離せず、後ろず去りし始めた望に、ある人物が目に留まる。
(あ、あれ…………、何して……)
倒れ込む大人たちの中、一人立ち尽くす、成人の男と、その近くに逃げ遅れたのか、一人の少女が座り込んでいた。
望はある考えが過るが、あまりに現実的でなく、痛まし過ぎるその考えを、信じたくはなかった。
そしてそんな、悲痛な望の予感は、立ち尽くす男の右手に光る、ある物により確信へと変わる。
「――刃物……」
望は震えた声でそう呟き、男の手に持つソレから目が離せなかった。
後ろず去りすら止まり、完全に硬直し、立ち尽くす望に対し、状況はどんどんと悪い方向へ向かう。
逃げ遅れた症状は、座り込んだまま、男を見上げ硬直してしまっており、今まで空を見上げるようにして、呆然と立ち尽くしていた男は、その座り込んだ少女に気が付いてしまう。
どんなに察しの悪い人間であっても、そんな状況を見れば、次起こる展開は予想付き、望も最悪の想定が脳裏に過る。
刃物を持った男は、ゆっくりと少女に向け歩みを進め、少女の表情は一気に恐怖で引き攣る。
「――だ、ダメだ…………」
男の行動に、望は恐怖を感じながらも、衝動的に体が少しずつ動き始める。
「や、やめろぉぉおおおおお」
望は自分への被害を省みる前に、すぐに行動に移り、一直線に刃物を持つ者へ走り出す。
望の叫び声に、少女は反応し、座り込んだ少女と望は、不意に視線が合った。
始めて見た少女の顔は、大粒の涙で濡れており、依然として表情からは、恐怖の色が消えていなかった。
そして望の行動に驚いたのか、目を丸くし、刃物の男へ向かっていく望を、驚いた様子で見守り、望は歩み寄る男に対して、体制低く、腰元にタックルするように激突した。
「――くッ!」
望は走った勢いのまま、刃物を持った男を突き飛ばすつもりだったが、刃物を持った男は、望の思っていたよりも体感があり、5、6歩よろけただけで、転倒するまではいかなかった。
そして、望も完全に吹き飛ばすつもりだったが為に、限界まで男を押してしまい、途中でタックルを止められてしまった。
望は意図せず、腰に組み付いた状況で、男と密着状況になった。
(や、やばッ)
旗から見ても、望の状況は最悪であり、望は次の瞬間、当然の反撃を貰う事になる。
「――――ぐッ!! いい゛ッ!!!」
望は声にならない悲鳴を上げ、背中には強い衝撃と激痛が走る。
組み付いている望には見えなかったが、見なくとも自分がどんな状況であり、何をされたか理解できた。
「いやぁぁあああああッ!!!」
再び、一部始終を見る人達から大きな悲鳴が上がり、その声は望にも届いた。
刃物を持った男は、望のタックルを耐えきった後、片手に持っていた刃物を両手に持ち替え、力強く望の背中に突き刺していた。




