推しの令嬢、守護します! 1-10
「――ほぅ、今日も黒髪の少年が接客してくれるのか??」
カリスの酒場に訪れた貴族の老翁は、エドガーが嬉々として接客しに来た事から、嬉しそうな声を上げて、エドガーに尋ねた。
「はいッ! 勿論ッ!!
母とアリスは、この国随一の看板娘の為、中々忙しく……。
力不足で大変恐縮ですが、精一杯、やらせていただきますッ!」
「お、おいッ! エドガーッ!!
――す、すみません、すぐに慣れたファラを呼びますので、少々お待ちを……」
反応が早かったエドガーに遅れ、既にやり取りを始めてしまった、エドガー達の会話に割り込む形で、カリスはエドガーを注意しながら、老翁に謝罪した。
「いや良い、亭主よ。
――それよりも、今日は個室を借りたいのだが、あるかな??」
「個室ですか……?? 今ならまだ空いておりますけど……」
「そうかッ! なら、借りられないだろうか?
勿論、予約なんかがあったりするなら無理は言わん……。
――それと、大変我儘で申し訳ないのだが、そこの黒髪の少年もお借りしたい」
老翁の提案に、カリスはポカンとした表情を浮かべ、エドガーも驚いた表情を浮かべ、親子はお互いに顔を見合った。
一瞬、エドガーと視線を合わせたカリスは、再び老翁へと向き直る。
「よ、予約はありませんので、問題なく使って頂いて大丈夫です。
ウチの店は、個室はありますけど、利用するお客さんは殆どいないので……。
それよりも、ウチの息子を借りるとは、どうゆう事でしょう?」
「いやなに、この間少年と話して、とても楽しい時間を過ごせたからなッ!
彼にまた接客と、オススメの料理を配膳してもらいたい。
――勿論、我儘を言っている身だ、金額は弾もう」
「い、いえいえッ! ふ、普通の代金で構いません。
――え、エドガーはまだまだ未熟な所があります。
お客様に阻喪をしてしまう事があるかもしれませんが……」
「構わん構わんッ! 何を言われたとしても、子供の戯言よ。
罰する事など絶対にしないと約束しよう」
貴族の老翁から約束をされた事で、これ以上カリスが心配を口にする事は出来ず、老翁を信じて、エドガーが接客する事を許した。
「不都合あるかもしれませんが……、どうぞよろしくお願いします」
店の亭主であるカリスが、お客様の老翁に頭を下げるという、異様な光景が酒場で見受けられたが、カリスの態度に老翁は、真剣な面持ちでしっかりと返事を返し、エドガーが老翁のアテンドをする事が決定した。
エドガーは言われるがまま、老翁達を個室へと案内し、部屋に付くなり、老翁とレアリーはテーブルに据えられた椅子に腰かけた。
「――さて、今日は何を頼もうかな……」
楽し気に話す老翁に対し、レアリーは一言も言葉を発する事無く、エドガーに対し敵意の様な、冷たい視線を送っていた。
レアリーの視線が気になったエドガーだったが、そんな事よりももっと気になる事があった為、すぐに腰を下ろした老翁に尋ねる。
「あ、あの~~、何故、私のご指名で??
確かに、やる気満々の姿勢は見せましたが、まさか個室に入られたお客様の対応をするまでとは、思っておりませんでした」
エドガーは、老翁には気に入られている節が見受けられたが、連れのレアリーが明らかに不満を漂わせていた為、本当に接客する事になるのは、ファラになってしまうと予想していた。
カリスに止められるかのどちらかで、自分の仕事は無いだろうと予想していたエドガーは、自分の望むような展開に、老翁自身が持っていった事を不思議に思っていた。
「なに、こないだの酒場が楽しかったからなッ! なるべく同じ条件で今回も楽しみたいのだ。
――レアリーも気に入ってるしな」
「御じい様」
老翁の言葉が気に入らなかったレアリーは、釘をさすように、冷たく言葉を発した。
レアリーの行動から、エドガーは思わず苦笑いが零れ、付け入る隙がまったく無い事に、少し絶望感を感じた。
「まぁ、まずは飲み物を貰いたいな。
ビールと何か、甘い飲み物……」
「レモンティーを。
この間、ここで飲んだ物です」
老翁は自分の飲み物と、レアリーが好みそうな飲み物を考えながら発言するが、レアリーは老翁の言葉を遮り、レアリー自身の口から注文をした。
「少年。
では、ビールとレモンティーを頼む」
「はいッ、かしこまりました」
飲み物だけの注文であった為、エドガーはすぐにそれらを用意し、老翁達のテーブルへ運んだ。
「こちらご注文の品になります」
エドガーは老翁達の前に、頼まれた商品を置き、老翁達は喉が渇いていたのか、間髪入れずに飲み物を口にした。
「かぁ~~ッ! 美味いッ!
こんな時間に飲む酒は最高だ~~」
老翁は気持ちよくビールを飲んだ後、満面の笑みで美味しさを口にし、レアリーは老翁のように言葉には出さなかったが、粛々とレモンティーをたしなんでいた。
喉の渇きを癒した老翁は、エドガーへと向き直り、エドガーに語り掛ける。
「――さて、少年。
ここ数日、色々とこの国を回ったが、中々興味が付きんでな……。
ここに住む者達から、話を聞いたりするのが面白く、少年にも世間話に付き合って貰いたいんだが、よろしいかな?」
始めて来店した時の老翁は、飄々とした雰囲気があり、貴族でありながら親しみ易さがあったが、今目の前で話す老翁にはそれが薄れ、仰々しく、エドガーの目にも、老翁の厳格さが見て感じ取れていた。
本腰を入れて話そうとする老翁に、エドガーは息を飲むが、断る理由も無い為、老翁の提案にはすんなりと乗る。
「お、面白い話は出来ませんが、宜しいですかね?」
「構わん構わんッ! こちらから幾つか質問させて貰うだけよッ!!
――ただ…………、まずは料理だなッ!
この間食べてない物が良いな……、何品か見繕ってくれぬかな?」
「承知致しました」
エドガーは老翁に頭を下げ、個室から出る。
(――なんだか、こないだと雰囲気が違うな……。
レアリーの爺さんって事は、パーム帝国の貴族だよなぁ~~。
なんで、俺に世間話??)
個室から出て、カウンターに戻るエドガーは、疑問を纏め、考察を始める。
(レアリーの爺さんって確か、旅行好きとかなんとかって……、そんな設定があったよな?
――まぁ、こないだこんな酒場に訪れた事から、何となく思い出したってレベルの小さな設定だけど、確かあったはず……。
旅行好きって言うのは、確かに嘘は無いんだろうけど、旅行しながら他の国の調査なんかもしたりしてたのかな?
食えない爺さんだったみたいだし)
エドガーは『LOVERS』の設定を、一生懸命に思い返した。
(ガルバニア王国の調査。
まぁ、俺に愛国心は無いから、有利に働くならペラペラと、ある程度喋ってもいいな。
――と言っても、ガキンチョの俺が知ってる事なんて、大した事ないものばかりだけど)
老翁の珍しい雰囲気に押され、エドガーは少しだけ警戒心を持ったが、ゲームの知識ならいざ知らず、子供の知り得る国の情報など、たかが知れている為、警戒心をすぐに緩めた。
料理はすぐに出来上がり、エドガーは老翁のテーブルを料理で埋め尽くした。
「ほう……。
これはまた珍しい」
エドガーの出した料理に、老翁は目を輝かせ、フォークを手に取った。
そして、老翁は料理に手を掛けると思いきや、エドガーへと向き直り、真剣な眼差しで、エドガーに対して質問を投げ掛ける。
「――して、この料理はいかようにして作り出せたのかな??
誰の発案か?」
老翁の言葉に、一気に部屋に緊張感が流れた。




