推しの令嬢、守護します! 1-9
老翁とレアリーの来店があったその日、カリスは店を閉めるなり、妻のファラを集め、会議を始めた。
「――なるほど……、エドガーがかなり面倒を見てるお客様がいるなぁ~って、見てたけど、そんな事が……」
ファラは忙しい酒場で、他のお客を対応していた為、エドガーと貴族達とのやり取りには気付いておらず、事の出来事を店が終わってから、初めて知っていた。
「良くやったわ、エドガーッ!!
凄いわねぇ~~、自慢の息子~~~ッ」
事の流れを知ったファラは、カリスとは違い、エドガーを絶賛し、エドガーを強く抱きしめた。
「――ウ゛ッ! く、苦しッ……」
ファラと同じように会議に参加していたエドガーは、ファラに強く抱きしめられ、圧迫感で息苦しさを感じていた。
「ファラ~~、喜べることなのかぁ~~?
また来ると仰ってたぞ? 御仁は……」
「あら? 良いじゃない??
気に入ってくれたって事でしょ?
――貴方とエドガーの努力の賜物じゃない~~! ねぇ~~、エドガ~~??」
頭を悩ませるカリスに対し、ファラはエドガーに笑顔を向けながら、依然としてエドガーを開放する事なく、前向きに答えた。
「今回は偶々、運よく何事も無かったが、阻喪があれば、最悪命を落とす事もあるんだぞ??
平民が貴族と関わるって事は、そういう事だ……。
成功する事が重要なんじゃない、失敗しない事が重要な世界なんだ」
真面目に話すカリスに、まだまだ世界への理解が浅かったエドガーは、カリスの言葉に関心した。
(成程な……、一般市民の感覚としては、カリスの意見が正しいんだな。
――ゲームじゃ、主人公や一部のキャラを覗けば、殆どが貴族や皇族だったから、その感覚は考えた事があんまり無かったかもな……。
まぁそりゃそうか、阻喪をすれば一発であの世行きって事もあるよな)
エドガーは一応丁寧に、老翁達に接客したつもりだったが、貴族相手に失敗しない事ではなく、貴族社会で何が好まれるのか、その事だけを考えて行動を取っていた為、少しだけ自分の無鉄砲さを反省した。
「でも父さん、もうああいう風に対応しちゃったし、これからもそうするしかないんじゃない??
幸いにも、まだまだ試してない料理もあるわけだし?
きっと満足してくれるよ!」
「だといいんだけどな……」
エドガーは既にやってしまった事をすんなりと受け入れ、まだまだ踏ん切りが付かない、カリスの背中を押すように話した。
「そういえば、名前を聞いてないよな?
お忍びだし、下手な詮索はするなよ? エドガー」
「あ~~、まぁ、自分からはしてないよ? 直接聞いたりみたいな事は……。
ただ、お爺ちゃんはレアリーとかって言ってたかな」
「レアリー?? 聞いたこと無いな……。
ガルバニア王国の皇族にいるか?」
エドガーは情報を共有する為、すぐに貴族の名前だと思える名前を、カリスに伝えた。
エドガーが発した名前に心当たりがないカリスは、エドガーを抱きかかえるファラに尋ねる。
「レアリー……、聞いた覚えないわね~~。
ガルバニア王国の皇族様、お貴族様じゃなさそう。
他国の方じゃない??」
「他国……、自国も厄介だが、他国はより厄介だぞ……」
ファラの言葉を聞き、カリスは又もや不穏な空気を漂わせる。
(レアリー……、ガルバニア王国で聞きなじみが無いなら、俺の知るあの令嬢である可能性が高いな……。
僅かに見えた瞳の色も、俺のよく知る人物のそれを一致してる……、まぁ十中八九当たりだろう)
レアリーの名前に聞き覚えの無いファラとカリスを見て、エドガーは一人の人物を思い浮かべる。
(『オルレッド レアリー』……、貴族の中でも超大物だッ!
ガルバニア王国とも交流のある、パーム帝国。
そのパーム帝国の中で随一の権力を持つとされている四つの大貴族。
四大貴族の一つ『オルレッド家』、その令嬢、レアリー嬢。
――そして、『LOVERS』における悪役であり、目的の人物であるレアリー嬢ッ!)
エドガーは改めて、自分の運の良さに興奮し、幸先の良いスタートに、高揚感を感じていた。
(貴族の好みを知ろうと思ってたけど、色々をすっ飛ばし、レアリー嬢の好みを直接知れるかもしてないとはッ!!
ゲームでは悪役である事から、レアリー嬢の好みなんて知るすべが無かったけど、これならチャンスがある)
「ものにせねばッ」
エドガーは興奮のあまり、思わず心の声が駄々洩れ、エドガーの言葉を聞いたカリスは、冷たい視線を飛ばした。
「もう余計な事はしちゃ駄目だぞ、エドガー」
「――わ、分かってるよ? 父さん」
カリスの雰囲気から、冗談じみたものは一切感じられず、本気ぶりから、エドガーは慌てて、変な事を考えてはいないと伝えた。
◇ ◇ ◇ ◇
老翁とレアリー嬢が訪れてから三日後、また来ると話した老翁はすぐには再来店しなかった。
「――来ないねぇ~~、お貴族様」
比較的お客の居ない時間帯、お手すきになったエドガーは、カウンターの椅子に腰掛け、小休憩をしながら、父カリスに話した。
「来ない事に越した事はないよ。
――ウチよりも好みの店を見つけたんだろう……」
「えぇ~~ッ!? ウチより良い店ぇ~~??
無いよ??? 冗談じゃなく」
お貴族、ひいてはオルレッド・レアリーの好みを知りたいエドガーは、不満げな声を上げた。
「ウチは冒険者や商人、農民といった労働者が足繫く酒場なんだから、お貴族様が来る所じゃないんだよ?」
「えぇ~~、でも、最近の評判は凄いじゃん!?
お客さんは凄い多いし、増えてるし……。
お客さんの中には、高級飲食店、レストランよりも美味いって言う人もいるよ~~?」
「お酒が入ってる、戯言だよ。
確かにエドガーのお蔭で、目新しい料理は凄い増えたけど、結局は目新しいだけ。
伝統のある宮廷料理や、高級料理には負けてしまうよ。
食べただけで、ステータスなんだから」
「食べただけで???
まぁ、自慢にはなるのか~~。
なんか、つまんないね」
エドガーは貴族を再び相手にするという事で、身構えていた事もあり、その可能性が段々と無くなってきていると知り、完全に腑抜けになりつつあった。
砕けた様子で、裏表無くハッキリと話すエドガーに、カリスは大きく溜息をつく。
「エドガー……、絶対にやんごとなき人の前で、そんな事を言っちゃいけないよ??
これから先、長い人生の中で、偶然に何度か見える事もあるんだから、失礼を言わないように気を付けておかないと」
「分かってるよ……。
気を付けます」
エドガーはそう言って、腰かけていた椅子から離れ、仕事に戻ろうとした。
エドガーが椅子から立つと、丁度、新たな客が来店する。
「いらっしゃッ…………」
お客への挨拶が染みついてきたエドガーは、来店に気付き、声を上げるが、言葉は最後まで続かなかった。
「はっはっはっ~~、また来てしまったぞぉ~~」
店に来るなり、その来店した客は、エドガー達に笑顔を見せながら話しかけ、エドガーはその来店した人が誰なのか、すぐに察しが付いた。
「いらっしゃいませッ!!
お待ちしておりましたよぉ~~~ッ!!」
「おいッ、バカッ……、エドガーッ…………」
今まで若干腑抜けていたエドガーは、一気に機嫌を取り戻し、そそくさと接客に向かうエドガーをカリスは制しようとするが、カウンターを挟んでいた為、エドガーを止める事は出来なった。
エドガーはカリスの声が聞こえたが、聞こえなかったフリをして、来店した客、依然訪れた貴族の老翁とレアリーの元へと向かった。




