推しの令嬢、守護します! 1-8
◇ ◇ ◇ ◇
「いや~~、どれも興味深く、美味かったッ!
――とても、楽しい時間だったよ。
少年! ありがとうッ」
エドガーの父、カリスが経営する酒場に訪れた、貴族の老翁は、とても満足いった様子で、エドガーに礼を言う。
「ど、どうも……、ありがとうございます。
とても光栄です…………」
とても嬉しそうに話す老翁に対し、エドガーは称賛されたにも関わらず、表情は浮かなく、営業スマイルを取ってはいるが、笑顔は引き攣っているようにも見えた。
エドガーの言葉に老翁は笑い出し、老翁と一緒に訪れていたレアリーと呼ばれた少女は、そっぽを向き、一言も発していなかった。
レアリーに、コーヒーゼリーを否定されたエドガーはその後、意気揚々で様々な料理を老翁達に配膳していた。
貴族だという事は分かり切っていた為、様々な料理を試し、どの料理がウケが良いのか、傾向を摘まもうと試みていたエドガーだったが、珍しい料理に喜ぶ老人の姿しか、得られるものは無かった。
(結局、不味いしか言われてない……。
――貴族の令嬢の好みを、この子を通じて理解しようとしたんだけどな……)
依然として、エドガーを一切見ないレアリーを見て、エドガーは目的を達成できなかった無念と、料理人では無かったが、形容しがたい敗北感を感じていた。
「少年……、落ち込む事は無いぞ?
しっかりと料理は、美味しかった!
――亭主もありがとう」
営業スマイルを取り繕うエドガーを見て、老翁はエドガーの心情を察したのか、フォローを入れ、エドガーと同じくお客様の退店を見送る為、居合わせていたカリスにも礼を告げた。
老翁とレアリーの相手をしたエドガーは、コーヒーゼリーの一件を終えてすぐ、カウンターで仕事をするカリスに、客人がやんごとなき方々だと言う事を伝えていた。
「こちらこそ、ありがとうございます。
大した見送りも無く、申し訳ございません」
「亭主……、気にするな。
一応護衛が付いてはいるが、仰々しく連れまわしてる訳ではない。
――お忍びで来ているのだ……、元より気付かれない前提で此方も観光している」
頭を下げるカリスに対し、老翁は寛大な対応をし、貴族だと気付かれるつもりは無かった為、気付かれてしまった事に驚き、口にはしなかったが、気付かれる要因になったエドガーを一瞥した。
老翁は何故、酒場にバレたか分からなかったが、既に老翁の目には異質に見えている、目の前の少年、エドガーが関係しているのではないのかと、そう考察した。
「暫く、滞在するのだが、ここを何度か利用させて貰ってもいいかな?」
酒場の料理もさることながら、エドガーにも興味がある老翁は、カリスに尋ねるが、カリスの返事は快い二つ返事では無かった。
「こんな町の酒場で宜しいので?
事故の様なものでありますが、お二方の身分も、察しが付いておりますし……」
「ここが良い。
――レアリーも気に入っているしな」
心配するカリスに対し、老翁は100%の本音で答え、付け加えるようにレアリーの心情も勝手に口にした。
老翁の言葉を聞き、レアリーは当然、不満げに会話に口を挟む。
「気に入ってませんッ!!
酒場なんて、煩くて落ち着いて食事も出来ませんし……。
世間知らずの生意気な子供もいますし」
本音で酒場がいいと話す老翁に対し、レアリーもまた本音で答え、最後にはエドガーを遠回しに侮辱した。
(世間知らずはどっちだよ……、浮世離れの貴族様が…………)
レアリーの言葉に、エドガーも内心、ムッと来るものがあったが、営業スマイルは崩さず、レアリーに微笑み掛け、エドガーの笑顔を見て、レアリーは増々機嫌を悪くした。
「まぁまぁ、レアリーよ。
デザート種類は、他の店と比べても随一だったぞ?? この店は……。
何なら今日出してない物だってッ…………」
宥める老翁に、エドガーはココだと言わんばかりに、会話を遮り、割って発言する。
「そうですッ! お客様ッ!!
まだまだ、お客様の口にしていない料理、デザート、様々ご用意しております!
少々趣向の強いお客様でも、きっと気に入る料理が出せるかと……。
――ね? 父さんッ!?」
滅多に会えない貴族に、エドガーは逃がさんと言わんばかりに、酒場をプレゼンし、世間知らずのガキと言われたのを、根に持ったのか、エドガーも少しだけトゲの付いた物言いで、老翁に提案した。
最後には、あまり乗り気ではない父、カリスに同意を求め、エドガーのそんな姿勢が気に入ったのか、老翁は又もや、歓笑し笑みを零した。
「――ホントに面白い少年だッ。
亭主、君が気にすることは無い、私らが来ても普段通りの営業で構わん。
また来るよ」
老翁は最後にカリスにそう言い残し、レアリーと共に酒場から去っていった。
「結局、何も分からんかったな……。
どれがウケるんだろうか」
酒場から去っていく老翁とレアリーを見送りながら、エドガーは残念そうにポツリと呟き、そんなエドガーに対し、優しく痛みの全く感じないゲンコツが飛んでくる。
「いてッ」
衝撃だけはエドガーに伝わり、エドガーは感嘆詞を発した後、カリスを見上げる。
「エドガー……、事故とはいえ、相手はお貴族様なんだぞ~~?
平民の俺達がづけづけと、発言していいわけないんだから」
「でも、お爺ちゃんは喜んでくれてたよ~~?
お連れのお嬢さんは、全くだったけどね……」
説教するカリスに対し、エドガーは全く悪びれた様子はなく、レアリーの態度を思い出し、乾いた笑みを浮かべていた。
「はぁ~~~。
どうするかな~~、あの感じじゃまた来るぞ~~??
――ファラとも相談だな」
「良いじゃんッ! 上手くいけば事業拡大だよッ!?」
前向きに捉えているエドガーは、続けてポジティブな事を言うが、カリスには全く響いて無く、二発目のゲンコツを、先程よりも少し威力のある形で、エドガーはくらう。




