推しの令嬢、守護します! 0
10月24日。
気温は低くなり続け、もう冬といっても過言ではない程に、冷え込む日々。
午前9時、予定の1時間前に起床し、身嗜みを一通り整え、電気も付けずに一人、青年は時間が経つのを待った。
「望~~ッ! そろそろ出るわよ~」
一階から、母親の呼び掛けが聞こえ、望と呼ばれた青年は、纏めていた荷物を肩にかける。
「――よし、特に忘れ物ないよな。
もはや、恒例になりつつあるな」
誰もいない部屋で一人呟き、乾いた笑みを浮かべ、部屋を見渡した後、扉に手を掛ける。
「じゃ、今から向かうな」
誰もいない部屋、そして自分の部屋ですらないその場所に、望は一言、そう告げると、扉を開き部屋から出た。
上原 奏。
10月24日は、上原 望の妹、奏の命日であった。
彼女は4年前に、自ら命を絶ち、上原一家は必ず、その命日には家族全員で墓参りをする事にした。
母親に呼ばれた望は、妹が生前使用していた部屋から出て、二階から降り、そのまま玄関を通り、外へと出た。
外には既に支度を終えた、母、香の姿があり、家の小さな駐車場にある自家用車には、父、雅の姿があった。
父は車のエンジンを入れ、アイドリングさせながら、家族を運転席で待っていた。
「母さん、花は? 持った??」
「持ったわよ~、当然。
アンタも早く乗っちゃいなさい」
香は、軽く手を振り、早く車に乗り込めと言わんばかりに、ジェスチャー交じりでそう急かした。
断る理由もない望は、香の指示に従い、素直に車に乗り込んだ。
車に乗り込むなり、雅とは特に会話する事も無く、少しの間、沈黙の間ができる。
特にする事も無い望は、スマホを取り出し、時間を潰そうとしたが、ポケットからスマホを出した所で、父から声が掛かる。
「大学はどうだ? 教員の研修とかはまだか??」
「え??」
急な話題の提供に、望はすぐに受け答え、出来なかったが、一呼吸間をおいて、その質問に答え始める。
「大学は……、まぁ、ぼちぼちって感じだよ。
教員の研修は、まだまだだよ??
卒業してから」
「そ、そうか……」
息子との会話には慣れてないのか、雅は少しどもりながら、気まずそうに相槌を打つ。
そして、再び少しの間、沈黙が流れ、会話のテンポ悪く、雅は再び話題を上げる。
「――か、彼女とか……、そうゆうのはどうなんだ?」
「はぁ??」
唐突すぎる話題に、思わず聞き返してしまい、雅は少し慌てた様子で、続けて話す。
「いや、そうこと話した事ないしな。
家とかにも連れてきたりとか……無いしな」
「なんだよ急に……。
いないよ彼女。
――てゆうか、家に連れてくるって、なんじゃそりゃ……。
親父の年代でもホイホイ実家に彼女連れてったりしないだろ~……」
香となら兎も角、雅、父親とはこういった話を、望はした事が無く、そもそも会話自体、極端に少ない間柄であった事から、どんどんとこっぱずかしく感じ始めていた。
そして、そんな話をしている中、香が遅れて車に乗り込んできた。
「――なに? 何の話??」
香は助手席に座るなり、旦那である雅と、息子である望が会話しているのが、奇妙で好奇心を掻き立てたのか、会話の内容を尋ねてきた。
「いや、なんか大学の事とか……。
後、急になんか、彼女いるのか?とか……」
依然として恥ずかしさが抜け切れていない望は、少し言い淀みながら、母親に会話の内容を伝えた。
「――ぷッ!! あははッ!
お父さんと?? 何でそんな話~??」
「いや、俺に聞かれても……」
望の答えを聞くなり、香は笑い声をあげ、後ろの席に座る望には、雅の表情は見えなかったが、雅は何も言わず黙り込んでいた。
そして、一笑い終えると、香は望に向かって、雅とやり取りしていた会話を広げ始める。
「あれ? アンタ、彼女居たわよね?」
「――何ッ?」
香は、後ろにいる望に振り返りながら訪ね、先程の会話では、彼女がいないと伝えられた雅は、疑問を感じながら、声を上げた。
「いや、いないから……」
香の言葉に、望は呆れながら答え、望の言葉を聞きながらも、香は納得のいっていないような表情を浮かべる。
「えぇ~~?? ほら、こないだウチに来た子は~~??
あの子、彼女じゃないの?」
「ホイホイ連れて来てるじゃないか…………」
香の疑問は留まることなく、香の言葉を聞くなり、雅は何やら一人でポツポツと呟いた。
雅の対応よりも、香の対応が先決だと感じた望は、一旦、雅の呟きは聞かなかった事にし、香の言葉に反論する。
「あれは、友達ね?
彼女じゃないから……。
それに、偶々俺の地元に立ち寄ったから、実家に案内しただけ……」
望は付け加えるように、雅への反論もし、少し呆れた口調で、弁明した。
「へぇ~~~、ふ~~ん」
「とゆうか、もう揃ったんだから、出発しなよ」
香は、完全に納得したという様子では無かったが、一言呟きながら、ようやく前を向いてくれ、望は、雅に出発を急かした。
◇ ◇ ◇ ◇
上原家の先祖が眠る墓へと訪れると、墓に付くなり、香は墓の状態を確認する。
「それじゃ、お父さんとお母さん、ちょっと水汲み行ってくるから」
掃除が必要だと考えたのか、雅と水を汲みに行ってくると、望に告げ、雅も素直に香に従う形で、既に辺りをキョロキョロと見渡し、桶を探していた。
「ん、了解」
香の言葉に、望は反応し、母親を見送った後、一足先に墓前へ片膝を付く形で、座り込んだ。
「――よッ、半年ぶり」
望は、定期的に気が向いた際に墓参りをしており、祖先の墓に一緒に埋葬された、上原 奏に会いに来ていた。
「今日は、墓参りと一緒に、お前に渡したい物があったんだ」
望は明るい声色でそう言いながら、手提げのバックから一つのゲームソフトを取り出す。
「ほれ、『LOVERS2』、お前が生前、めちゃくちゃ好きだったゲームの続編ッ!!
パッケージめちゃ良い感じだろ~~」
ニヤニヤと笑みを浮かべながら、勿体ぶる様に墓石にゲームソフトをチラつかせる。
「いや~~、何年振り? 続編出るとは言ってたけど、結構かかったよなぁ~~。
兄ちゃんも、お前があっちに行った後、やったけど、良いゲームだよな。
まぁ、乙女ゲームだから、最初ちょっと抵抗あったけどな」
望は、前作『LOVERS』のゲーム内容を思い返しながら、乙女ゲームに少し抵抗を持ちながら、不器用ながらにプレイしていた事を思い出した。
「掃除終わったら、改めて供えるな?
――それに、驚くなよ?? 実は、二本目も買ってます! 特装版ってやつな?」
旗から見れば、明らかに不審に見える光景だったが、望はそんな事一切気にする事無く、まるで本当に人と会話しているかのように話し続ける。
「当時学生の癖に、お前、よく言ってたもんな。
出来れば二本欲しい、観賞用と実用としてとか……。
まぁ今回は、盗難された事も危惧して、二本だけどな? 盗難用と保険用?? 言い方分からんけど。
特装版は家の仏壇に供えて置くから、気になったらウチに来な」
望は優しくそう呼びかけ、一旦、カバンにゲームソフトをしまった。
そうしたやり取りをした最中、水汲みを終えた香達が、望のところまで戻ってきた。
「アンタまた一人でぺらぺらと。
周りから見たら変人よ?
ねぇ~? 奏~~?」
望にピシャリと小言を言うなり、香も楽し気にそう墓石に語り掛け、掃除の準備を始めた。




