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転生

「気持ち悪ぃな、死ねよ!!」


 勢い良く身体が吹き飛ぶ。衝突先のフェンスが激しく音を鳴らす。


 ボクシング部【顔砕きの竹中】。その異名を冠する彼のパンチは正しく圧巻で、僕の三半規管はその一瞬で機能を停止した。


 逃げようと背を向ける僕の金玉を、サッカー部【玉砕きの長野】が蹴り上げる。今度は野球部【肩砕きの佐伯】が、股間を押さえ無防備になった僕の上半身をお得意のデッドボールで破壊する。僕は地面に倒れ、粗い地面に顎を削られる。


 ここよりも人目のある場所へ―――

 芋虫のように。体をくの字、Iの字と交互させ彼らとの距離を取る。校舎裏の湿った砂利がジャージに纏わりつく。


「ウェ〜イ、僕君。逃げないでよォ~」


 僕に追い付いた彼らは再び、競い合うかのように痛覚を与えてくる。田中・長野・佐伯。最も効率よく人を苦しめるのは一体誰のスポーツなのか?全く新たな異種試合が今、ここで開催されていた。


 呼吸をする度に肋骨が肺に食い込むので、酸素と痛みを天秤に賭ける。僕は呼吸をしないことを選んだ。あーでもやっぱ苦しい。ちょっとだけ吸おう。

「あは”ッ!あ”は”ッ!あ”あ”ーーーッ!」

 こうして膨らんだ横隔膜が再び縮まるとき、ついでに押し出た大量の血液が長野の限定アディダスを鮮やかに彩る。


「ッーーー!!この野郎、この野郎、この野郎、この野郎!!!!」

 激昂したサッカースパイクが腹部にめり込む。その勢いに引けを取るまいと、佐伯もバットで全身を叩く。エスカレートするリンチ。


「死ねッ、死ねッ、死


 目が覚めた。


 ごうんごうんと、一定周期で地鳴りが聞こえる。無骨なコンクリートの感触を頬に感じる。


 ああ、眼窩が出血してるのか。目を開くと、磨り硝子越しに見たように世界が霞んでいる。遠近感が不明瞭なまま腕を伸ばすと、指の先にアルミパイプの感触を覚える。それは何だか暖かかった。


 そうか、ここはボイラー室。気絶した僕が発見されることを恐れた彼らが、このボロ部屋まで連れてきたとか、まあそんな所だろう。


雑に取り付けられた換気口が一つ、外界から際限なく湿気を取り込んでいる。室内だというのに、嫌に湿った空気が傷口をなぞっている。空調設備などという上等なものは、この部屋ないようだ。


 気絶から復帰した僕の時間感覚は完全に麻痺していた。立ち上がるのに何十分を要したのかすらまるで分からないが、2本の足で立ち上がった時、軽い感動を覚えた。そうだ、帰ろう。お風呂にも入ろう。それから、しばらく高校に通うのもやめよう。

今後の生活に僅かな安堵と希望を持った僕は、鉄扉から生えた冷たいドアノブに力を入れるも開かない。


 それから3秒ほど硬直したが、あの体育会系三銃士による仕業と考え合点がいく。はぁ。最後まで嫌な奴らだ。


高校生、餓死死体で発見される。そんな新聞記事が脳裏に浮かぶ。


 僕は再び、2メートルほど天井を仰ぐ。

 ……やっぱ、ここしかないよなぁ。


 ボイラー室に入って左手。後半戦のジェンガのように積み上げられた机と椅子だが、それらが対になっている様子はない。足が破損していたり、微妙に型番が違ったりとちぐはぐだ。

それら灰色の面を、僕は埃だと思って持ち上げる。だが想定に反し、手元はぐちょりと音を立てる。カビ。傷口から入った微生物たちが体内でどう作用するのか想像を張り巡らせつつも、何とかバベルを完成させた。


 4つの机を土台に、その継ぎ目に椅子の足を噛ませる。その設計思想が功を成したのか、そのタワーは多少ぐらつくものの、一人の高校生を乗せたところで崩れる様子はなかった。

 目前には大きめの換気扇が、がたがたと音を立てて稼働している。僕は靴を脱ぐと、回転するプロペラの隙間にねじ込む。停止したファンの外枠に指をかけると、カチリとした感触を覚える。枠を引っ張ると、四角く縁取られた真っ黒な世界が現れる。もう完全に夜だ。その狭い領域に下半身をねじ込むと、重力に引き寄せられた身体が再び地面と衝突する。2m分の位置エネルギーを慣性に変換した僕の身体は、ボイラー室から遠ざかる形で3回ほど横ローリングを決める。そういえば、ボイラー室の横は駐車場で、老朽化の進む校舎の修繕に、夜まで業者が出入りしていたなあ。僕はすぐ横に迫る大型トラックの荷台を見ながらそんな事を考えた。そして上半身が押されて転ぶとそのまま後輪に巻き込まれて死んだ。


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