【第99話 災いは空を選ばない】
白い砲光が、一直線に迫る。
フォティはすでに空の只中にいる。
不格好な推進。
揺れる姿勢。
荒い呼吸。
空戦の型など知らない。
ただ、飛ぶことだけを覚えた身体。
三隻の遊撃艦が扇状に広がる。
逃げ道を削る配置。
撃たれる。
避けきれない。
フォティは歯を食いしばる。
だが、叫ばない。
胸の奥に灯る光を、ただ広げた。
押し出さない。
叩きつけない。
広げる。
砲光が触れた。
爆ぜない。
衝撃が、消える。
白い砲撃は白金に溶け、
形を失い、
空気にほどける。
「……あれ?」
フォティは飛び続けている。
落ちていない。
敵が揺れる。
一隻が横へ逃げる。
フォティは旋回しながら追う。
撃たない。
ただ、触れる。
光が機体の影を舐める。
影が薄くなる。
金属の輪郭が曖昧になる。
機体が、飴のように柔らかくなり、
溶ける。
爆炎はない。
空に、静かに崩れ落ちる。
二隻目が急上昇する。
フォティは加速する。
推進はいつもの飛び方。
だが光は違う。
機体の縁に触れた瞬間、
影が消える。
翼が歪む。
機体がねじれ、
そのまま空に溶ける。
三隻目が正面から突っ込んでくる。
覚悟を決めた軌道。
フォティは減速しない。
ぶつかる。
交差の瞬間、
白金の光が機体を包む。
中央に細い線が走る。
上下がずれる。
音が遅れて来る。
機体は溶け、
崩れ、
消える。
フォティはその間をすり抜ける。
空は静まり返る。
爆発も煙もない。
ただ、白金の粒子だけが後方へ流れる。
だが。
その余波がノーグレイブを掠めた。
追加装甲の表面が、
じわりと溶ける。
「……おい」
バルドの声は低い。
怒りではない。
理解を拒む声。
オズマが計器を見つめる。
数値が異常に振れている。
「……これが魔法?」
誰に問うでもない呟き。
そして、続ける。
「いや……これが魔法だというのなら」
フォティを見て、
「ただの災害じゃないか」
フォティは振り返る。
「え? 普通にやっただけだけど」
本気でそう言っている。
その無垢さが、重い。
バルドが、空を見たまま低く言う。
「……村一つ、消えた時と同じだ」
その言葉で、
空の色が変わる。
――焦げた匂い。
――崩れる屋根。
――白い光。
視界が二重になる。
空ではない。
地面だ。
叫び声。
逃げる足音。
倒れる影。
自分の手が光に包まれている。
影が消える。
建物が形を失う。
人影が揺らぐ。
そして――
静寂。
「……っ」
フォティの呼吸が止まる。
頭が軋む。
忘れていた。
いや、
忘れたことにしていた。
あの後、
何も思い出せなかった。
名前も。
場所も。
ただ、
ルコールに拾われたことだけ。
あの光は、暴れた。
地上で。
今と、同じように。
違うのは、
空だったか、
地面だったかだけだ。
フォティの喉が鳴る。
もし。
もし今、
下に街があったら。
もし人がいたら。
自分は――
船内から、かすれた声が届く。
「……ふぉてぃ」
ミラだ。
その声で、
白金が揺らぐ。
光の温度が落ちる。
災いの光が、
人の光へ戻る。
フォティはゆっくり息を吐いた。
「……戻る」
推進を整える。
今度はいつもの飛び方だ。
不格好で、
危うくて、
必死。
ハッチへ滑り込み、
床に転がる。
心臓がうるさい。
手が震える。
強さの震えではない。
思い出したからだ。
自分が、
ただの少年ではないことを。
バルドが何も言わない。
オズマも沈黙する。
ミラの手が、
そっとフォティの袖を掴む。
温かい。
その温度が、
現実だ。
空は何事もなかったように広い。
三隻の遊撃艦は、
跡形もない。
焦げた装甲の匂いだけが、
静かに残っていた。
フォティは、自分の手を見る。
光は、静かだ。
だが確かにそこにある。
忘れていたもの。
自分が、何であるか。
災いになり得る存在だということを。
そして――
それでも、
人でありたいと願っていることを。
(第99話 了)
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勤労に感謝を。働き続けた男の、転生スローライフ
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